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第◆章 047は∞度фぬ(非)日常編I

 

【ホーム リビング】

 

(裁判から1夜明けた朝食会。みんなの口数は少なく、その場は重苦しい空気に包まれていた。)

 

「……。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「…人数、かなり少なくなっちゃいましたね。」

 

「……前谷お兄ちゃん。」

 

「……あ!す、すみません!」

 

(無理もない。前回の事件に引き続き、被害者が2人。一気に人数が減りすぎた。)

 

「……みんなを笑顔にしたいけれど、ぽぴぃには今、何もない。投げるにも乗るにも手頃なものが何もない。」

 

「あってもしない方がいいと思うよ。ここ、暖炉あるし…。」

 

「……。」

 

(ポツリと呟く ぽぴぃ君に返すと、夕神音さんが立ち上がった。そして、大きく口を開くとーー)

 

「ピーヒャラ ピーヒャラ パッパパラパラー♫」

 

(お茶の間アニメソングを響き渡らせた。)

 

「ピーヒャラピー おーなかがへったよ〜♪」

 

「…いや、今 食ってるとこだろ。」

 

「元気 出たかしらぁ?私の元気が出るプレイリストの1番目よ。」

 

「えっ。今のが1番?」

 

「そうよ。元気 出た?」

 

「え、あ…ハイ!出ました!!全身の穴という穴から噴き出しました!」

 

「うんうん。やっぱり夕神音さんの歌は素晴らしい!」

 

「そうだね。ありがとう、美久。ローズが言った通り、キミの歌は すごいよ。」

 

「……良かったわぁ。」

 

「…うん。その歌詞の通りだよね。食べるものモリモリ食べて、元気 出すべきだよね!」

 

「…そんなメッセージ性ある歌詞だったっけ?」

 

(少し和やかな雰囲気が戻って、わたし達はポツリポツリと会話をしながら、朝食を進めた。そんな時、)

 

「ピーヒャラ ピーヒャラ ナグル ボンボコリン♫」

 

「……モノクマ。」

 

「…また移動っすか。」

 

(妙な歌詞を口ずさみながら現れたモノクマを天海君が睨み付ける。その眼光も気にせず、モノクマは笑った。)

 

「話が早くて助かります!朝食後、地下に集まるように!」

 

(モノクマが立ち去った後、わたし達は手早く朝食を済ませ、ホームの地下へ向かった。)

 

 

 

【ホーム 地下】

 

「ハイハーイ!集まったね!ではでは、ネクストステージまでご案内するよ!」

 

(みんなで地下階段を降りきったところで、またモノクマが現れた。)

 

(みんなで地下を進んで、昨日ローズさんが倒れていた部屋まで やって来た。)

 

「…裁判さえ起これば、地下に来ることは決まっていたんだね。」

 

「あ…!」

 

「そんな…。」

 

「クソ…!2人も死んだってのに…!」

 

「…みんな落ち着いて。」

 

「そ、そうだよ…。それに…もしタイムリミットに焦ってクロが出ていたら…。」

 

「……結局、2人 亡くなっていたかもしれないわ…。」

 

「……とりあえず、進みましょう。」

 

(何もない通路を進むと、見覚えのある開けた場所に出た。進んで来た道に向けて「出口」と書かれた看板がある。)

 

「……出口どころか…トラップだらけの遺跡に繋がってるんだから、不親切 極まりない看板っすね。」

 

(……『V3』と真逆のこと言ってる。)

 

「はい、じゃあハシゴ登って来てね〜。上で待ってるからね!」

 

 

 

【裏庭】

 

(ハシゴを登りきった先は、草の生い茂った建物内。やはり、見覚えしかない。建物の外へ促され、みんなが出ていく。)

 

(さりげなく壁を確認したけれど、当然、生存者特典のためのヒントも書かれていなかった。)

 

「ここが…新しいステージ?」

 

「……何だよ、ここ。」

 

(外に出ると、みんなが動揺の声を上げた。全員、空全体を鳥かごのように覆う鉄柵を見上げている。わたしも『驚いた人』の顔を作って参加した。)

 

「ようこそ!ここは人気シリーズ53作目の舞台、何ちゃら学園だよ!行けるところが限られてるから、モノクマの学園案内ツアーといこうか!」

 

「……。」

 

(ーーそう。ここは、才囚学園だ。)

 

(『V3』のコロシアイが行われた学園。キーボ君に破壊された学園。52回目で来られるのは、おかしい。)

 

(それとも…『V2』のリニューアルだから復元された…?)

 

「学園…?」

 

「そう!」

 

「南茶羅学園とは?」

 

「いや〜名前をド忘れしちゃってね。」

 

「……。」

 

「その人気シリーズって何のことなの?」

 

「人気シリーズは人気シリーズだよ。ワックワクでドッキドキ、リアルな非日常、需要に合わせた供給。」

 

「あそこに『CASINO』って看板が見えたけど、本当に学校なのかしらぁ?」

 

「あー、そうそう。カジノエリアにはイイモノがあるから。頑張ればイイコトできるかもね。」

 

「…何すか、それ?」

 

「すぐ聞くんじゃありません!!気になるなら自分で調べろー!」

 

「ちなみに、オマエラが今 通って来た地下通路への道も入れなくなってるからね。行ってもムダだよ。」

 

「今 入れるのは、この食堂と そっちの宿舎、それから向こうにある格納庫だね。」

 

「え?この建物には入れないの?」

 

「そうそう。校舎には入れません!食堂からも入れないんだな。」

 

(それじゃあ…隠し部屋に行けない。)

 

「さて、ちなみに あっちの格納庫も今は何も格納してないよ。普段はセキュリティ入れてるけど今は解除してるし、かくれんぼにでも使うといいさ!」

 

(……エグイサルもいない?モノクマーズも?)

 

「オマエラの宿舎は、あそこの建物。あの、五色堂でもオクタゴンでも十角館でもない円形オシャレな建物だよ。」

 

(そんなことを言って、モノクマはいなくなった。)

 

「とりあえず、ボクは荷物を置いてこようかな。」

 

(哀染君が膨らんだ衣装の内ポケットを見せて言い、宿舎に入っていく。みんなも散り散りになる中、わたしは目に映るものと記憶を照らし合わせていた。)

 

(破壊されたはずの才囚学園にいると…どうしても考えてしまう。)

 

(誰か…『V3』の誰かが…いるかもしれない。と…。)

 

「……。」

 

(ーーそんなはずないって、分かっているけど。)

 

(とにかく…ここを調べなきゃ。)

 

 

 校舎方面へ行く

 カジノ方面へ行く

 格納庫方面へ行く

全部見たね

 

 

 

【校舎前】

 

(校舎前に来た。6階の研究教室までの高い建物。5階に見えるステンドグラスの向こうには、わたしの研究教室もあるんだろう。)

 

(シャッターが閉まった玄関扉に触れる。力を込めても、扉は「ガシャガシャ」と音を立てるだけだった。)

 

「ムダだ。オレらが開けようとしても、ビクともしねぇ。」

 

「そうそうそうそう相乗効果。白銀サンの細腕は尚更ムリ。」

 

「郷田君、ぽぴぃ君。珍しいね、一緒にいるの。」

 

「珍しくないないないないナイル川。」

 

「オレらはクラスメイトだからな。珍しくも何ともねーだろ。」

 

(いや、珍しいけど。)

 

「テメーこそ、クラスメイトと あんまり一緒にいねーじゃねーか。白銀。」

 

「え?」

 

「何だよ。」

 

「わたしの名前…覚えたんだ?」

 

「テメーの名前は覚えやすいからな。」

 

「そ、そうかな?まあ、覚えにくくはないはずだけど…。」

 

「ああ。ヤマトナデシコが言ってた。シルバーアクセサリーを作ったから白銀。こう覚えりゃいいってな。」

 

「うん。白銀サンは、みんなのためにアクセサリーを作ってくれたね。」

 

「白銀は銀の和名だって、あいつが言ってた。」

 

「うんうん、覚える努力が素晴らしい。」

 

「…褒めても何も出ねーぞ。」

 

「お世辞じゃないよ、本音だよ。」

 

「芥子……。」

 

「じゃんけんぽん、うふふふふふ。」

 

(わたしは何を見せられているのでしょうか。)

 

 

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【カジノ前】

 

(カジノとホテル・クマザワは『V3』と変わらない様子だった。わたしはカジノの門を くぐった。)

 

「白銀さん。」

 

「貴女も、ここが気になったのねぇ。」

 

(カジノの建物の地下に、天海君と夕神音さんがいた。)

 

「天海君、さっきから凄いのよ。コインが湯水のように出てくるの。ローズさんが見たら喜んだわぁ。」

 

(確かに、天海君の手元にはプロのスロット回しのような大量のコインが積まれている。)

 

「あっちの魚のゲームとパズルは、コツさえ掴めば誰でも高得点が取れそうっすよ。」

 

「そっか…。うん。息抜きは大事だよね。」

 

「息抜きじゃないわよぉ。」

 

「え?」

 

「さっき、上でモノクマが商品の中に鍵があるって言ってたんすよ。」

 

「……へぇー。」

 

「どこの鍵が分からないっすけど、何か手掛かりが見つかるかもしれないっすから。」

 

「……。」

 

(……それはない。)

 

(真剣に画面を見つめる天海君の横顔から目を逸らす。)

 

(天海君が『V3』の世界にいる。その光景から目を逸らしたかった。)

 

「…?どうかしたんすか?」

 

「何でもないよ。」

 

(わたしは慌てて その場から立ち去った。)

 

 

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【裁きの祠】

 

(格納庫方面、裁きの祠まで やって来た。哀染君がモノクマの像を眺めている。)

 

「やあ、つむぎ。見てよ。ずいぶんと趣味の悪い像だよね。」

 

「そうだね。」

 

(…制作側としては、一周まわって可愛いくらいの気持ちになってたんだけどね。)

 

「ねえ、つむぎ。このコロシアイは誰が何のためにさせているんだと思う?」

 

(ふと、彼の声色が鋭いものに変わる。)

 

「今までのステージといい…こんなに お金が掛かってるんだ。このコロシアイ…ただの異常者の娯楽とは思えないよ。」

 

「…そうだね。」

 

(平和な世界の普通の人たちの娯楽のためだと知ったら、彼は どんな顔をするんだろう。)

 

「……。」

 

「つむぎ、これから どこを調べる?一緒してもいいかな?」

 

「…えっと。」

 

「……。」

 

「気乗りしないなら無理にとは言わないよ。…ここに来てから ずっとボンヤリしているようだけど、大丈夫?」

 

「……大丈夫だよ。」

 

「そう。じゃあ、また後でね。」

 

(いつも通り にこやかに笑って、彼は祠付近を調べ始めた。わたしは そっとその場を離れた。)

 

 

 

【格納庫】

 

「白銀先パイ!」

 

「お姉ちゃん。」

 

(サイバーパンクな中庭を抜け、格納庫に入ると妹尾さんと前谷君が こちらを向いた。)

 

「2人とも、ここにいたんだね。」

 

「うん。隠れんぼに使えって言われたから、とりあえず1番 見つけやすそうな前谷お兄ちゃんを連れてきたんだ。」

 

「え!?自分を頼りにしてるからっていうのは嘘だったんですか!?」

 

「えーと…何か見つかった?」

 

「見つかるというか…変なところだよ。よく分からない大きい機械ばっかりで。」

 

(首元を掻いた妹尾さんが指差すのは、洗浄機とプレス機。格納庫にエグイサルの姿はない。特に血の跡とか、プレス機に”何かある”というわけでもない。)

 

(そりゃそうか。ここは…復元された才囚学園なんだから。)

 

「大型機械の格納庫なんでしょうか?機械も動かしたりしましたが、使えそうなものはありませんでした。」

 

「お姉ちゃん。ほら、この高い操作台みたいな所でグイーンって大きい機械を動かせるんだよ!」

 

(言いながら妹尾さんがプレス機の操作台に上がって、なぜか一回転してポーズを決めた。遊園地のアトラクション感覚なのかもしれない。)

 

「それは、みんなのトラウマ:プレス機ですか?」

 

「モ、モノクマ…!」

 

「へー、これプレス機なんだ?モノクマ、そこに立ってみてくれる?」

 

「え?ハイハイ…って、プレス機でグチャグチャにするつもりだろー!5章みたいに!5章みたいに!」

 

「……。」

 

「もー、何 言ってんのか分かんない。うっかり操作ボタン押しちゃって、そこに たまたまモノクマが座ってたってだけでしょ?」

 

「言っただろー!過失だろうと殺しは殺し!過失でもボクに危害を加えたら校則違反です!」

 

「ぶー。」

 

「もー、そんな危険思想があるなんて…プレス機の操作スイッチなんて、こうだよ!増やしてやる!」

 

(嬉しそうに言って、モノクマはプレス機の操作台に上がりーー…)

 

「プレス機の昇降ボタン〜リモコン式〜」

 

「ああっ!モノクマの声が違う感じに…!?」

 

「この昇降ボタンは、押すとプレス機が作動するのさ〜。リモコン式だから、格納庫内どこからでも動かせるんだ〜うーふーふー。」

 

「ただし、リモコンが届くのは格納庫内だけだよ。シャッターの向こうや、そこのトイレからじゃ動かせないからね。ヘボ太クン達。」

 

「……格納庫だけでしか使えないならリモコンにする意味ないと思う。そんな道具を22世紀のロボットを引き合いに出すのは いかがなものかな。」

 

「あと、声真似が完璧でも、言い方と説明にヘボ太君への愛が伴ってない。そんなの、あのロボットじゃない。コスプレは心技体だから。三位一体だから。」

 

「お姉ちゃん、落ち着いて。意味不明だから。」

 

「うぷぷぷ。声真似完璧でも完全再現じゃない。特大ブーメランでお返しするよ!では、このリモコンはプレス機近くに置いとくね。ご活用ください!」

 

(いつもの調子に戻ったモノクマは いつもの音と共に消えた。)

 

(上下の三角ボタンだけのリモコン。押すと裏側まで押し込まれるタイプの特徴的なリモコンを残して。)

 

「何だったんでしょう…。」

 

「さあ?それより、お姉ちゃん。どお?何か気付いた?」

 

(いつの間にか、プレス機操作台から降り目の前にいた妹尾さんが上目遣いで わたしを見た。)

 

「えーと…ごめん。脱出の手掛かりとかは…何も。」

 

「……あっそう。行こ、前谷お兄ちゃん。」

 

(妹尾さんは途端に頰を膨らませて、前谷君を引っ張って行ってしまった。)

 

「えっ!?あ、あの、どこに!!?あ、白銀先輩!また後で!!」

 

(手を掴まれた前谷君は彼女とシャッターの向こうに消えた。その背中を目で追いながら、わたしは『V3』最後の事件を思い返していた。)

 

「…行こう。」

 

 

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【校舎1階 食堂】

 

(探索後、夕食のために全員 食堂に集まった。)

 

「モノクマが言った通り、ここから校舎は繋がってないみたいっすね。」

 

「食堂に校舎に繋がる扉がないなんて変だよね。学校なのに。」

 

(確かに おかしい。エグイサルがいないせいか草の生え具合が5章時点のものと思えないけど…ここは、間違いなく才囚学園だ。)

 

(せめて校舎に入れたら…隠し部屋に行けたらーー…。)

 

「……。」

 

(わたしは今…どちらの立場で、それを考えたんだろう。)

 

 

「それにしても、すごいのよ、天海君。トリプルセブンどころか、5つセブン揃えちゃって。」

 

「鍵を手に入れるまで もう少し掛かりそうっすけどね。」

 

「おい、トリプルセブンってなんだ。」

 

「え?セブンがトリプルでーー…」

 

「だから、セブンとかトリプルとかが何かって聞いてんだ。」

 

「嘘でしょ、郷田お兄ちゃん。」

 

「郷田クンの弱点は英語。仕方ない。」

 

「うるせーな。ステージとかシルバーとかはヤマトナデシコに聞いて知ってる。」

 

「トリプルセブンは これっすよ。『7』が3つ揃う…ここのカジノのスロットは5つ揃える必要があるっす。」

 

(そう言って、天海君は机の上に置いてあったシャーペンと紙でトリプルセブンを図に描いて見せた。)

 

「あ?何だ こりゃ?」

 

「あ、これは海外の書き方ですね。」

 

「ああ、そうっすね。向こうだと『1』と間違えやすいのでーー…」

 

(そんな会話をしているうちに、キッチンの方から良い匂いが漂ってきた。わたし達は いつの間にか用意された食事を平らげ、各自 部屋に戻った。)

 

 

 

【???】

 

(気がつくと、わたしは寄宿舎ではない全体的に暖色の室内に立っていた。部屋に戻って、休んでいたはずなのに。)

 

(でも、知らない場所ではない。派手なベッド。チカチカする照明。旋回する木馬。ここは例のアパートだ。つまりーー…)

 

「……。」

 

(わたし1人じゃない。相手に目を向けると、天海君が戸惑いに満ちた顔で こちらを見ていた。)

 

(天海君…夕食の後、またカジノ行って愛の鍵を手に入れちゃったんだ。……仕方ない。)

 

「ねぇ、蘭太郎くん。」

 

(シナリオの通り、わたしが呼びかけると彼は驚いたように、その呼び方を反芻した。)

 

「…何?お兄ちゃんって呼んで欲しいの?わたしは嫌だからね。蘭太郎くんも、わたしを妹って呼びたくないでしょ?」

 

(そう言うと、天海君は大きく目を見開いた。)

 

(彼からしたら、このシチュエーションは妄想というには現実味がありすぎるんだろう。)

 

(何で わたしのイベント、こんな設定なんだろ。)

 

(それから、2、3度 天海君が驚愕と混乱の入り混じった珍しい顔を見せたけれど、お互い黒歴史になるので割愛する。)

 

「兄妹だからとか、そんな事に縛られて この気持ちを捨てたら…一生、後悔する。それくらいーー…」

 

(同い年の義理の兄ができて恋をする妄想…。しかも、それが知人に知られる。社会的な死を迎えるタイプの おしおきだ。)

 

(……でも…まあ、いっか。わたしも天海君も、全部 忘れるはずーー…。)

 

 

 

【寄宿舎 白銀の個室】

 

「……。」

 

(モノクマのアナウンス前にベッドの上で目を覚ました わたしは、顔を洗って身支度を整えた。)

 

(ボンヤリする頭を叱咤して、扉を開けて部屋の外に出る。と、真正面の扉も同時に開かれた。中から現れたのは、当然ーー…)

 

「……天海君、おはよう。」

 

「……おはようございます。」

 

「……。」

 

「……。」

 

(しばしの沈黙の後、天海君は至極不自然に わたしから視線を逸らした。)

 

「あ、じゃあ…俺、急ぎますんで。」

 

「あ、うん。」

 

(彼の背中を見送り、わたしは そのまま回れ右をして部屋に入った。そして、大きく深呼吸をして、)

 

 

「モノクマ〜〜〜!!!!」

 

(おそらく防音の個室であるのをいいことに、これ以上は出ないであろう大音声でモノクマの名を呼んだ。)

 

「はーい、呼ばれて飛び出て…って、うわぁっ。」

 

(現れたモノクマの体を掴んでガタガタ揺らす。)

 

「何でっ、ラブアパートの記憶っ、バッチリ残ってるの!?」

 

「ちょっと、白銀さん、揺らさないで、三半規管が揺れて、気持ち悪い。」

 

「あなたに そんなのないでしょ!!しかもっ…天海君も、なんか覚えてるっぽいんだけども!!」

 

「いやぁ、天海クンは すごいよね。カジノのカーレース以外で一気に稼いで愛の鍵と交換しちゃうんだから。とんだ助平野郎だよ。」

 

「それは開かない扉を開ける鍵で、手掛かりだと思ったからーー…じゃなくて、だいたい何で、わたしが天海君の夢に登場しなきゃいけないの!!」

 

「そんなこと言ったって仕方ないじゃないかァ。データはキミと天海クンのしかないんだから。天海クンが使うなら必然的にキミがマッチングさ。」

 

「記憶がバッチリ残ってるのは何でなの!?」

 

「うぷぷ。サービスだよ。キミも天海クンも、これ以上 忘れたら可哀想だからね。」

 

「いや、忘れさせてよ!」

 

「それにしても、さすが白銀さん。粘膜接触なんて、オットナー!いもうと。なんて、昔のアイドルグループみたい!」

 

(いっそ殺せっ…!)

 

「まあまあ、良かったじゃない。義理の妹設定により、晴れてキミは天海クンの庇護対象さ。おめでとう。」

 

「高校生に庇護してもらう必要ないくらいには自活できるよ!」

 

「そうだねそうだね、この ご時世、カメに攫われがちな姫だって象になったりカウガールになったりして戦うんだからね。」

 

「とにかく、ラブアパートの記憶は消してよ。やりにくいったらないよ…。」

 

「何をー!?せっかくボクがオマエラの湿気た雰囲気を払拭するため気を遣ったのに!だいたい、オマエラの記憶操作も もう飽き飽きなんだよ!」

 

(「イライラ」と自分で言って、モノクマは消えた。)

 

 

 

【校舎1階 食堂】

 

(みんなが集まる朝食会。天海君は わたしと最も遠い席に座っている。)

 

(…よかった。死ぬほど気まずいから。)

 

「え、あれ?何この独特な緊張感?ここは見合い会場?」

 

(10分ぶりの神出鬼没なモノクマの声。ウンザリしながら、そちらに目を向ける。)

 

「……何の用?」

 

「はーあ…白銀さんのオーバーリアクションもなくなって、つまらないなぁ。」

 

「あのねぇ、ボクはオマエラのために行ける場所を増やしてあげたんだよ!」

 

「行ける場所?」

 

「オマエラが校舎に入りたそうにしてたから、校舎の一部を限定公開してあげるよ!」

 

「!」

 

(校舎に入れる?それなら…隠し部屋に行ける。)

 

「ついておいでよ!」

 

(みんな食堂から外へ出て行くモノクマの後に続いた。)

 

 

 

【校舎前】

 

(外を行くモノクマが立ち止まったのは、校舎の正門前だった。)

 

「はい!限定公開で ご覧いただけるのは、校舎の5階です!」

 

「5階だぁ?」

 

「ここから5階に行くんですか?どうやって??」

 

(5階だけ?何で??)

 

(全員が困惑した顔でモノクマを見ると、モノクマは満足そうに笑って叫んだ。)

 

「ダンガンロンパV3、学園長、オン!!」

 

(すると、校舎5階のステンドガラスから階段が現れた。)

 

「な、何!?何が起きたの?」

 

「何って、課長を知らないの?原点を知らないのは恥だよ!」

 

「課長を知らないゲーム実況者…手塚を読まないマンガ家…『死のロングウォーク』を知らないデスゲーム運営者…」

 

「そんな話してないから!」

 

「私たちは実況者でもマンガ家でもデスゲーム運営者でもないわぁ。」

 

「……。」

 

「ま、初期課長代理はオンしないんだけどね。ボクの推しADはサロメ様と同じだからね。」

 

「…とりあえず、登ってみましょう。」

 

(わたし達の前から校舎5階まで架かった階段。それを登って行くと、ステンドガラスが溶けるように消えた。)

 

(そして、みんな困惑したまま、校舎の5階に足を踏み入れた。)

 

 

 

【校舎5階 廊下】

 

(久しぶりの才囚学園の5階。ここには、わたしと天海君、最原君の研究教室がある。)

 

「……ヨーロッパの教会みたいな雰囲気っすね。」

 

「確かに、教科書で見たような感じ。」

 

「はい!雰囲気があります!自分は海外 行ったことはありませんが!」

 

「ギリシャ建築、ロマネスク様式、ゴシック様式、言うなれば全部のせだよね。ここを作った人も、そこまで建築様式に詳しいわけじゃないからさ。」

 

「……。」

 

「さて、すぐ そこにスタジオみたいな部屋があって、奥には旅人が喜ぶ部屋とノスタルジックな部屋があるよ。」

 

「モノクマ。ここは5階っすよね?下に行くための階段がないっすけど…。」

 

「うん、ないよ。下に行く必要はないからね。」

 

「……。」

 

(確かに、下に続く階段が消えている。これじゃ、隠し部屋に行くことはできない。)

 

「好き勝手に調べるといいよ!殺人に役立ちそうなものも見つかるかもよ!」

 

(そんなことを言って、モノクマは消えた。)

 

(天海君と最原君、わたしの研究教室か。どこから調べよう。)

 

 

 天海の研究教室へ行く

 最原の研究教室へ行く

 白銀の研究教室へ行く

全部見たね

 

 

 

【校舎5階 旅人が喜ぶ部屋】

 

(”超高校級の生存者”の研究教室は、様がわりしていた。全体的に赤く物騒だった室内は宿泊施設の一室のようになっていた。)

 

「ドミトリーといった感じですね!」

 

「壁に登山やキャンプとかの道具もある。」

 

「旅人が喜ぶ部屋…か。…あいつ、あー、天海、呼んでくるか。」

 

「ピッケルや専用シューズ…ボクらには分からない道具もいっぱい。後で教えてあげよう。」

 

「きっと喜びますね!」

 

(3人は壁に掛けられたキャンプやらクライミングやらの道具を手に取りながら話している。)

 

(そう。ここは生存者のための部屋というより、“超高校級の冒険家”の研究教室みたいだ。)

 

(天海君が”超高校級の生存者”じゃなければ…彼の研究教室は、こんな感じだったのかもしれない。)

 

 

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【校舎5階 ノスタルジックな部屋】

 

「あ、」

 

「……あ、天海君。ここにいたんだね。」

 

「あ、はい。まあ…隣も見に行くっすけど……。」

 

「そっか。」

 

(部屋に1人だった天海君は、わたしが入ってくるのを確認すると目を逸らした。彼が動揺を見せているせいか、こっちは何とか平静を装うことができた。)

 

(ーーそれでも、天海君の顔は上手く見られない。)

 

(天海君が才囚学園にいる。そのせいか、より鮮明に思い出す。)

 

(血の赤。手に響く感触。人の死の瞬間の音を。)

 

 

「……ここ、探偵博物館みたいっすよね。」

 

(沈黙に耐えられなくなったように、彼が口を開いた。)

 

「…うん。ベイカーストリートっぽいよね。」

 

「……詳しいんすか?」

 

「うん、割とね。オリジナル版から現代ロンドン版も、ニューヨーク版も、東京版も。」

 

(特に、研究教室の資料集めで。……最原君はドイルよりアガサクリスティ派であって欲しい気もするけど。)

 

「真実は!いつも1つ!とは限らない!実際の探偵なんて、浮気調査くらいしかやることないのにね?」

 

「……何しに来たの?」

 

「いや〜、マツゲクンとメガネクンなんて、カルタと金髪美女を取り合いし始めそうな2人が初々しかったもので!」

 

「ここはお察しの通り、探偵の部屋だよ。オマエラのクラスメイトにも お似合いのね!」

 

「……俺たちのクラスメイトについても知ってるんすね。」

 

「そりゃ、思い出させてあげたのはボクなんだから。それより、オマエラのクラスメイトの探偵って何系の探偵だったの?」

 

(……それも知ってるくせに。)

 

「記憶喪失?祖父が超有名?推理作家と同じ名前?見た目は子ども?見た目は子どもの吸血鬼?引きこもり?魔界から来た?すごいグルメ?無能?」

 

(ひとしきり探偵モノの変わり種を羅列したモノクマは、次いで目を赤く輝かせながら言った。)

 

「それとも……もう死んでる探偵とか?」

 

「……。」

 

「俺たちのクラスメイトは生きてるっす。彼なら…俺たちの居場所を見つけ出すはずっす。」

 

「うぷぷぷぷ。そうだといいね。そうだったらいいのにな!そうもいかないから頑張ってね!」

 

(楽しそうなモノクマがいなくなり、天海君は事件ファイルの棚を調べ始めた。遠目に見るに、52冊のファイルが並べられている。)

 

(それに倣い毒薬が並ぶ棚を眺めた。薬品の種類は『V3』の時とは変わっている。フタを開けると顔をしかめたくなるくらい生臭い薬品なんかもある。)

 

(…あの才囚学園は破壊された。けど…わたしは生きている。)

 

(それなら…最原君やキーボ君、春川さん、夢野さんは……?)

 

(天海君だって…今、こうして わたしの目の前にいるんだから。)

 

(『V3』の みんなも…。みんなだってーー…)

 

 

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【校舎5階 スタジオみたいな部屋】

 

「あ、つむぎ。」

 

(わたしの研究教室の扉を開けると、哀染君と妹尾さん、夕神音さんがいた。みんな、入れ替わるセットに驚いた顔をしている。)

 

「ここ、面白い部屋よねぇ。白銀さんも好きそうだと思ってたのよ。」

 

「うん。舞台セットみたいで、哀染君や夕神音さんにも似合うよね。」

 

「……。」

 

「あ…もちろん妹尾さんも。」

 

(妹尾さんは不機嫌そうに頬を膨らせたまま、プイと そっぽを向いた。かなり子供っぽい仕草の下で、輝くシルバーが揺れたのが目に留まる。)

 

「妹尾さん、ペンダントつけてくれたんだね。」

 

(2つ目のステージの鍛冶屋で作ったものだ。これまで身に付けられることはなかったシルバーペンダントが、妹尾さんの首元を彩っている。)

 

「……やっと気付いたの?昨日は気付かなかったのに。」

 

「えーと…昨日の格納庫でも付けてくれてたよね。」

 

「え!気付いてたの?聞いた時、何も気付いたことないって言ってたのに。」

 

「ごめん。手掛かり的な意味だと思ってたよ。」

 

「な、なーんだ。そっかぁ。そうだよね。つむぎお姉ちゃんってジロジロ目ざといし。」

 

(妹尾さんは急に頬を緩めて満面の笑みを見せた。)

 

「それで…どうかな?似合ってる?」

 

「うん、似合ってるよ。つけてくれて嬉しいよ。」

 

「えへへ、ありがとう!つむぎお姉ちゃん!」

 

「よかったね、妹子。」

 

「男女が付き合って しばらくの間は、髪型やアクセサリーが違ったら気付いて褒めなきゃいけないのよねぇ。自信ないわ。」

 

「褒めるのは男性側に求められそうだから…自信なくてもいいと思うよ。」

 

「そうそう。それに、付き合って しばらく…じゃなくて永遠に、だよ!」

 

「世界で1番お姫さまって感じだね…。」

 

「勉強になったよ。それじゃあ、この部屋を調べようか。」

 

(みんなで”超高校級のコスプレイヤー”の研究教室を探索した。)

 

 

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【寄宿舎 白銀の個室】

 

(5階の探索を終えて夕食をとり、部屋に戻ってきた。)

 

(5階の様子は天海君の研究教室以外『V3』の頃と大きく変わらない。最原君の研究教室の犯罪ファイルも52冊だった。)

 

「……あれ?」

 

(『V3』が終わってから、復元されたV2が始まったんだから…ファイルは53冊あっても良さそうなのに。)

 

(そんな考えを巡らせながら、わたしは いつしか寝入っていた。)

 

 

 

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