コンテンツへスキップ

前へ ホームへ 次へ

 

第□章 ※either killed жe♪(非)日常編Ⅱ

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

『ポッポーポッポー』

 

(朝のチャイムに続けて、ハトが鳴く。わたしは扉の外へ向けていた視線を時計へ向けた。)

 

(1時間に1回 時を告げるハト時計も、夜時間は鳴らないらしい。ハトは昨日と変わらず、白い体を時計に入れたり出したりしている。)

 

(夜時間、前谷君に動きはなかった。この章で必ず事件に関わってくるはずの彼。彼を見ていればーー…)

 

「……。」

 

(寝不足続きの上の徹夜で頭がグラグラする。)

 

(わたしは痛む頭を押さえながら、薄く開いたままだった扉を開けた。)

 

「白銀さん、おはようございます。」

 

「あ…まみ君、おはよう。」

 

(扉を開けた瞬間 斜め前の扉が開き、天海君が現れた。彼は疲れた顔を無理やり笑顔に変えて挨拶をくれた。わたしも挨拶を返して目を逸らした。)

 

(天海君の顔が ちゃんと見られないのは…あの夢のせい。)

 

(ーー違う。わたしが、やったことのせい…だ。)

 

「……白銀さん?どうかしたんすか?」

 

「…あ。あはは、寝不足で。もう少し寝てたかったけど、朝のアナウンスと部屋のハト時計で飛び起きちゃったよ。」

 

「ハト時計?ああ、前の”大富豪の家”にあったような時計があったっすね。オレの部屋はハトじゃなくて野球アナウンスが流れるっすよ。」

 

「えーと…統一感があんまりないね?」

 

(なるべく彼を視界に入れないように、それを悟られないようにリビングへ足を動かした。)

 

 

【ホーム リビング】

 

「よう。」

 

(リビングに入ると、郷田君が こちらを見た。その眉根は不機嫌そうに寄せられている。)

 

「あれ?郷田君が1番乗りっすか?珍しいっすね、ローズさんと山門さんは?」

 

「スーツ女は朝からフラフラしてやがったからな。部屋に押し込んだ。チャイナ女が今メシを持ってってる。」

 

「そっか。心配だね。」

 

「…テメーらは どうなんだ。2人して寝てねーのか。」

 

「…俺は大丈夫っすよ。割と慣れてるんで。」

 

「うん、わたしも。確かに安眠熟睡はできてないけど、徹夜作業とか慣れてるし。」

 

「テメーら……。」

 

(わたし達の発言を聞いた彼の眉間のシワが みるみる内に濃くなっていく。彼が口を開いたところで、リビングに みんなが入ってきた。)

 

「……。」

 

(郷田君は舌打ちしながらキッチンに向かい、全員分の食事を持ってきてくれた。)

 

(温かいスープを飲むと、頭の痛みが少しだけ柔いだ。ホッと一息ついたところで、郷田君が口を開いた。)

 

「今日の探索だが…緑頭。テメーは限界だ。寝てろ。」

 

「…大丈夫っす。見た目より元気っすよ。」

 

「外はトラップいっぱい。冒険家が頼みの綱。……でも、具合が悪いなら無理しないで。」

 

「そうですね!天海先輩、安心して休んでいてください!たとえトラップが何であっても、先輩方は自分が守ります!」

 

「いや。デカブツ、テメーもだ。昨日ケガしてんだから、今日は休みやがれ!」

 

「いえ!かすり傷です!自分は行きます!!今日こそ、みなさんを守れるように!」

 

「……郷田君。午後まで休むんで、それから出発なら どうっすか?」

 

「チッ…。絶対 休めよ。」

 

「あ…今日は、わたしも行きたいな。」

 

「あ?」

 

「……あたしも行く。」

 

「いや、テメーら…。」

 

「みんな行くなら、私も行こうかしらぁ。山門さんの看病はローズさんが残ってくれるでしょうから。」

 

「昨日は途中からモンスターも出てこなかったから初日よりは危険が少ないと思うよ。」

 

「引きこもりも病気の元。」

 

「…勝手にしろよ。」

 

(朝食後、各々 体を休めたり探索のために散り散りになった。)

 

 

「あ、前谷君は昼まで どうするの?一緒にいてもいいかな?」

 

「え!?」

 

(わたしが前を行く前谷君に声を掛けると、彼は真っ赤になって仰け反った。隣にいた妹尾さんは、それを半目で呆れたように眺めた後、わたしを見た。)

 

「……お姉ちゃん。何で前谷お兄ちゃんなの?」

 

「……ええと、なんとなく?」

 

「……。」

 

(しばらく わたしを睨み付けた後、妹尾さんは「ふんだ!」と顔を背けて走り去って行った。)

 

「ええと…今から どうする?前谷君、ケガしてるし…部屋で休む?」

 

「いえ!じ、自分は、白銀先パイに、お、お供します!!お好きなところに どうぞ!!」

 

(今度は顔を真っ青にして、彼は言った。忙しい顔色だ。少し申し訳ない気持ちが湧いたが、彼を解放するつもりはない。)

 

「それじゃあ…」

 

 

 もう1度地下を調べよう

 みんなの様子を見よう

全部見たね

 

 

 

(昨日、発表された動機…。あれが、どういうものか、わたしは確認しなきゃいけない。)

 

「前谷君は、地下 降りたことなかったよね?」

 

「ええ!モノクマが行ってもムダだと言ってましたから!素直に従っています!」

 

「うん。確かに、無理だと思うんだけど…」

 

(わたしは少し声を落として彼に近付いた。)

 

「何とかモノクマを足止めできないかな?例えば、あなたが地下に行けばモノクマが止めに入る。そこで足止めして、その隙に わたしが地下を進む。」

 

「それか反対に わたしがーーって、大丈夫?」

 

「ま、まか、まっかしてくだひゃいっ!モノクマ、をっ自慢の寝技でダウンさせます、よ!!」

 

「……それは校則違反になっちゃうよ。」

 

「だ、だ、大丈夫どぇす!みっみなさんのためなら、自分の命なんてっ!」

 

「……。」

 

(わたしが彼から離れると、やっと彼は大きく息を吸った。近すぎたらしい。)

 

「…やっぱり、やめておこう。」

 

「ぜはー、はー、な!?何でですか!?」

 

 

back

 

 

 

「山門さんの体調が悪いんだったよね。ちょっと様子を見に行ってみない?」

 

「は…はい!」

 

 

 

【ホーム 山門の個室】

 

「どうぞ。開いていますよ。」

 

(廊下の1番 奥、山門さんの部屋をノックすると、返事があった。そこには、布団を掛けてベッドに腰掛ける山門さん。と、その前の椅子に腰掛けた郷田君。)

 

「おう。テメーらか。」

 

「な、なな何やってんですか!郷田先輩!!女性の部屋で2人っきりなんて!し、しかも、ドアを閉めて!!」

 

「あ?何だ、テメー。仕方ねーだろ。他の女どもが見当たらなかったんだからよ。」

 

「郷田くんが果物を持ってきてくれたんですよ。せっかくですから ご一緒にと、わたしが誘ったんです。」

 

「あ、そ、そうですか…。」

 

(目を白黒させている前谷君の隣で、わたしは山門さんの様子を観察した。いつも通り穏やかな表情だけど、その目の光は弱々しい。)

 

「山門さん、大丈夫?体調悪いって聞いたけど…。」

 

「大丈夫ですよ。郷田くんとローズさんが少し大袈裟なだけです。」

 

「大袈裟じゃねー。」

 

「せっかくですから、白銀さんと前谷くんも一緒に果物をいただきませんか?」

 

「あ…うん。ぜひ、いただくよ。」

 

(しばらく4人で話した後、部屋を後にした。)

 

 

 

【ホーム ローズの個室前】

 

(部屋を出て、廊下を歩く。隣の部屋に差し掛かった時、そのドアが開いた。)

 

「わっ。」

 

「アイヤ、シロガネ。大丈夫デス?」

 

(ドアに ぶつかりそうになった。そんな わたしを、ドアを開けたままローズさんが覗き込んでいた。)

 

「う、うん。大丈夫。」

 

「ごめんなさいねぇ。びっくりさせたわねぇ。」

 

(ローズさんの部屋から夕神音さんも出てきた。女子率が高くなったせいか、前谷君が居心地悪そうな顔をした。)

 

「お、おっふ、お2人とも、ご一緒だったんですね!!」

 

「はい。ユガミネ説得中デス!今は無理矢理ヤマト先生の部屋に連れ込もうとしてイマス。」

 

「説得?」

 

「ユガミネ歌いマセンと言いマシタ!ですが、ワタシはヤマト先生にユガミネの歌 聞いてクレタイ!」

 

(聞かせたいってことかな…?)

 

「ローズさん、私は決めたのよ。だって……。」

 

「……。」

 

「マツイのせいデスか?」

 

「あ!なるほど!!松井先輩は夕神音先輩のために殺人をーー…ってスミマセン!!」

 

「いいのよ。本当のことだものねぇ。最初の事件も前回の事件も…起こったのは、わたしの歌のせいだから。」

 

(そう言って、彼女は松井君からの手紙を懐から取り出した。)

 

「そんなことないです!!歌は単なる きっかけにすぎなくてーー…スミマセン!」

 

「……。」

 

「……。」

 

「ユガミネ、死んだマツイと生きているワタシ、どちらをソンチョーします?」

 

「……え?」

 

「ワタシ、アナタの歌 好き。マツイもアナタの歌 好き。マツイはインテリ風ヤンデレ変態ヤロウです。それはシカタナイ。」

 

(……どこで、そんな言葉 覚えるんだろう。)

 

「でも、ワタシはヤンデレでも変態でもインテリでもありません!ヘンサチ普通のクーデレノーマルアマ。そんなワタシの願いは、アナタが歌うことデス!」

 

「ローズさん…。」

 

(ポカンとする夕神音さん。ローズさんは そんな彼女の手にした手紙を奪い取った。)

 

「マツイの手紙がアナタの束縛系カレシ。それなら、」

 

「…あ。」

 

(ローズさんの手の中でビリリという音がした。)

 

「こんな手紙は、コウシテクレル!コウシテクレル!」

 

「……。」

 

「え…ちょ、ローズ先パイ!さすがに、そんな…」

 

「……オソレイリマス、スミマセン。でも、手紙に…死んだヤツに縛られマス、良くない。ウィドーはシャドーじゃないデス。」

 

「……。」

 

「分かったわ、ローズさん。私、もう1度 歌うわ。」

 

「えっ?今ので説得されたんだ?」

 

「私の歌なんかでも…好きでいてくれる人がいるなら歌った方がいいわよねぇ。」

 

「ワタシは、ユガミネにもユガミネの歌をオススメします!」

 

「……。」

 

「ユガミネ、ユガミネの歌はオススメですよ!聞くにアタイスル!」

 

『パッポーパッポー』

 

(ローズさんは胸を張ってニカッと笑った時、彼女の背後で鳥の声がした。ローズさんの部屋の灰色の鳥が時間を告げている。)

 

「カッコーが鳴きマシタから、急ぎましょう!ユガミネ、ヤマト先生のゴゼンでウタウガヨイ。」

 

「白銀さん、前谷君、またねぇ。」

 

「えーと…。はい。また後で。」

 

「……言語を越えた交渉を見た気がするよ。」

 

(山門さんの部屋に夕神音さんを押すローズさんの背中を見送った。)

 

 

back

 

 

 

「ホーム内を見たけど…まだ出発まで時間あるよね。少し休もうか。」

 

「はい!では、白銀先パイ!また後でーー…」

 

「前谷君の部屋にいてもいいかな?」

 

「!!!?」

 

(わたしが言うと、前谷君は大きく仰け反った。ブリッジの体勢に落ち着いたせいで、わたしから見たら”首なしライダー”ならぬ、首なしレスラーだ。)

 

 

 

【ホーム 前谷の個室】

 

(前谷君の部屋も、わたしの部屋と変わったところはない。シンプルな部屋だった。)

 

(わたしはベッドの脇に置かれた椅子に腰掛けた。…が、前谷君が腰を落ち着ける様子はない。ドアの近くに棒立ちになっている。)

 

「前谷君?座らないの?」

 

「いえ!自分は!立ち仕事の方が似合っていますんで!!」

 

「でも、休まらないよ。」

 

(わたしがベッドをポンと叩くと、前谷君は絶句してから、こう言った。)

 

「……白銀先パイは…止める気なんですね。」

 

「え!?」

 

(止めるってコロシアイを?無理無理!何で わたしが…!)

 

「わたしには止められないよ。」

 

「いいえ!先パイは止める気です!……自分の息の根を!!」

 

「だから、止める気なんて…え?」

 

「白銀先パイは自分を殺そうとしているんです!」

 

「え?え?誤解だよ。」

 

「誤解じゃありません!密室に女子と2人きり!ここは今まさに真空状態!いくら自分でも20分しか持ちません!!」

 

「真空状態なら1秒も持たないからね!?…お、落ち着いてよ、前谷君。」

 

(さすがに、それで わたしがクロになったら嫌すぎる。)

 

「白銀先パイだって、密室で自分みたいにデカい男と2人きりなんて嫌でしょう!?それなら、自分は ここで破裂しますから!!」

 

「どう考えても目の前で破裂される方が嫌だよ!!本当に落ち着いて?わたしが無理に来たんだから。ほ、ほら、窓 開けるからさ!」

 

「う…うう…。」

 

(わたしがベッド脇の窓を開けると、少し落ち着いたらしい。前谷君は唸りながら深呼吸した。)

 

「えーと、前谷君。もしかして、女の子みんなが前谷君みたいな大きい人を怖がってるって思ってる?」

 

「そ、それは…そうでしょう。ただでさえ男の方が力がある上、大きい分…。」

 

「女の子も前谷君が思うほど警戒しないものだけどなぁ…。」

 

「え?そ、そうなんですか?」

 

「もちろん、さすがに全然 知らない人は警戒した方がいいけど、信頼している人に対しては嫌だなんて思わないんだよ。」

 

「山門さんも郷田君と一緒に部屋にいたでしょ?わたしも作業で缶詰めの時は真夜中でも、男性が近くにいても、普通に仮眠取るもん。」

 

「そ、そうですか。そういうものとは…知りませんでした!!」

 

(素直に感心したような声を出しているものの、彼の汗は止まらない。)

 

「……ブラジリアン柔術って、あまり知らないんだよね。教えてくれる?」

 

(喜んで話してくれそうな話題に変えると、パァッと前谷君が表情を変えた。そして、普通にベッドに座ってキラキラした目で話し始めた。)

 

「実は、自分はブラジルに行ったことないんです。ポルトガル語も少ししか知らなくて!!タバコとかカルタとかカステラとかカッパとかブランコとか!」

 

「それは、もはや この国の言葉になった外来語だよね。」

 

「はい!南米のポルトガル語は少し違うのですが、自分は是非 1度はブラジルに訪れようと勉強してまして…!」

 

「ブラジルかぁ。地球の裏まで配管工が行ってたよね。それから5年後の『ロトのテーマ』良かったなぁ。あの曲、みんな勇者!って感じがいいよね。」

 

「あ、勇者じゃなくてもいいのか…。モンスターマスターとかビルダーとかお宝ハンターとか……」

 

「あ、あの…?白銀先パイは何の話をしてるんですか?」

 

「え、あれ?この話、別に趣味に偏りすぎてないよね?世界的なスポーツの祭典でーー…あ。」

 

(そっか。時間的に、V2キャラが知ってるはずないんだ。)

 

『ポッポーポッポー』

 

(その時、部屋のハト時計が鳴った。白いハトが12時を告げている。)

 

「あ。前谷君の部屋もハト時計なんだね。」

 

「え?は、はい。1時間に1回、出たり入ったりしてますね。」

 

「わたしの部屋もハトだったんだよ。」

 

「あれ?どこも同じじゃないんですか?」

 

「天海君の部屋は野球のアナウンス?が流れるんだって。ーーそろそろ、ご飯 食べて出かける時間だし、行こうか。」

 

「あ、す、すみません!自分はシャワーを浴びてから行きます!!」

 

「シャワー?昼に浴びる派?」

 

「起きてから半年分の脂汗を掻きましたから…!」

 

「そ、そっか…。それじゃ、また後で。」

 

(さすがに、部屋を出た方がいいと判断して彼の部屋から退出した。)

 

(と、ちょうど斜め向かいの扉が開いた。手に可愛い包みを持った妹尾さんが驚いた顔をして、それから顔を しかめた。)

 

「…そこ、前谷お兄ちゃんの部屋だよね?」

 

「うん。ちょっと お邪魔してて…。」

 

「ハア?つむぎお姉ちゃん、前谷お兄ちゃんと2人っきりだったってこと!?」

 

「え?うん。そうだけど…」

 

「あり得ない!!つむぎお姉ちゃんってガバガバなの!?ほんっと!あり得ないー!!男はオオカミなのよー!」

 

「ええと…年頃になったら慎みなさいってこと?」

 

「男なんてペロペロ愛を与え続けないと愛をくれないんだから!男なんてアンパンに載ったゴマつぶみたいな存在なんだから!!」

 

(茶柱さんみたいな…いや、むしろ開盟学園のウサミみたいなこと言い出した。)

 

「妹尾さん、性別をクソデカ主語にしすぎると生きづらいと思うよ。あと、手に持ってるの何?」

 

(わたしへの忠告と共にブンブンと振り回される包みが さすがに気の毒になって言う。と、彼女は「何でもない」と それを後ろ手に隠した。)

 

「可愛いラッピングだね。もしかして、プレゼント?天海君、喜ぶといいね。」

 

「……。」

 

「妹尾さん?」

 

「……あたしは、やっぱり…男の人を好きでないと価値がないのかな。」

 

「え?どういう?」

 

(聞き返そうとしたものの、彼女は「何でもない」と叫んで部屋に入ってしまった。)

 

 

 

【ホーム 玄関】

 

(昼食を食べて、全員が玄関に集まった。)

 

「みなさん、お気をつけて。」

 

「中華女、ヤマトナデシコが起きてこねーように見張ってろよ。」

 

「ガッテンデイトレード!」

 

(山門さんとローズさんに見送られて、わたし達はホームを出た。)

 

 

「本当に、全然 違う地形になってるのねぇ。」

 

「うん。昨日とも変わっているよ。」

 

「えー?毎日 変わってるってこと?」

 

「とりあえず、モノパッドも更新されてるっす。それ見ながら進みましょう。」

 

(天海君の言葉の通り進む。ホームから数分の場所に、左右に分かれた道があった。)

 

「地図だと向かって左は行き止まりっすね。一応 見ておきましょう。」

 

(左側に進んで すぐ、部屋があった。洞穴になった広い空間。ナイフでも落ちてそうな雰囲気だった。)

 

「ここ、すごく声が響くね。ホームまで聞こえそうだよ。」

 

「でも、この部屋にも何もなさそうだね。」

 

「ホームの右側へ行ってみましょう。」

 

 

(それから、元の道に戻って右側の道へ進んだ。2、3分の地点で、また天海君が声を放った。)

 

「みなさん、待ってください。ここもトラップです。」

 

(開けた場所に出るための通路の前。3mほどの通路の壁にボタン。その天井は他と色が違う。)

 

「…ここのボタンを押さないと、通路の天井が落ちてくるようっすね。」

 

(天海君がボタン近くの注意書きを見ながら言った。)

 

「天井が落ちる?ペチャンコ不可避。」

 

「白銀さん、ここのボタン、押しっぱなしにしてもらっててもいいっすか?俺が通りますんで。」

 

「え。う、うん。」

 

(言われた通りボタンを押す。特に通路に変化は見られない。そんな中、天海君が慎重に通路を渡って行った。そして通路の向こう側から言った。)

 

「大丈夫みたいっす。こっちのボタンを押し続けてますんで、みなさん渡って来てください。」

 

(何か起こりそうな通路を恐る恐る通り、次の部屋に入った。それから、様々なトラップを抜け、しばらく歩いた時だった。)

 

 

「あれ、何だろう。」

 

(一本道の先を哀染君が指差す。その先には、頭からシーツを被ったようなオバケモンスターが20mほど先の通路に横たわっている。)

 

「寝てるのかしらぁ?」

 

「し、死んでいるのかもしれません!」

 

(ジリジリとゆっくり近付いていた、その時。突然そのモンスターはムクリと起き上がった。そして、こちらから遠ざかって行く。)

 

「逃げるぞ!!」

 

「…!!」

 

(天海君が いち早く駆け出したーーけれど、モンスターはスゥッと姿を消した。)

 

「逃げちゃった…。」

 

「あーあ。逃げちゃったねぇ。」

 

「モノクマ…!」

 

(消えたモンスターの代わりにモノクマが音もなく現れた。)

 

「……。」

 

「モンスターを見逃がしたら どうなるか、言ったよね?」

 

「え…。まさか…」

 

「うぷぷぷ、そう。全員、処刑だよ!」

 

「……。」

 

「そ、そんな…!」

 

「モノクマ、ボク達は倒そうとしたよ。でも、今のモンスターは すぐ逃げたんだ。倒しようがない。」

 

「言い訳なんか聞きたくなーい!ルールはルール!ここでの特別ルールを守らなかった以上ーー…」

 

「…校則じゃないよね?」

 

「ん?」

 

「特別ルールは校則に記載されてない。だから、すぐ処刑なんて…おかしいよ。」

 

「……。」

 

「全員 死んだら、困るのは…あなたじゃないの?」

 

(わたしが言うと、モノクマはポカンとした顔を こちらに向けた。そして、静かに言った。)

 

「……よかろう。」

 

「え?……また、このパターン?」

 

「確かに、オマエラが全滅しちゃったら困るしね!ボクは砂漠で行き倒れた人に一滴の水をやるほど慈悲深いから、許してやるよ!」

 

「…行き倒れたヤツには いっぱいやれよ。」

 

「うぷぷ。今すぐ処刑は許してやるけど…ペナルティを与えます!」

 

「ペナルティ…?」

 

「コロシアイの制限時間を設けます!制限時間は明日の夜時間22時まで!それまでに死体が出なければ、コロシアイに参加させられた人は即死亡!」

 

「……!」

 

(何それ。それってーー…)

 

「処刑を先延ばしにできただけでも有難く思ってよね!」

 

「待ちやがれ!!ーーって、逃げやがった!」

 

「ど、どうしましょう!?明日までって!」

 

「明日までに殺しが起きなきゃ…みんな…?」

 

「明日なんて…すぐだわ。」

 

「どうしよう、つむぎお姉ちゃん!」

 

「……。」

 

「…みなさん、落ち着いてください。モノクマのハッタリっす。」

 

「……そうだね。ここまで来て、本当に全員を…なんて、考えられないよ。ね?つむぎ。」

 

「……そうだね。」

 

(天海君と哀染君の言葉で、一旦みんな落ち着きを取り戻したみたいだった。けれど、もう みんな気付いている。)

 

(モノクマのハッタリではない。モノクマは嘘が吐けないのだから。)

 

「とりあえず、今はできることをしましょう。脱出の手掛かりが見つかるかもしれないっすから…。」

 

 

(また更に歩くと、先日わたし達が落ちてきた場所に辿り着いた。変わらず黄色い花畑が広がっている。)

 

「ここは変わってないのねぇ。」

 

「はい!昨日も変わっていませんでした!」

 

「ここまでも、手掛かりはなかったね。」

 

「……戻りましょうか。」

 

(遺跡内にも隠し通路や扉は見つからなかった。手掛かりは…やっぱりホームの地下だけなのかな。)

 

(来た道を、全員が思い足取りで戻った。行きと同じトラップと地形。そこに油断があったのか、疲れていたのか。)

 

「うわぁ!」

 

(パカリと口を開いた床。そこに ぽぴぃ君の体が呑み込まれる…)

 

「ぽぴぃ先輩!!」

 

(と、肝が冷えたけれど、咄嗟に手を伸ばした前谷君によって彼の体は宙に留められた。)

 

「芥子!大丈夫か!?捕まれ!」

 

(郷田君も手を伸ばして、ぽぴぃ君はトラップから抜け出した。)

 

「馬鹿ヤロウ!!油断すんな!」

 

(血相を変えて叫ぶ郷田君の声が遺跡内に反響した。)

 

「……う、うん。ごめん、ありがとう…郷田クン、前谷クンも。」

 

「……。」

 

「光太クン。血が出ているよ。」

 

「…昨日の傷が開いたみたいです。」

 

「い、痛そうだよ!早く帰ろう!!」

 

「ご、ごめんなさい。ボクのせいだ…。」

 

「ああ!?モノクマのヤローのせいだろ!?とっとと帰んぞ!」

 

「大丈夫です。見た目より痛くないですから…。」

 

「……。」

 

「…帰りも先頭は俺が行くっす。みなさん、慎重に行きましょう。」

 

 

(その後、何とかホーム近くまで帰って来た。)

 

「…あのモンスター以外は出てこなかったね。」

 

「……そうっすね。」

 

「とりあえず、明日のタイムリミットのこと…山門お姉ちゃん達に言っといた方がいいよね。」

 

「……。」

 

「……山門さんとローズさんに言うのは…止めておこうよ。」

 

「え?」

 

「だって…あれはモノクマのハッタリでしょ?わざわざ不安になるようなこと、言わない方がいいよ。」

 

「……。」

 

「そう…なのかな。」

 

「…少なくとも、ヤマトナデシコには言いたくねぇ。ただでさえ弱ってるからな。」

 

「…そうっすね。2人には黙っておきましょう。」

 

 

 

【ホーム リビング】

 

「みなさん、オカエリナサイマセ。お風呂にする?ご飯にする?それとも、タワシ?」

 

「タワシを選んだら何が起こるのかしらぁ。」

 

「ヤマトナデシコは?」

 

「眠りていマス。ヤマト先生、お疲れデス。」

 

「後でメシ持って行くか。デカブツ、傷 開いたとこ手当てすんぞ。」

 

(それから、山門さんを抜いた全員で夕食を食べた。みんなの口数は少なかった。)

 

 

 

【ホーム 前谷の部屋】

 

「前谷君、いいかな。」

 

(夕食を終えて各自解散した後。彼の部屋をノックすると、前谷君が少し青い顔を覗かせた。)

 

「入ってもいい?」

 

「…え。は、はい…。」

 

「ケガ、大丈夫?」

 

「はい。でも…郷田先輩に明日は探索に来るなと言われてしまいました。」

 

「そっか。」

 

「自分は…肝心な時に何の役にも立てません。」

 

「ぽぴぃ君を助けたのは、あなただよ。」

 

(それに…きっと、明日までにみんなを”助ける”のも彼の役割。)

 

「……タイムリミットは…本当にハッタリなんでしょうか?」

 

「どうだろうね。ハッタリじゃなかったら…あなたは どうする?」

 

「……。」

 

(モノクマはハッタリは言わない。あれは、紛れもなくコロシアイの動機。それなら、動機を知る人間が少ない方が…都合がいい。)

 

「……。」

 

(お互い無言のまま、何事もなく夜時間を迎え、部屋を出た。ドアを開けると、目の前に妹尾さんと哀染君がいた。)

 

「やあ、つむぎ。」

 

「……。」

 

「妹尾さん、哀染君。前谷君に用事?」

 

「……。」

 

「妹子。つむぎに渡したいものがあるんでしょ?」

 

「…お姉ちゃん、あげる。」

 

(なぜか目が合わない妹尾さんは見覚えのある包みを差し出してきた。昼かわいそうなほど振り回されていたラッピングだ。)

 

「つむぎお姉ちゃん、ケーキ好きって昨日 言ったでしょ?だから…午前中 焼いたの。」

 

「え…。」

 

「な、何!?ケーキ好きって嘘だったの!?」

 

「え、ううん。好きだよ。ありがとう。」

 

「……。」

 

「妹尾さん?」

 

「つむぎ、妹子は照れているんだよ。」

 

「もー!哀染お兄ちゃん、うるさい!あっち行って!!」

 

「えっ…。妹子が一緒に来てって…」

 

「もー!言わないでよ!!勘違いされちゃうでしょ!」

 

「つむぎお姉ちゃんが昨日 聞いてもいないのにケーキ好きって言ったから!冷蔵庫にチョコもあったし作ってみただけ!!勘違いしないでよね!」

 

(テンプレートすぎるとか、昨日聞いたじゃん等のツッコミが頭を過ぎる。けれど、勢いよく言った彼女が黙って俯いてしまったので止めておいた。)

 

「……変な子だって…思ってるんでしょ。」

 

「え?」

 

「男の人に媚びてない あたしなんて…変だって…そう思ってるんでしょ?」

 

「な、何 それ?」

 

「ブラブラな男の人じゃなくてジミジミプリンにケーキ渡して変な子だって思ってるんでしょー!?」

 

「お、思ってないよ!?」

 

(っていうか、ジミジミプリンって、わたしのこと?”尻メガネ”以来の結構な罵倒だよ…。)

 

「妹子、落ち着いて。恋をしていてもしていなくても、それが異性でも同性でも、キミの魅力は変わらないよ。」

 

「哀染お兄ちゃん…。」

 

(泣きそうな顔をする妹尾さんの肩を叩きながら、哀染君が爽やかな笑顔を浮かべた。)

 

(……わたしは今 何を見せられているんだろう。)

 

(見方によってはトキメキのシーンなのに、なぜかスポ根を見ている気分だ。)

 

「…うん。そうだね。あたしの魅力は変わらないよね。」

 

(自分で言ってる。)

 

「つむぎお姉ちゃん。それ、残さず食べてね。」

 

(涙を拭った妹尾さんは満面の笑みを見せて自室に入って行った。哀染君は笑顔を崩さず「妹子をよろしく」と言ってから、トーンを落として続けた。)

 

「くれぐれも泣かせないでね。」

 

「哀染君…お父さんみたいだね。」

 

 

 

【ホーム 白銀の個室】

 

(昨日と同じく、薄く開いた扉に向かう形で椅子に腰掛けた。)

 

(夜中にチョコレートケーキ。コスプレダイエッターの大敵だ。昔の”白銀 つむぎ”なら、絶対 食べない。)

 

「…いっか。どうせ寝ないし…明日がタイムリミットだもん。」

 

(それに…人は変わり続けるものだから。)

 

(チョコレートケーキを一口 噛むと、優しい甘さが口の中に広がった。)

 

 

…………

……

 

(ガクンと体が揺れて目を覚ます。いつの間にか座ったまま うとうとしてた。)

 

(扉を開けて前谷君の部屋の様子を伺ったけれど、物音ひとつ聞こえない。防音になっているのかもしれないけれど、とりあえず異常はなさそうだ。)

 

(廊下に出たところで、1番 奥の部屋が閉まる音がした。)

 

(山門さんの部屋…。山門さんが外に出ていたのかな。)

 

(廊下の奥の彼女の部屋の前まで やって来た。控えめにノックをすると、「はい」と部屋の主の声がした。)

 

 

 

【ホーム 山門の個室】

 

「あ、白銀さん…。おはようございます。」

 

(ドアを開けてくれた山門さんの顔色は悪い。窓の外を見ていたのか、窓が開け放されていた。)

 

「山門さん。大丈夫?体調かなり悪そうだね。」

 

「……心配いりませんよ。薬がありますから。」

 

「……そう?でも、寝てなきゃ。」

 

(強がる彼女の背を押して、ベッドに寝かせた。ふと、テーブルの上のペン立てに目がいった。)

 

(ペン立てに立てられた1本の鉛筆が花のように見えて、より寂しさを感じさせた。)

 

(昨日、黄色い花を摘んで持って帰ってくれば良かったな。)

 

「…そんなに大したことじゃないんですよ。さっきも少し散歩しましたし。」

 

「やっぱり…外に出てたんだね。でも、1人で出るのは危ないんじゃない?」

 

「トラップの手前まで行っただけですよ。ホームの近くには落ちてくる天井のトラップがあるようです。」

 

「あ、それは昨日と同じトラップかも。」

 

「そうなんですか…。あの注意書きが分かるなんて、天海君は言語の才能もありそうですね。」

 

「やっぱり…天海くんの名前は彼にぴったりですね。」

 

「ああ、7つの海を股にかけた〜みたいな感じ?あ、それだと七海になっちゃうか。うん。でも、いい名前だよね。」

 

「白銀さんの名前も素敵ですよ。」

 

「そ、そうかな。」

 

「つむぎという名前は、ひらがなですよね。音を大切にする大和言葉の響きです。」

 

「ひらがなは漢字からできましたが、漢字が伝わる前から、この国の言葉には1音1音に意味やイメージがあったそうです。」

 

「そうなんだ…?」

 

「たとえば、『か』は激しい勢いや大胆さ、『き』は純粋さや無垢というのが、古来からのイメージだそうです。」

 

(かえで…かいと…きーぼ…。イメージぴったりだね。)

 

「『つ』は、元々は港を意味する大和言葉です。後から『津』という漢字が付けられました。港町に『津』が付く地名が多いのは、このためです。」

 

「あなたの ご両親は、『言葉を紡ぐ』あなたの旅路を応援したいという願いを込めたのでしょうか?」

 

「……どうだろう…ね。」

 

「どうしたの?山門さん。急に そんな話をして…。」

 

「出会った日にも お話ししましたよ。”白銀 つむぎ”…美しい しらべです。」

 

(あいにく、出会った日の記憶はない。……けれど、言葉を紡ぐ…か。)

 

「わたしが紡ぐ物語……それが嘘だらけでも…。」

 

「えっ…?」

 

(思わず呟いてしまった瞬間、部屋の中にカラスの鳴き声が響いた。)

 

 

『カァー、カァー』

 

「山門さんの部屋のハト時計、ハトじゃないんだね。」

 

「ええ。カラス時計…とでも言えばいいのでしょうか。」

 

「なんだか不吉だね。病気の時に聞きたくない鳴き声じゃない?」

 

「フフ…。一説によると、カラスにネガティブなイメージが付いたのは戦国時代かららしいですよ。」

 

「戦が起こり多くの人が亡くなると、カラスが集まりますから、カラスと死のイメージが結び付いたらしいです。」

 

「へー、そうなんだ。」

 

「わたしは、カラス時計 好きですよ。大昔、カラスは神の使いとされて…ゴホッ」

 

「山門さん!?」

 

(山門さんが咳き込み、手で口元を覆う。その手には血が付いていた。)

 

「山門さん、水とか持ってくるよ。待ってて。」

 

(わたしが山門さんの部屋の扉を開けると同時に、1つの扉が開いた。郷田君の部屋だ。)

 

「あ?メガネ女。何してんだ。」

 

「あ、山門さんが体調悪そうだからキッチンへーー…。」

 

「ああ!?水だな!?オレが持って来る!」

 

(そんな怒声を浴びせて、彼は廊下を駆け抜けて行った。わたしは山門さんに向き直った。その苦しげな顔を眺めて思う。)

 

(……もしかして…彼女も、そうなのかもしれない。)

 

(『ダンガンロンパ』が…わたしが設定した病気と…同じ。)

 

 

 

【ホーム リビング】

 

(それから、郷田君は山門さんの看病に残ると言って、わたしを追い出した。リビングで待っていると、みんなが朝食のために集まってきた。)

 

「ヤマト先生…悪いんデスカ?」

 

「うん…。血が出てた。」

 

「……脱出を急いだ方がいいっすね。」

 

「そうだね。……遅くても、今夜までに。」

 

「そうですね。タイムリミットもありますしーー…」

 

「前谷お兄ちゃん!」

 

「タイムリミット?」

 

「何でもない。何でもない。とにかく、今日 絶対に脱出しよう。」

 

(みんなが頷き合っていると、郷田君がリビングに入ってきた。)

 

「郷田君。山門さんは…?」

 

「……今は寝てる。だが、早く病院に連れて行かねーとヤバい。」

 

「じゃあ、今日 外で何か見つけマス!」

 

「……地下の秘密は…脱出の手掛かりにならないのかしら?」

 

「地下にありマスと言ったら、外にありマス!地下の秘密はハッタリです。」

 

「…そうっすね。俺は今日も外を探索します。」

 

「自分もーー…」

 

「ふざけんなよ、デカブツ!昨日も言ったが、テメーはダメだ!つーか、ケガで熱あんだろ!寝とけ!!」

 

「え?そんな…自分は、」

 

「郷田君、わたしが前谷君を見とくよ。」

 

「ひぇ…し、白銀先パイと…今日もですか…。」

 

(わたしの提案に、彼は恐れ慄く人の顔で声を上げた。)

 

「……その反応は、さすがに…地味に傷付くよ。」

 

「え、あ。そ、そんなつもりじゃないんです。緊張のあまり10回ほど吐くかもしれませんが、よ、よろっ…よろしくお願いします。」

 

「……あ、あたしは、外 行くから!いい?つむぎお姉ちゃん?」

 

「うん。気を付けてね。あ、ケーキ美味しかったよ。ありがとう。」

 

「……。」

 

(わたしが言うと、妹尾さんは複雑な表情を浮かべて俯いた。)

 

(それから緊張した様子のみんなと食事を共にして、外を探索する面々を見送るため立ち上がった。外に出るのは、わたしと前谷君と夕神音さん以外の6人。)

 

 

「それじゃ、山門さんと前谷君は、わたしに任せて。」

 

「いや、オレは昼にヤマトナデシコの様子を見にくる。昼メシ時に戻る。」

 

「山門さんの昼ごはんなら、わたしが届けるけど?」

 

「いや、ヤマトナデシコにも昼に戻るって言ってるからな。それに…デカブツもだが…メガネ女、テメーもフラフラだぞ。寝てろ。」

 

「……うん。」

 

(みんなが出て行った後、わたしは夕神音さんに向き直った。)

 

「夕神音さん。気が向いたらでいいんだけど…歌ってくれないかな?」

 

「……え?」

 

「山門さんの部屋の窓 開いてるんだ。夕神音さんの歌が聴こえてきたら…きっと元気になれるはずだよ。」

 

「そう…かしら。じゃあ、昨日ホーム近くで見た洞穴で歌おうかしら。音が反響して部屋まで聞こえるはずよね。あ、でも…また地形が変わってるのかしら?」

 

「今朝、山門さんは外に行ったらしいけど、聞いたところ昨日と変わってないみたいだよ。」

 

「あらぁ。そうなのねぇ。」

 

(夕神音さんが のんぴりした声を放ち、そのまま玄関から出て行った。)

 

「前谷君は部屋で寝ていないとね。」

 

「で、でも、タイムリミットもあるんですよ?寝ているわけにはーー…」

 

「いいから。」

 

(彼の背中を押す…までもなく、わたしの手が触れないように前谷君は自分の部屋に向かって行った。)

 

 

 

【ホーム 前谷の個室】

 

「え…。白銀先パイも自分の部屋に来るんですか!?」

 

「うん。少しだけ話をさせてよ。」

 

(なかなかベッドに入ろうとしない彼を誘導し、寝かしつける格好で隣に置いた椅子に座った。)

 

「……自分は…何をしているんでしょう。タイムリミットがあるかもしれないのに…皆さんを守ることもできず…。寝ているだけなんて。」

 

「前谷君、今できることを考えなきゃ。あなたができることは…何?」

 

「……!寝ることですね。分かりました。夜に備えて、しっかり英気を養います。」

 

「……。」

 

(肩の力が若干抜けて、急激に眠くなってきた。開けた窓から夕神音さんの歌が聴こえてきているからかもしれない。)

 

(そんな時、部屋のハト時計が鳴った。白い鳥が『ポッポー』と時間を告げている。)

 

「あ…山門さん、カラス時計のせいで起きちゃったかな。モノクマに頼んだら止めてくれるのかな。」

 

「カラス時計…?」

 

「うん。ここのハト時計みたいに、山門さんの部屋の時計はカラスだったよ。」

 

「そう…なんですか。」

 

「……白銀先パイ、もしタイムリミットが本当なら、自分はモノクマと戦います。」

 

「……無理だよ。モノクマには勝てない。それより、もっと簡単な方法が…あるはずだよ。」

 

「……。」

 

(わたしの言葉に彼は黙り込んだ。「でも」と言葉を続けた。)

 

「…あなたは、みんなを助けられる人だと思うよ。」

 

(横たわる状態の彼の瞳が揺れる。それを確認した わたしは、歌声に耳を傾けながら目を閉じた。)

 

…………

……

 

「し、白銀先パイっ。お、起きてください。」

 

「……。」

 

(肩を揺らされて目を開ける。ボヤけた視界の中で、前谷君が気まずげな顔をしているのが分かった。)

 

「あ…ごめん。寝ちゃってたよ。」

 

(反射的に確認した時計の針は12時半すぎを示していた。)

 

「か、かかかっ風邪ひきます。自分が、ホーム内を探索しますからっ…。」

 

「え?だって、前谷君…熱がーー…。」

 

「大丈夫ですっ。横になって、マシになりましたから…っ。」

 

「…そっか。じゃあ、わたしは山門さんの様子を見て…それから少し休むよ。」

 

「は、はい。お願いしますっ…」

 

 

(フラリと立ち上がった彼と共に部屋の外に出た。彼はリビングの方へ向かい、わたしは反対に廊下の奥へ歩く。)

 

(……まだ…生きてる、か。)

 

(……わたしが…彼に殺されようと思っていたのに。)

 

(心臓の音が うるさい。今更…怖いだなんて、馬鹿みたいだ。)

 

「……。」

 

(震える手を目の前の壁に当てる。そこに手を伸ばし、廊下の1番 奥を目指した。)

 

 

 

【ホーム 山門の個室】

 

「山門さん。入ってもいいかな?」

 

(ドアの外から一声かけたけれど、返答はない。ノブを ひねると、扉が開いた。)

 

(部屋に足を踏み入れて、ベッドに近寄る。寝ている山門さんを覗き込むと、驚くほど静かな寝顔が そこにあった。)

 

(ーーいや、寝顔じゃない。)

 

「やまと…さん。」

 

(震える手で、彼女の首に手を当て脈を とったが、何も感じない。)

 

(途端、頭の奥が鈍い痛みを放つ。その痛みが、“超高校級の翻訳家” 山門 撫子さんが次の被害者だと告げている。)

 

(最悪の事態…タイムリミットを迎えることは免れた。…コロシアイは続く。)

 

(首謀者として、喜ぶべきことだ。)

 

(ーーそのはずだった。なのに…。)

 

(しばらく、わたしは物言わぬ彼女の顔を眺めることしかできなかった。)

 

 

 

非日常編へ続く

 

前へ ホームへ 次へ

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA