第□章 ※either killed жe♪ 学級裁判編Ⅲ
学級裁判 再開
(山門さんの遺書、ローズさんの偽装、発見アナウンス、動機。裁判場の面々の顔には混乱の色が濃く浮かんでいた。)
「ローズお姉ちゃんがクロって…さっきまで山門お姉ちゃんが自殺したって話だったよね?」
「ヤマトナデシコは遺書 書いて、腕に毒を打ったんだろ?筆跡もヤマトナデシコのモンって話だったじゃねーか。」
「……発見アナウンスにローズさんが含まれていないならクロの可能性もあるっす。遺書は本物でも…。」
「弱った山門先パイを殺した…とかですか。」
「おやおや、どっかで聞いた話だねぇ?懐かしいなぁ。そんな話を4日ほど前にも聞いたなぁ。」
「…ローズさんがクロなんて信じられないわ。ローズさんが発見した時、山門さんが亡くなってなかっただけよ。」
「ローズがクロかどうか…か。撫子とローズ…どちらが先に死んだかも考えないといけないのにね…。」
「どうしよう、後から死んだ被害者が分からないと、見つけるべきクロも分からない。」
「もー、わけ分かんない!つむぎお姉ちゃん、どうしたらいいの?」
「……。」
(ローズさんがクロだったのか、ローズさんが発見した時に山門さんが死んでいなかったのか…。)
(みんなは、死者の行動から予測して真実を見つけ出さなければいけない。)
(ゴーストがトリ憑クようなトリックなら、死者の行動も見えたかもしれないけれど…あいにく、ここは『ダンガンロンパ』だから。)
「山門さんの行動、ローズさんの行動…どちらも明らかにすれば、クロも分かるはずっすよ。まずは、被害者2人の行動について整理してみましょう。」
(天海君の言葉に、みんなが頷きを返した。)
「えっと…今朝、山門さんは体調が悪そうだったよね。」
「ああ。しばらくオレが見てた。その時、昼も様子を見にくるって言っちまった。だから、ヤマトナデシコはオレにメッセージを寄越したんだ。」
「……キミのせいじゃないよ…。ええと、ボクらは8時半頃みんなで朝食。外の探索組は9時に出発。」
「はい。ローズさんと俺たちは遺跡内を探索したっす。けど、途中でローズさんがモンスターを追ってホーム方面へ走って行ってしまい、はぐれたっすね。」
「そのモンスターは、昨日 逃したモンスターだよ。全員で追おうとしたけど、ローズの足が早すぎてね。」
「1番 体力残してたオレが代表で追った。どうせホームに戻る予定だったからな。結局、追いつけなかったが…」
「11時15分頃、ローズさんはトラップを抜けてホーム側に来ていたわ。20分にはホームに着いたでしょうねぇ。」
「ローズお姉ちゃんはモンスターを追いかけて倒したんだよね?どうしてホームまで戻ったんだろ?」
「た、確かに。ローズ先パイの服の血がモンスターの返り血なら、目的は達成したはずです。どうして、みなさんと合流しなかったんでしょうか?」
ノンストップ議論1開始
「やっぱり…ローズお姉ちゃんが山門お姉ちゃんを殺したクロだったから?だから、合流しないでホームに行ったのかも…。」
「私が会った時、ローズさんは人を殺しに行くような顔してなかったわよ。」
「ホームまでの道にツーステップの足跡もあったからね。」
「クロだったとしたら、ルンルンで殺しに行ったってこと?怖っ。」
「だから、そんなはずないわぁ。」
「まさか…お見舞いだった…なんてことはないよね?」
「それ…『モンスターが犯人』くらい根拠ないっすよね。」
「モンスターか…わたしはヒスイ地方のグレイシア使いって感じだけど、天海君の手持ちはペロリーム?ゼクロム?あ、ナッシーかな?」
「…何を言ってるのか分からねーっす。」
△back
「それに賛成っす。」
「ぽぴぃ君が言う通り…お見舞いだったのかもしれないよ。」
「え?え?本当に?」
「山門さんの部屋のペン立てには、今朝はなかった花が入れられてたんだよ。あの花…天井のトラップ近くの血だまりの近くに咲いていたんだ。」
「あ、カラナデシコだね。」
「カラナデシコ?」
「ぽぴぃは、ぽぴぃだから、お花に詳しい。大道芸でも、時々 使う。あれは、中国のナデシコ、唐撫子。」
「大和撫子の中国版みたいだね。」
「うん、まさに その通り。ローズサンと山門サンのコラボレーション。」
「天井トラップ近くの血だまりは、ローズさんが倒したモンスターのものっす。彼女は そこで花を見つけてホームに向かったんじゃないでしょうか。」
「山門さんを殺すつもりなら、そんなことしないはずよ。」
「で…でも、弱りきった山門先パイを見て…同時にクロになろうと…。」
「前谷お兄ちゃん、前の事件トラウマになってない?大丈夫?」
「えっと…とにかく、花を持ったローズさんは、山門さんの部屋で死体もしくは弱った山門さんと遺書らしきメッセージを発見した。」
「遺書には自殺で、ローズは撫子が地下に みんなを行かせたがっていることを知った。それで、防犯シャッターを使って部屋を偽装したんだ。」
「それで、オレはチャイナ女の部屋に行った。12時20分…だが、デカブツの時計は狂ってたから12時頃のことだろうな。」
「はい。自分も山門先パイの部屋と間違えてローズ先パイの部屋に行きました。ハト時計を取り替えるために…。」
「前谷お兄ちゃんが時計を替えてから、郷田お兄ちゃんがローズお姉ちゃんの部屋に入ったんだよね?」
「時計が狂ったのは、外す時に落としたからと言っていたけど…確かに その時なのかしら?」
「間違いありません。……多分!」
「どっちだよ。」
「少なくとも、今朝8時のアナウンスの時にハト時計も鳴ったので…その時は合っていました。」
「白銀さんが寝て、前谷君が時計を交換した時間は何時だったか、分かりませんか?」
「天海お兄ちゃん、それって重要?」
「ええ。前谷君がローズさんの部屋で時計を交換した時、部屋に誰もいなかったわけっすから。」
「あ、そっか。……えっと、寝ちゃった時間は…さすがに覚えてないや。」
「自分もです。しばらく白銀先パイの寝姿に呆然としていましたから。時計を交換した時の時間も…見ていませんでした。」
「……。」
(また、わたしを見る妹尾さんの目が怖い。)
「…トラップの音は聞こえたっすか?」
「音?」
「夕神音さんの歌が聴こえてたから、外の天井トラップが作動した音も聞こえるはずだもんね。」
「あ…でも、白銀先パイが寝た後、寒いと風邪をひくと思って窓を閉めたんです。トラップの音は聞こえませんでした。」
「それなら、つむぎが眠ったのは、11時15分より前ってことだね。」
「前谷クンがローズサンの部屋へ行ったのは、白銀サンが寝た後?」
「はい。白銀先パイがパタリとベッドに倒れて、声を掛けても全然起きず。困り果てて途方にくれて呆然としていた時…」
「白銀先パイの言葉を思い出したんです。『自分のすべきことをしろ』…」
「それで、ハト時計を取り替えようと思い立ち、時計を思い切り落としたんです。白銀先パイは、その音でも起きませんでした。」
「へー、その間 お触り自由のやりたい放題できちゃったわけだね。」
「そ、そんな恐ろしいことできませんよっ。」
「何にせよ、前谷君が時計を取り替えた時に既にローズさんはホームにいたはずっす。ローズさんの部屋の鍵が開いていたんすから。」
「デカブツが時計を替えたのは11時20分以降だな。」
「はい。11時20分から郷田君がローズさんの部屋に行った12時までの間に、前谷君はローズさんの部屋に入ったってことっす。」
「はい。部屋は無人でした。」
「その時…ローズさんは、どこにいたんすかね?」
「…ローズさんは、その時、」
1. 廊下の玄関側
2. 山門の部屋
3. 地下
「かくれんぼかな?ボクは苦手なんだよね。」
(目立つからでは?)
△back
「前谷君がローズさんの部屋に入った時、ローズさんは玄関側のどこかに隠れていたはずだよ。」
「そうっすね。郷田君が後で来ることを知っていた彼女が、その時間に地下に行っていたとは思えないっす。」
「山門サンの部屋にいた可能性は?」
「……。」
「シャッターのcloseスイッチは山門さんの部屋側にあったよ。」
「…つむぎが撫子を発見した時、シャッターは開いてたんだよね。」
「…うん。」
「だからローズさんの部屋側から彼女が開けたはずなんだ。」
「たぶん…ローズさんは、山門さんの部屋側のcloseスイッチを押してシャッターを降ろした。その時、前谷君が出てきたから玄関側に隠れた。」
「その後、前谷君が自室に戻ったタイミングでローズさん自身の部屋に入って郷田君を待ったんだよ。山門さんのフリをして。」
「死体の発見を遅らせるために…?」
「…ひとつ不思議なのは、ローズさんがシャッターを戻していることっすね。」
「え?」
「ローズさんは山門さんの死体発見を遅らせるためにシャッターを降ろしたっす。でも、白銀さんが発見した時、シャッターは開いていた。」
「…地下に向かうタイミングで戻したのかもしれないね。誰も山門さんの死に気付かないのは可哀想だと思ったんじゃないかな。」
「……そっか。」
「やっぱり…ローズさんはクロなんかじゃないわ。」
「お見舞いに行ったけれど、毒を打った山門さんと遺書を発見して、一連の行動を起こしたのよ。」
「…ローズさんがクロかどうかは置いておいて、ローズさんは山門さんの遺書を発見し、アナウンスが鳴るのを遅らせたっす。」
「…どうして、そのローズさんも死んでいたのか。これが問題…だね。」
「そ、そうです。ローズ先パイは、どうして死んでしまったんでしょうか…。」
「他の人に…殺されちゃったのかな。」
「……ローズが撫子のフリをして毅クンに会った後、ホームにいたのは…つむぎと光太クンだけど…。」
「出ました!4章でありがちな『どちらかが彼女を殺した』のか?!あ、白銀さん的には『私が彼を殺した』だっけ?」
「余計な口挟まないで!つむぎお姉ちゃんが殺しなんてするはずないでしょ!」
(……『ダンガンロンパ』の4章なら事件に関わってくるのは、前谷君。被害者じゃないなら、クロとして。)
(でも…わたしは知っている。)
(これは、わたしの知る『ダンガンロンパ』じゃないって。)
「じ、自分じゃありません!それに…自分の部屋で寝ていた白銀先パイだってできないはずですよ!自分たちは ほぼ一緒にいたんですから!」
「……最初に地下に向かったのはメガネ女だけなんだろ。」
「そ、そうでした。」
「つまり…ローズさんを殺せたのは、白銀サンだけ?」
「でも!郷田お兄ちゃんだって、ローズお姉ちゃんに会った時に殺せるじゃん!わざわざノコノコ地下に死体を置いたのかも!」
「ああ!?」
「…えっと、撲殺、刺殺、絞殺、扼殺なら怪しいのは わたしだけど、ローズさんの死因も分かってないんだよ。」
「そうっすね。死因が分からない限り、犯人の特定は厳しいっす。」
「ローズさんは…どうして亡くなったのかしらぁ。」
「そうだね。ローズの身体には外傷がなかったのに。」
「ホームに行く前はツーステップ決めるほどルンルンだったんだよね?」
「血まみれの服もモンスターの返り血でしたよね。」
「まさか…毒があるモンスターに噛まれて毒が回ったんじゃねーのか!?」
「そんなヘビみたいなモンスターいなかったよね?それに、ローズさんの体に傷痕はなかったよ?」
「オレらが見なかっただけで、ヘビとか蚊みてーなモンスターがいたのかもしんねーだろ!」
「ヘビっつーのは基本どこでも生息できる適応性があるが、特に暗くて暖かい所は住みやすいからな。20℃以上で適温のヤツが多い。」
「郷田お兄ちゃん、ヘビ嫌いすぎて もう好きじゃない?」
(そういえば…2つ目のステージの鉱山でローズさんが言ってたっけ。)
「うるせー!本物じゃなくても、オレはヘビが嫌いなんだよ!」
「毒ヘビ噛まれても怖いじゃない!すぐ吸い出します!人間バキュームのフタツナにかけて!」
(……このステージに来た時も。)
「ざけんなっ!!カエルが生息するようなとこには、だいたいヘビもいんだよ!!毒ヘビいたら どーすんだ!」
「ゴウダ、落ち着け。ヘビくらい、ワタシ倒しマス。噛まれても、毒 吸い出してやりマス。」
「もしかして…ローズさん…」
2. ヘビを噛んだ
「ヘビヘビヘビヘビ言ってんじゃねーぞ!オレはヘビって言葉 聞きたくねーくらい嫌いなんだ!!」
「あなたが1番 言ってるじゃない!」
△back
「ローズさんは、山門さんを助けようとしたんじゃないかな。」
「助ける…?」
「ローズさんは、毒を打った山門さんの腕の跡を見て、ヘビか何かの噛み跡だと思ったんだよ。」
「…確かに、山門さんの腕の跡は噛み跡に見えないこともなかったっすね。」
「ローズさんは…それを見て、毒を吸い出そうとした。」
「そんな…。遺書もあったのに…?」
「遺書より先に倒れた山門サンを発見した…?」
「……それで…ローズさんも、毒で?じゃあ、やっぱりローズさんが後に亡くなったってことよねぇ。」
「どうなんだテメー、モノクマ!」
「まー怖い。不良みたい。」
「ま、ここまで来たら教えてやらなくもないよ。毒を受けたローズさんは先の被害者より後にお陀仏しましたよっと。」
「えっ。」
「ん?どったの白銀さん。まだ裁判途中なのに、何でボクが こんな重大なことをバラすのか…そんな顔だね!」
「……。」
「これは投票に必要なことなんだ。ここで言わないと後々 困るかもしれないんだ。」
「どういうこと?」
「分からないなら そのままでいいよ。」
(おかしい。だって、ローズさんが後に死んだことを明かせば…)
「ローズさんが山門さんの毒を吸い出して後に死んだなら、事件の全貌が見えたっすね。」
「山門サンが毒を打ったのをローズさんが発見した時は山門サンは生きていた。毒を吸い出すも助からないと悟った彼女は山門サンの意志を継いで画策。」
「ローズお姉ちゃんは毒を受けながら部屋を偽装したり郷田お兄ちゃんを騙したりして地下へ行った…んだよね?」
(ーーこんな風に謎がなくなってしまう。裁判が もう終わるってこと?それとも…この情報を明しても大丈夫だとモノクマが判断する何かがある…?)
「でも…山門さん、どこから毒なんて持ってきたのかしら?」
「そうだね。このステージに毒なんてなかったはずだよ。」
「山門先パイが前のステージから持ってきていたんでしょうか?」
「いや、それはねーだろ。」
ノンストップ議論2開始
「思い出しやがれ。ここのステージに来る前、オレらは持ち物検査したんだぞ。」
「あ…そういえば。念入りにパンパンチェックしたね。」
「全員、怪しいものは持ち込んでいません!」
「アイドル野郎は変なモンを持ち込んでやがるけどな。」
「ごめんね。遺品代わりに持っておきたいと思って。」
「責めてねーっつの。謝んな。とにかく、誰も毒なんざ持ち込めねーんだ。」
「ここのステージの花に毒はないよ…。」
(あったら捜査時間までに判明してるはずだもんね。)
△back
「それは違うっす。」
「持ち物検査はあったけど、山門さんは毒を持ち込めたんじゃないかな。」
「山門先パイが隠し持っていたってことですか?」
「えー?でも、山門お姉ちゃんの持ち物なんて、モノパッドと万年筆と手紙くらいでしょ?」
「そうねぇ。他の人たちも…持ち物チェックの時に怪しい動きをした人はいなかったわ。」
「一応、山門さんの持ち物の中に、毒を運べそうなものがあるよ。」
1. 万年筆
2. 便箋
3. モノパッド
「それに染み込ませた?オレ色に染めるってこと?そっか!つむぎお姉ちゃんって、そういう人が好みなんだね!」
「ごめん。納得してるところ悪いけど、違うよ。」
△back
「万年筆の中。インクの代わりに毒を入れておいたら どうかな?」
「何それスパイ?」
「まさか…ヤマトナデシコの腕の跡は…」
「毒入りの万年筆のペン先を刺した跡ってことっすね。」
「そうか。だから、撫子は毅クンへのメッセージを万年筆じゃなくて、部屋にあった鉛筆で書いたんだ。」
「…つまり、どういうことだ?この事件のクロは、結局 誰になんだ?」
「えっと…山門サンは前のステージから持ってきた毒で自殺。」
「ローズさんは…その毒を吸い出して亡くなった…。」
「後から死んだのは…ローズお姉ちゃんなんだよね。これって、ローズお姉ちゃんの自殺になるの?」
「でも、ローズ先パイは山門先パイが持ち込んだ毒で…ってことですよね?つまりクロは…山門先パイってことじゃないでしょうか?」
「……。」
「つむぎ?」
(モノクマの発言は、それまでの裁判の流れを肯定することにもなる。裁判が盛り下がる可能性もあるのに、あえて話した。)
(つまり…まだ事件に裏がある。わたしが知っていることを越えた真実があるんだ。)
「まだ、残された謎があるっす。」
(口を開きかけた時、わたしの言いたいことを代弁するように、隣から声がした。)
「山門さんが万年筆に入れて持ってきた毒が どこから来たのかっすよ。」
ノンストップ議論3開始
「確かにそうだね。撫子が万年筆に入れたのは…何だったんだろう。」
「前の事件に使われたモンじゃねーのか。」
「前回使われたのは…木野先パイの毒と、佐藤先輩がモノクマから授かった毒ですね。」
「佐藤君の毒は先着1名しかもらえないし、山門さんが手に入れられるはずないわねぇ。」
「それなら、山門サンとローズサンの死因は…木野サンお手製、トリカブトみたいな毒性のキノコの毒…?」
「分かりました!その毒を何やかんやして、何やかんやあった末の事件ってことです!」
「うん…。それは何も分かってないよね。」
△back
「それは違うっす。」
「トリカブトは嘔吐や呼吸器異常の後、亡くなる。ローズさんが言ってたよね。」
「それにしては、撫子もローズも…死体の状態が綺麗だったね。」
「ええ。山門さんの状態や部屋はローズさんが整えることができたとしても、ローズさんは違うっす。今回の毒が前回のものと同じとは思えないっすね。」
「他にも、木野お姉ちゃんが毒を作ってたのかも?」
「うぷぷ。科学が人を殺す典型例だね。ボクはノーベル平和賞という言葉が好きだよ。矛盾を孕んでいて。」
「……。」
「前のステージで…山門さんが木野さんの毒を持ち出した?」
「それはねぇ。メガネチビは ほぼ引きこもってたし、ヤマトナデシコはメガネチビの部屋に近づいてねぇ。」
「えー、でも、ずっと見てたわけじゃないよね?」
「いや、見てた。」
「えっ。」
「ヤマトナデシコのヤツ…前のステージで既に体調が悪そうだったからな。」
「前回の捜査時間以降はどうっすか?」
「捜査時間、ヤマトナデシコは ほぼ現場の別荘にいたはずだ。裁判後も妙な行動は起こしてねぇ。」
「あれ?でも、前回の事件の捜査時間に、山門お姉ちゃん、木野お姉ちゃんが部屋に来たって言ってたよ?ね、つむぎお姉ちゃん。」
「うん。そうだね。」
「あ…一昨日の夕食後、わたしの部屋に来られました。」
「そうなんだ。」
「何の話をしたの?」
「……。」
「ヤマト先生?」
「いえ…特に、なにも。木野さんの研究について、いくつか教えてもらっただけですよ。」
「もしかして…その時、山門サンは毒をもらった?」
「えっと、どういう…ことでしょう?山門先パイが、木野先パイに毒を作ってもらったってことですか?」
「……山門さんは『木野さんが訪ねてきた』って言ってたよ。山門さんが木野さんに何か頼むタイミングはあったかな?」
「いや…日中2人が一緒に行動してるとこなんざ、見なかった。」
「山門先パイはローズ先パイと一緒にいましたし、木野先パイは引きこもってましたから。」
「……木野さんが一方的に毒を渡した可能性が高いっすね。」
「琴葉が?そんなこと、信じられないけどな。」
「木野さんが持ち出した薬品は、2つ目のステージの哀染君の宿舎からだったわよねぇ。何か毒や薬品で思い出すことはないかしら?」
「前も話したけど、ボクは薬品や実験の詳しい内容は分からないんだ。琴葉から教えてもらって理解できたのは、化学式とか元素番号くらいだったよ。」
「モノクマ。木野さんの持っていた毒について、ヒントがあってもいいんじゃないっすか。」
「はわわ…。天海クン!またボクを誘導しようとしてる…恐ろしい子ッ…!」
(モノクマは わざとらしく震えて見せてから、笑った。)
「では、木野さんが作ってたものパート2を教えましょう!その名も、安楽死薬!」
「ああ!?」
「分からない?飲むと眠くなって永遠に眠れるオクスリだよ!」
「飲んで死んじゃうなら…毒と同じだよ…。」
「……。それで…その毒を使った場合、クロは使った人になるんすか。作った人になるんすか。」
「そうだね。それはーー…って言うわけないだろ!」
「オマエラには既に推理の材料を与えてるんだ!わざわざボクが直々に!これ以上は、たとえ口半分が常に笑顔くらい裂けても言えないよ!」
「もう裂けてるじゃん!!」
「みんなより多くヒント持ってるヤツもいるんだから!頑張れ頑張れ!できる絶対できる!諦めるな!気持ちで負けるなー!」
「……。」
「……今ので、はっきりしたっすね。これまで集めた情報で、特に、モノクマがわざわざ出した情報がヒントになるみたいっす。」
「ハッ!?天海クンッ!!恐ろしい子ッ!!」
(これまでの情報…。モノクマは被害者が死んだ順番や木野さんの薬についても明かした。それに、捜査時間にも、”わざわざ出した情報”があった。)
「前にも言ったけど、未必の故意でも殺しは殺しだからね。その状況を作った人は殺人犯さ。」
「故意は大罪。過失に勝ります。」
(ーーそれなら、山門さんが言っていた”あれ”が関係しているはず。)
「……心配いりませんよ。薬がありますから。」
▼この事件のクロは?
「私…恋とか愛とかって、よく分からないのよねぇ。」
「大丈夫!それについては わたしもよく分からないよ!フィクション以外!」
△back
「この事件のクロは…木野さん。前回の被害者である木野さんだよ。」
「え…えええ!?」
「ど、どういうこと?毒…安楽死薬を作ったから?」
「作って渡したからといって殺人とは言えないよね?」
「もちろん。でも、安楽死薬を山門さんに『薬だ』と言って渡したら?」
「木野さんに騙されて…山門さんは薬を打ったつもりが、毒だった?」
「うん。今朝、山門さんは言ってたんだよ。薬があるって。」
「……山門さんは薬らしいものを持ち込んでなかったす。それに…このステージで薬なんて見なかったっすね。」
「…琴葉が撫子に死ぬような薬を渡したの?前のステージで自ら毒を飲んだ琴葉が、そんなことをする理由があるかな?」
「メガネチビは…イレギュラーっつってたな?」
「…裁判で俺たちが見つけられないクロを作る。もし、それが彼女の目的なら…可能性はあるっすね。」
「メガネチビも…ヤマトナデシコの体調に気付いてた。それを利用してーー…」
「……ちょっと待って。」
(みんなが口々に言う中、哀染君の静かな声が響いた。わたしは彼に向かい、最後の議論の準備を整える。今回のシナリオを思い返しながら。)
理論武装 開始
「琴葉がイレギュラーで、裁判でシロの全滅を狙っていた。」
「前回の裁判でも、そんな話があったけど…正直、信じられないよ。」
「2つ目のステージの病院で、彼女は『みんなを助ける薬を作る』…そう言ってたんだ。」
「そんな琴葉がボクらの全滅を狙ってるとは…思えないよ。」
「それに、今回のクロが琴葉だというのも、無理がある。撫子が普通の薬だと思って琴葉の安楽死薬を打った…それは違うよ。」
「撫子は遺書を書いているんだ。それが毒になるって知っていたってことでしょ?」
「それに、琴葉が薬と言って渡したところで、撫子が使わない可能性だってある。」
「そんな不確かな状態で、琴葉がクロと言える根拠がないよ。みんな処刑になったら どうするの?」
○の △必 □未 ×故意
「未必の故意でも、殺人は殺人。モノクマが前に言ってたことだよ。」
「…絶対的に相手が死ぬ状況と言えなくても、その状況を作り出した人間の故意が裁かれるケースっすね。」
「木野さんは山門さんに薬を渡した。それを使うかどうかは山門さん次第だったけど…今回、使われてしまった。その状況を用意した人…」
「木野さんが、今回のクロってことなんじゃないかな。」
「でも、哀染君の言う通り、山門さんは遺書を書いているのよ?」
「山門サンは普通の薬じゃないと気付いていた?」
「うん。木野さんは前回の裁判でイレギュラーだって話が出たから…山門さんも、もらったものを ただの薬だとは思わなかったんだろうね。」
「毒で命を絶った木野さんからなら、毒になると思うのも頷けるっすね。」
「だが、毒になると分かって自分で使ったなら自殺だろ。それに、チャイナ女も それでやられたなら…ヤマトナデシコがクロっつーことにならねーか。」
「あ、そっか。山門お姉ちゃんはローズお姉ちゃんを殺そうなんて思ってないけど…殺意はなくても山門お姉ちゃんの過失ってことになるのかも。」
「前にモノクマが言ったこと…過失でも故意でも殺しは殺しなんて、今回のケースに当てはめるとクロを絞れなくなるよ。」
「撫子の薬を吸い出そうとしたローズの死。これを撫子の過失だと判断する?琴葉の故意だと判断する?」
「そんなの、モノクマの気まぐれで どうにでもなるよ。」
「気まぐれなんて失礼な!そんなネコ科みたいな真似しないよ!」
「捜査時間にモノクマは、こうも言ったんだよ。故意は過失に勝るって。」
「……。」
「…未必の故意について、モノクマが “わざわざ出した情報”が本当ならっすけど。」
「だから、嘘は言わないって!その言葉でボクの反応を見るのは、やめなさーい!」
「山門さんは毒になると分かった上で木野さんの”薬”を使った。……その状況を用意したのも、木野さんだよね?」
(裁判場が静まり返る。全貌が見えてきても、みんなの顔から不安や困惑の色は消えない。)
(それは、わたしも同じだ。)
(事件の真実が分かっても、裁判の判決が どう下されるのか。そのルールと導き出した答えが合致しているのか、いまいち自信が湧かない。)
(こんなフワフワした状態で…本当に結論を出していいの…?もし…間違っていたら…。)
(そんなことを考えていると中 、哀染君が こちらに視線を向けた。)
「……完全に納得できたわけじゃないけど、分かったよ。それじゃあ…つむぎ、蘭太郎クン。いつもの、お願いできるかな?」
「……。」
クライマックス推理
「事件が起きたのは今日の午前中から午後にかけて。山門さんは、ある計画を立てていた。」
「それは…自分が死んで俺たちを地下に向かわせることっす。彼女は犯人から受け取った薬が命を奪うものだと知った上で自殺に使ったっす。」
「山門さんは犯人から受け取っていた安楽死薬を万年筆のインクと入れ替えて、このステージに持ってきていた。そして、腕にペン先を刺して打った。」
「第一発見者になるはずだった郷田君にメッセージを託して。……でも、郷田君より先に山門さんの部屋に行った人物がいた。」
「それは…山門さんの見舞いにやって来たローズさんっす。彼女は、山門さんが残した郷田君へのメッセージを読む前に、倒れた山門さんを発見したっす。」
「そして、毒ヘビに噛まれたと判断したローズさんは毒を吸い出そうとした。けれど、それによりローズさんも安楽死薬を摂取してしまったっす。」
「その後、彼女は山門さんの遺書の一部をハト時計に隠し、地下に向かおうとした。けれど、そのままでは すぐ郷田君が山門さんを発見してしまう。」
「地下に行けるチャンスは死体発見アナウンスが流されるまで。だから、自分の部屋を山門さんの部屋に見せかけることにしたんだよ。」
「山門さんの部屋は廊下の1番奥。だけど、防火シャッターを下ろせば、自分の部屋が1番 奥の部屋になる。」
「彼女は部屋の間にあるシャッターを降ろし、自分の部屋を山門さんの部屋に見せかけた。」
「さらに山門さんのフリをして郷田君が来るのを待ったっす。郷田君なら顔を判別できないと思って。」
「少量の薬を摂取したローズさんには、少し時間が残されていた。でも、地下に向かう道で力尽きた。それだけ…犯人の薬は強力だったんだ。」
「山門さんとローズさんを殺した薬。それを作った犯人は…この中にいないっす。」
「この事件の犯人は、前回の被害者…“超高校級の化学者” 木野 琴葉さんっす。」
「……。」
「……。」
「……。」
(やはり、クライマックス推理を終えても、みんなの顔から不安や困惑の色は消えてくれない。)
(それもそのはず。前回の被害者が今回のクロというのは変な話。いくら強引な展開がフィクションの醍醐味とはいえ、強引すぎる。)
(モノクマの投票の合図を聞きながら、わたしは祈る気持ちで投票画面に触れた。)
学級裁判 閉廷
「大正解!”超高校級の翻訳家” 山門 撫子さんと、”超高校級のマフィア” ローズさんを殺したクロは…」
「今は亡き、”超高校級の化学者” 木野 琴葉さんでした〜!!」
「……。」
(胸に広がる安堵。そして、次いで なんとも言えない違和感に襲われる。)
「Either killed her…『どちらかが彼女を殺した』ではなく、Neither killed them!『誰も彼女たちを殺してなかった』!」
「犯人がやったことは、全部 全てマルッとブリッとお見通し!お解ケツ!おめでと〜!」
「ま、画面の向こうの みなさんから『おいおい』という声も聞こえてきそうですが!気にしませ〜ん!!」
「……。」
「今回は…誰も処刑されることはないんすよね。」
「そうなのー!もー、マジつまんな〜い!視聴率だだ下がりィ〜。ボーナスもだだ下がりの100%カット〜。」
「はい、じゃ、そゆことで。適当に解散!ゴミと後悔と無力感と絶望は、各自 持ち帰るように!」
(モノクマが吐き捨てるように立ち去る。)
(やっぱり。『ダンガンロンパ』なのに、おしおきがない。)
(どこかに、バグでもあるのかもしれない。おしおきがなくて。自殺ばかりで。動機が直接的に関係しなくて。トリックスター不在で。)
(……。)
(首謀者が…『コロシアイを終わらせたい』なんて思っているんだから。)
第□章 ※either killed жe♪ 完
第◆章へ続く