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第◆章 047は∞度фぬ(非)日常編Ⅱ

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(朝のアナウンス。いつものモノクマの挨拶の後、モノクマはこう言った。)

 

 

『この後、オマエラに重大発表があります!全員 食堂に集まってください!』

 

(動機の発表かな。『V3』では、モノクマからの発表じゃなかったけど…。)

 

「……。」

 

(『V3』5章の動機は、わたしが作って置いた。動機になるような記憶を、思い出しライトに入れて。)

 

(……食堂 行こ…。)

 

 

 

【校舎1階 食堂】

 

「お姉ちゃん!」

 

(食堂に入ると、既に みんな集まっているのが見えた。わたしを見るやいなや妹尾さんが不安げな顔で飛びついてきた。)

 

「全員揃ったけど、モノクマの重大発表って何だろうね?」

 

「それは たぶん…」

 

「動機に決まってるだろー!」

 

「……。」

 

「テメー、性懲りもなく…。」

 

「もう何がきたって殺人なんてする人いないもんねーだ!」

 

「そうそうそうそう捜査時間無用。」

 

「はい!自分たちは殺人なんて起こしません!頑張って全員で脱出するんです!」

 

「うぷぷぷぷ。そんな頑張るオマエラのために必要な動機なんだよね。」

 

「どういうこと?」

 

「この中に、他の人とは違う嘘つきさんがいまーす!」

 

「……!」

 

「嘘つきって…何のこと?」

 

「嘘つきは嘘つき。オマエラが『協力して脱出しよう!』なんてキラキラ目標 掲げているのを影で笑ってるヤツがいるんだよ。」

 

「……ああ!?何だ、それ。」

 

「何だろうね?もしかして:首謀者…とかだったりしたら笑えるよね!!」

 

「首謀者…?」

 

「……。」

 

「……それが本当なら、モノクマにとって不利な情報のはずっす。何で わざわざそんなこと言うんすか。」

 

「そうだね。嘘つきを あぶり出す様子を見てみたいからさ。」

 

「……。」

 

「そんな人!いるはずありません!…よね?」

 

「うぷぷぷぷ。そう信じるなら何も対策せずにヌボーっとしてるがいいさ。」

 

(高笑いしてモノクマは消えた。わたし達の間に何とも言えない空気を残して。)

 

 

「……。」

 

「……嘘だよね?あんなの…。」

 

「嘘ですよ!モノクマが自分たちを不安にさせて楽しんでるんです!多分!!」

 

「でも…モノクマは…嘘が言えないはず。」

 

「……そうだな。」

 

「でも…信じられないわ。」

 

(そんな戸惑う声の中に、1つポツリと言葉が落とされた。)

 

「……イレギュラー。」

 

「……哀染先輩?」

 

「ボク達と異なる動きを取っていたイレギュラー。1つ目のステージ内に凶器を隠して、体育倉庫の封鎖を解いた。」

 

「え?そ、それは…木野サンがーー…」

 

「ボクは信じられないんだ。そんなこと琴葉がしたなんて。」

 

「でも、この中に そんな人がいるというのも信じられないわぁ。」

 

「……。」

 

「それもそうだね。」

 

(哀染君は みんなの視線を受けて真剣な顔を崩し、にこやかに笑った。そして、すぐに食堂から出て行った。)

 

「あ、哀染先輩!待ってください!」

 

「え?あ、ちょっと!つむぎお姉ちゃん、また後で!」

 

(哀染君を追うように、2人も食堂を出ていく。そして、)

 

「あ、あの…ボクも…少し考える。」

 

「あ、おい。芥子。」

 

「…朝食会という雰囲気じゃなくなっちゃったわねぇ。」

 

(残った面々も続々と食堂を出ていった。)

 

 

「……。」

 

「……。」

 

「白銀さんは、どう思いますか。」

 

(外に続くドアを見つめたまま、天海君が問いかけてきた。わたしもドアへ目を向けながら、できるだけ静かな声で答える。)

 

「…天海君が言う通り、わたし達の中に首謀者がいるなら、あんなことモノクマは言わないと思う。」

 

「それに、モノクマは『首謀者がいる』って、はっきり言ったわけじゃないよ。きっと疑心暗鬼の空気を広めたいんだよ。」

 

「モノクマの思惑通りってことっすね。」

 

(わたしの言葉を聞いた天海君が小さく呟き、そのまま扉へ向かっていく。)

 

「大丈夫っすよ。…何とかしますから。」

 

(そして彼は「また後で」と手を掲げて扉の向こうは消えた。)

 

(誰もいない食堂で、わたしは しばらく動けずにいた。)

 

(…そうだ。モノクマが首謀者の存在を明かすはずがない。)

 

(ーー首謀者が用済みにされない限り。)

 

「……。」

 

(わたしは用済みかもしれない。もしかしたら、首謀者クビってことかも。)

 

「……。」

 

(みんなの様子を見ておこう。)

 

 

 

【校舎5階 スタジオみたいな部屋】

 

(校舎正面から生えた階段を登り5階に入ったところで、明るい声が聞こえた。声のする研究教室の扉を開けると、夕神音さんと ぽぴぃ君が迎えてくれた。)

 

「やあやあやあやあ、白銀さん。」

 

「さっきぶりねぇ。」

 

(先程とは打って変わって、2人とも明るい表情で。)

 

「えーと…ずいぶん楽しそうだね?」

 

「今夜は楽しいエンタメショー。モノクマのハッタリは忘れて楽しみましょー。」

 

「エンタメショー?」

 

「さっき、天海君が提案してくれたのよ。2つ目のステージでしたショーみたいに、何か みんなに披露してくれないかって。」

 

「ボクの使命は、みんなを笑顔にすること。それを忘れるとこだった。」

 

「ちょうど、ここはショー向きの部屋だからねぇ。」

 

「…そっか、うん。いいアイデアだね。」

 

(2つ目のステージでのショー。あの時、わたしは みんなにアクセサリーを作った。)

 

(この研究教室にも、アクセサリーを作る道具がある。けど、さすがに今回は時間がなさすぎるね。)

 

(…たくさん作るものがあった あの時に比べて、必要な数は少ないけれど。)

 

 

 

【プールの建物前】

 

(校舎から離れて宿舎に向かう。途中で、プールの建物辺りに人影が見えた。)

 

「郷田君。」

 

「おう、白銀か。」

 

「何してるの?その建物…開かないよね?」

 

「ああ。だが、こんなモンが落ちてたからな。」

 

(郷田君が手にしているのはテニスボールだった。)

 

(星君の研究教室から来たもの…かもしれない。)

 

「今日の夜、芥子たちがショーするらしい。あいつは もう大道芸の道具を持ってねーからな。いいモンねーか探してたんだ。ボールなら ちょうどいいからよ。」

 

「そっか。」

 

「そこら辺に めちゃくちゃ落ちてるから、オレは それを拾ってく。テメーは?」

 

「他のみんなの様子を見に行くよ。」

 

「……それが終わったら休めよ。クマがヤベェぞ。」

 

(郷田君に睨まれて、その場を後にした。)

 

 

 

【寄宿舎】

 

「うおおおおーー!!」

 

(宿舎の建物に入ると、雄叫びが轟いたので面喰らう。叫ぶ前谷君と隣で妹尾さんが耳を塞いでいるのが見えた。)

 

「もー!お兄ちゃん、うるさーい!!」

 

「…ど、どうしたの?」

 

「あ、つむぎお姉ちゃん!」

 

「うおおーー!自分は!やりますともぉー!」

 

「……燃えに燃えてるね。」

 

「うん、天海お兄ちゃんが2つ目のステージみたいにショーをして欲しいって夕神音お姉ちゃんや芥子お兄ちゃんに頼んだらしいんだけど…。」

 

「うん。聞いたよ。」

 

「うおおお!全身全霊、一所懸命、誠心誠意、懇切丁寧に!努めあげたてまつります!!」

 

「…それで、どうして こうなっちゃったの?」

 

「哀染お兄ちゃんにもお声が掛かったんだけど、哀染お兄ちゃんは前谷お兄ちゃんに代わりにショーに出てって言ったの。」

 

「だからといって…こうはならないでしょ。」

 

「前谷お兄ちゃん好みのムワムワ暑苦しい演説だったから…。」

 

 

「じ、自分には無理ですよ!哀染先輩の代わりを務めるなんて…!」

 

「そんなことないよ。キミは体も強いし、格闘技の技はショーで映えると思うよ。ほら、前に見せてくれた瓦割り寝技版とか。」

 

「あ、あんなの誰だってできますよ!」

 

「いや、できないから。」

 

「……光太クンに足りないものがあるとすれば、自信だろうね。キミは、もっと自分の凄さに気付くべきだ。」

 

「じ、自分は…すごいことなんて何もできません…。前の裁判でだって…捜査時間に余計なことをして…。」

 

「撫子の部屋とローズの部屋の入れ替えに気付けたのは、キミが時計を交換したからだよ。」

 

「え…。でも…」

 

「それに、キミはモンスターと闘う時、いつもボクらの前に出て、ボクらを守ってくれたじゃないか。」

 

「けど…自分はトドメは刺せず…」

 

「だからだよ。キミは強くて、優しい。だから、ボクはキミになら背中を預けたいって思うんだ。」

 

「……!」

 

「とある武道の教えに、『力なき愛は無力、愛なき力は暴力』という言葉があるんだって。キミは力と愛、両方兼ね備えているんだよ。」

 

「……!!」

 

「だから、キミ自身の力と愛を信じて欲しい。ボクは信じているから。」

 

「……!!!」

 

 

「……それで、前谷お兄ちゃん、泣きむせび喚いた後、雄叫んでるんだよ。」

 

「それで、哀染君は?」

 

「前谷お兄ちゃんがショーのこと引き受けた瞬間、そそくさと立ち去ったよ。」

 

「そっか。」

 

「…お姉ちゃん、あのね。」

 

(不意に、妹尾さんが わたしの腕を掴んで身を寄せてきた。)

 

「哀染お兄ちゃんには気を付けてね。」

 

「……え?」

 

「なんか…哀染お兄ちゃん、3つ目のステージでお姉ちゃんと話したこととか、すごい聞いてくるの。お姉ちゃんのこと好きなのかも。」

 

「……絶対 思い過ごしだよ。」

 

 

 

【寄宿舎前】

 

「白銀さん。」

 

(建物を出たところで、天海君に声をかけられた。顔を直視しないように、彼の首のペンダントを見る形で彼に視線を向ける。)

 

「……えーと…今から少しいいっすか?5階のスタジオみたいな部屋でーー…」

 

「あ、ショーがあるんだよね?みんなに聞いたよ。天海君が主催なんだよね?」

 

「いや…俺は何も。ぽぴぃ君たちに お願いしただけっすから。」

 

「……声を上げることが1番 難しくて、1番 大事なんだよ。」

 

「……疑心暗鬼の空気は まずいっすから。」

 

「そうだね。」

 

「赤松さんや百田君なら…空気をガラッと変えられたんでしょうけど。俺は誰かの手を借りなきゃ無理みたいっす。」

 

「……。」

 

「白銀さん?」

 

「…アンジーさんも、夢野さんのショーを主催してくれたりしたよね。後は…ゴン太君と王馬君の虫で和もう会とか。」

 

「王馬君 不在だったっすけどね。」

 

「天海君は結構 虫とか平気そうだったね。」

 

「野宿とかも多いっすからね。雪山のクレバスに落ちて遭難しかけた時は、穴を掘って見つけた冬眠中の虫をーー…」

 

「あ、ごめん。地味に聞きたくないかも。」

 

(植え付けられた記憶を辿りながら校舎5階へ向かう。天海君と2人で わたしの研究教室に向かうのは、なんだか変な感じがした。)

 

(依然として彼の顔を見ることはできなかったけれど、気付かなれないように話し続けた。)

 

 

 

【校舎5階 スタジオみたいな部屋】

 

(わたしの研究教室には、既に全員が集まっていた。背景が変わる舞台に立ち、ぽぴぃ君が みんなに挨拶をする。)

 

「みなサン、お集まりいただきありがとうございます。今日は不安な気持ちや悲しいことは忘れて、笑顔で楽しみましょう!」

 

(そして、手にした十数個のテニスボールを宙に放ち、ジャグリングを始めた。)

 

(”超高校級のテニスプレイヤー”のためのボールが こんな使われ方をするとは、チームダンガンロンパのスタッフも思ってなかっただろう。)

 

「わぁ!すごい!!」

 

「妹子は初めてだったね。」

 

「すごい!さすがです!!ぽぴぃ先輩!」

 

「まるで手に磁石でも入れてるみたいにボールが動くわねぇ。鮮やかだわ。」

 

「…フッ。」

 

「いや何で郷田お兄ちゃんが得意げなの。」

 

(その後は、ぽぴぃ君の大道芸は難易度が高そうなものに変わっていき、夕神音さんの歌や前谷君の寝技瓦割りとやらへとシフトした。)

 

「先輩や先パイの後に お見せするには拙い芸でしたが、ありがとうございました!!!」

 

「拙いなんて とんでもない、見事な割り具合だったよ。」

 

「ええ。割れに割れてたわねぇ。」

 

「割れに割れて、我 忘れて見入ってた。」

 

「ああ。やるじゃねーか、デカ…前谷。」

 

「え!こ、こんなの、1日 練習すれば誰でもできます!」

 

「できないってば。やらないし。」

 

「!!ありがとうございます!うおおおおーー!」

 

「うるさーい!!あたしは別に褒めてないよ!」

 

(みんなの表情は今朝に比べて和らいで見えた。)

 

「…天海君のおかげだね。」

 

(思わず呟きが漏れたのが聞こえたらしい。近くにいた天海君が頰をかいた気配がした。)

 

「俺は何もしてないっすよ。」

 

「ううん。キミが主催という、1番 大変な仕事をしてくれたんだよ。キャストと交渉して、ボクらゲストを集めたんだから。」

 

「……。」

 

(天海君は全員からの感謝の視線を浴びて、目を細めた。ホッとしたような、安堵の表情だ。)

 

(少なくとも、今は この場に朝のような疑心暗鬼の雰囲気はない。そのことに安心したように彼は少し笑って、また表情を真剣なものに戻した。)

 

「みんな、見て欲しい場所があるんすけど…。」

 

 

 

【メカメカしい建物】

 

(天海君に促されて、キーボ君の研究教室だった建物に入る。)

 

「あ、あれ?開いてなかったのに。」

 

「今朝、色々 見てまわっていた時、開いてることに気付いたんす。」

 

「ショーの主催と並行してステージ探索。天海クンは冒険家の鑑。」

 

「さすが蘭太郎クンだね。」

 

「それより少しは休めよな…。」

 

(キーボ君の研究教室の中は『V3』の時と あまり変わりはない。変わったところといえば、近未来的な機械が並ぶ室内に見覚えない箱があるだけだった。)

 

「この箱は何?」

 

「その中身は…爆弾…みたいっす。」

 

「爆弾!?」

 

「えーと、大丈夫なのかしら?」

 

「ば、ば、爆発したら大変ですよ!!」

 

「いえ、起爆装置らしきものは別にあるので、今 爆発の心配はないっすよ。」

 

「…そうなんだ。でも…このままにしておくのは危ないよね。」

 

「誰かが使うかもしれないから?」

 

「…違うよ。この中に、殺人を起こしても外に出たいなんて人…もういないでしょ?」

 

「その通りです!!」

 

「そうねぇ。知らない人間は いくらでも殺せるけど、よく知る人間は殺せない…ローズさんが言ってたわぁ。」

 

「物騒なこと、この上ない。」

 

「とにかく、この爆弾が使えねーように建物を封鎖してーー…」

 

「いや、建物の封鎖は校則で禁止されたな。最初のステージで。」

 

「うん。郷田お兄ちゃん達が武器いっぱいの体育倉庫を封鎖したけど、何日かしたら封鎖が解かれてたんだよね。」

 

「そうだったね。じゃあ、どうしようか?」

 

「そうっすね。この箱が開かないようにーー…」

 

「ちょっと待ったぁ!」

 

「…!モノクマ、何の用っすか。」

 

「用意したものを使えないようにするのを防止した校則なんだから、箱が開かないようにするのも校則違反だよ。」

 

「ああ!?何でだよ!校則違反は建物の封鎖だろ!?」

 

「ハイハイそーですね。そんなに喚くなら、校則を少し変更します。」

 

「今後は建物に限らず、コロシアイ阻止の目的で施設や部屋を封鎖したり、備品を使えないように細工するのは禁止です!」

 

「ああ!?ふざけんなよ!」

 

「横暴だよ!」

 

「うるさくしない、喚かない、騒がない!さらわれた時の『ウ、ワ、サ』を知らないの!?」

 

「知らないよ!!」

 

「ハア。仕方ないなぁ。そんなに爆弾が怖いなら、起爆装置は回収してやるよ。」

 

「…起爆装置がなくても、何かの拍子に爆発するかもしれないよね?」

 

「……。」

 

(わたしが言うと、モノクマは わたしをジッと見てから笑った。)

 

「安心しなよ。この爆弾は厚い装甲に覆われた特別性だから、ちょっとやそっとの衝撃じゃ爆発しないよ。地雷みたいに踏んで爆発〜とはならないから。」

 

「ま、こっちは威力絶大だけどね。殺さず足の機能だけ奪って、他の仲間2人が横から庇って歩くのを狙うための地雷と違って。」

 

「オタクってよく、地雷地雷 言うけど、簡単に使っていい言葉じゃないんだ!ボーフラみたいに沸いて出る不謹慎警察は何で取り締まらないんだか!」

 

「……。」

 

「あ、別にオタクって、白銀さんを名指しして批難したわけじゃないからね!絶対絶対 違うからね!!」

 

「そんなこと どうでもいいよ。」

 

「ルールを急に捻じ曲げるなんて、卑怯っすよ。」

 

「捻じ曲げてなんかないも〜ん、校則は追加するかもっていうのがルールだよ!」

 

「あ、爆弾を借りたい人は この電子貸出機にモノパッドをかざしてね。貸し出しは1週間まで。」

 

「5階の薬品棚の薬品にも同じ貸出機を取り付けましたので、同じくご活用ください。貸出ルールは守ること!以上!!」

 

「誰が借りるんだ、ンなモン!!」

 

(郷田君が怒鳴りつけると、モノクマは いやらしい笑いと共にいなくなった。)

 

(それから、みんなでキーボ君の研究教室を調べたけれど、爆弾以上に危険そうなものはなかった。)

 

 

 

【寄宿舎 白銀の個室】

 

(モノクマは、動機代わりに嘘吐きがいることを示した。)

 

(1作目と同じ。次のコロシアイを起こすためだ。)

 

(…そして、わたしが もう必要なくなったってこと。)

 

(それは そうか。今のわたしじゃ首謀者なんて務まらない。上が そう判断しても仕方ない。)

 

「でも、しばらくは…大丈夫かな。」

 

(朝のまま疑心暗鬼が続けば、また新たな被害者が出ただろうけど、天海君のおかげで参加者の雰囲気は悪くない。)

 

(それに…動機に わたしが関わるなら、わたしが動かない限り…気を付けている限り、事件は起きないんだから。)

 

(事件を起こさないよう気を付ける…か。)

 

(首謀者失格だね。)

 

 

…………

……

 

『キーン、コーン…カーン、コーン』

 

(朝。食堂へ向かう。さすがに連続の睡眠不足がキツい。)

 

(そういえば…最初のステージでも完徹しちゃったことがあったな。)

 

(でも、あの時は『ダンガンロンパ』を続けられるという高揚感で疲れなんて感じなかった。)

 

「…こんなに変わっちゃうなんてね。」

 

 

 

【校舎1階 食堂】

 

「お姉ちゃん、おはよう。」

 

「おはようございます。」

 

「おはよう。疲れているみたいだね?」

 

「テメー、今日は休めよ。」

 

「子守唄は歌えないけど、リラックスできそうな歌でも歌いましょうか?」

 

「前のステージでも、夕神音先パイの歌で白銀先パイは熟睡していましたもんね!」

 

「安眠快眠春眠冬眠。」

 

(食堂に集まった面々に変わった様子はない。昨日のショーのおかげか、疑心暗鬼の様子は全く見られなかった。)

 

(この中に首謀者がいるって…全く信じていないのかな。)

 

(賑やかな朝食会だった。まるで昨日の朝の発表がなかったみたいに。そして朝食を終えた全員、またステージ探索に散っていった。)

 

(もう1度、入れるところを見ておこう。)

 

 

 校舎に行こう

 格納庫に行こう

全部見たね

 

 

 

【校舎5階 スタジオみたいな部屋】

 

(校舎5階の建物内に入ると、柔らかい歌声が聞こえてきた。考えるまでもなく、歌姫の歌声だ。)

 

(研究教室の扉を開けると、歌声が鮮明に耳に届いた。同じく部屋の中にいた妹尾さんが、わたしに近付いてきて笑った。)

 

「歌が聞こえて部屋に入ったんだけど、夕神音お姉ちゃん、声かけても全然 気付かないんだよ。」

 

「集中してるんだね。えーっと、これ有名な歌だよね?」

 

「うん、有名な愛の歌だよ。夕神音お姉ちゃんの十八番だけど、こんな風に歌ってるのは意外かも。」

 

(十八番なのに意外なんだ。)

 

「あーあ、つむぎお姉ちゃんにも、声かけられても気付かないくらい集中する瞬間があればいいのになぁ。」

 

「結構あると思うよ?」

 

「え?ほんと!?」

 

「うん。気付かないってわけじゃないけど、考え事を優先してたらクラスメイトに頬プニプニされたり…。」

 

「そうなの!?じゃ、つむぎお姉ちゃん、どうぞ!今すぐ考え事して!ペタペタムニムニやりたい放題させてもらうから!」

 

「…そんなこと言われたら絶対しないよ。」

 

(コスプレ衣装 作ってる時とかもNOW LOADING…レベルで集中してるけど、黙っておこう。)

 

「ーーあらぁ?白銀さん、妹尾さん。」

 

「あ、やっと気が付いた。」

 

「もしかして、ずっといた?」

 

「うん。集中して歌ってたんだね。」

 

「そうねぇ。ふふ。みんなのおかげで、好きな歌が増えたわぁ。」

 

「ねえねえ、リクエストとかしてもいいの?あたし、あれ聞きたい!クラシック音楽に歌が付いたやつ!」

 

「もちろんよ。歓喜の歌かしらぁ?キラキラ星かしらぁ?ジュピターかしらぁ?」

 

「でも、その前に、ローズさんの好きだった歌を歌っていい?今、彼女のために歌っているの。」

 

「うん。もちろんだよ。」

 

「じゃあ、2人も聴いていてねぇ。『元カレ殺ス』と『希望の宇宙の』と『F』と『旧支配者たちのキャロル』」

 

(選曲のクセがすごいな。)

 

(ローズさんセレクションとリクエスト合わせて全10曲を聴いて、わたしは部屋を後にした。)

 

 

 

【校舎5階 旅人が喜ぶ部屋】

 

「やあやあ白銀サン。ようこそ、男のロマン部屋へ!」

 

「白銀先パイ!さっきまで、天海先輩もいたんですよ!」

 

(元・天海君の研究教室には、ぽぴぃ君と前谷君がいた。彼らは一昨日と同じように、壁や棚に並べられたアウトドアグッズを眺めている。)

 

「ピッケルとかロープとかは分かるけど…よく分からない道具も多いよね。プロの道具って感じだよ。」

 

「ボクも世界を巡ったけれど、いつも都会の観光地ばっかり。所詮、観光客。飛行機 電車で行けるとこ。こういう道具は使わない。」

 

「自分も大冒険には憧れます!!天海先輩に南米の旅の話を聞く度に、血沸き肉踊り骨折れます!」

 

「骨折れちゃった。」

 

「自分も…いつかは南米に行き、言葉もジェスチャーも数字の書き方も、その土地に染まりたいものです!!」

 

「……そっか。じゃあ、ここから出ないとだね。」

 

「全くもって、その通り。」

 

「もちろんです!みなさんと協力して脱出します!自分の力を活かせる場面があるはずですから!!うおおぉおー!!」

 

「まだ昨日の熱気が残っている模様。」

 

(部屋の温度と湿度が高くなってきたので、わたしは そっと部屋を出た。)

 

 

 

【校舎5階 ノスタルジックな部屋】

 

(最原君の研究教室は静かだった。部屋に誰もいないわけではないのに。)

 

「……。」

 

「……。」

 

「…あれ?つむぎ?いつからいたの?」

 

(難しい顔で事件ファイルを眺めていた哀染君が顔を上げた。)

 

「ずいぶん集中していたんだね。」

 

「まあね。ボク、本が好きなんだ。」

 

「そうなんだ。でも、ここのは本って感じじゃないけど…。」

 

「そうだね。でも、外の世界を感じられるものは何でも好きなのかな。ボクは海外に行ったことがないからね。」

 

「そっか。」

 

(彼の声に耳を傾けながら、彼が手にする犯罪ファイルを覗き込む。そこには、写真が載っていてーー)

 

「あれ!?」

 

(思わず、声が出た。写真には黒いタテロールとゴスロリ服が写っていて、次の写真には帽子を被ったピンク色の髪にツナギ服。)

 

(それは考えるまでもなく、過去作品に登場した2人だ。)

 

(何これ…。どうして2人が同じコロシアイに参加しているの?このファイルは、わたし達が用意したもの…のはず。)

 

(ーーダメだ…。53回目の準備…52冊の犯罪ファイルを用意した記憶すら薄れてきてる。)

 

「……つむぎ?大丈夫?」

 

「……大丈夫。」

 

(犯罪ファイルを棚から いくつか引き抜きパラパラ捲る。やはり、記憶のある顔が いくつかあった。)

 

(1作目や2作目のキャラクターが、他の『ダンガンロンパ』にも参加してた?しかも、写真付きってことはーー…)

 

「つむぎの目は、綺麗な色だね。」

 

「え?」

 

(夢中になってページを捲っていた矢先、哀染君の声が近くに聞こえて顔を上げる。と、思ったより だいぶ近い距離から瞳を覗き込まれていた。)

 

「普段は緑がかった深い青。けど…ときどき変わるよね。」

 

「そ、そうなの?あ、光の加減かな?」

 

「そっか。自分では気付かないものなのかな?」

 

(言いながら彼が距離を詰めるので、わたしは その分、距離を取る。)

 

「あの、哀染君…近い。アイドルファンとかに見られたら刺されそうで怖い近さだよ。」

 

「あ、そっか。ごめん。これじゃ、キミしか見えないね。」

 

(”キミしか見えない”距離のまま、彼がウインクした。リア充御用達の表情に耐えられず、ソーシャルディスタンス!とか密!とか叫びかけた時、)

 

「な、な何っ!!してんのーー!!」

 

「あ。」

 

(背後から甲高い悲鳴が響き、わたしは衝撃と共に、2、3歩 後退した。わたしの胸に飛び込んできた妹尾さんが哀染君を睨み上げる。)

 

「もー!哀染お兄ちゃん近いー!!そんなチュッチュできる位置で見つめるとか!距離感バグってんの!?」

 

「つむぎお姉ちゃんも、気を付けてよ!イケメンリリック少年ボーイなんて、みんなスケコマシなんだから!」

 

「…どうやら、刺されるのはボクの方みたいだね。」

 

 

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【メカメカしい建物前】

 

(格納庫へ向かう途中、キーボ君の研究教室の前に仁王立ちしている郷田君と目が合った。)

 

「…郷田君、何してるの?」

 

「爆弾みてーな危ねーもんがあるからな。誰も入らねーように見張ってんだよ。」

 

「そっか。」

 

「……。」

 

「……誰かが持ち出すかもしれないって思ってる?」

 

「違ぇっ!!」

 

(わたしの言葉に彼は声を荒げた。そして、ハッとしたようにトーンを落として言葉を絞り出した。)

 

「オレは…今ここにいる全員を信じてる。けど…だからこそ、誰も死んで欲しくねーんだよ。」

 

「……。」

 

(首謀者が…本当に、この中にいたとしても?)

 

(そんな言葉が喉まで出かかったのを何とか耐えて、その場を離れた。)

 

 

 

【格納庫】

 

「白銀さん。」

 

(サイバーパンクな中庭を抜けた先、開いたままの格納庫シャッターの向こうに天海君がいた。)

 

「天海君…シャッター開いてたんだね。」

 

(天海君の顔を見ないように、シャッターへ目を向ける。)

 

「開閉ボタンがシャッター横に付いてるってモノクマが言ってたっすよ。」

 

(彼が指差す先には、シンプルな上下の三角ボタンがあった。『V3』と異なり、パネル操作ではないらしい。)

 

「……。」

 

「みんな…元気っすかね。」

 

(”みんな”。”クラスメイト”のことだ。心臓がギュッと締め付けられる感覚がした。)

 

「……そうだね。」

 

「このステージに来てから…みんなを思い出すことが増えたんすよ。5階の部屋は最原君に合いそうだとか、昨日の部屋はキーボ君に似合いそうだとか。」

 

「…キーボ君本人は『和室がいい』とか言いそうだよね。」

 

「確かに。」

 

「……。」

 

「白銀さん。最原君が異変に気付けば、必ず俺たちの居場所を見つけ出すはずっす。だから、それまで…俺たちは内から手掛かりを見つけましょう。」

 

「……うん。」

 

「…けど、最原君より俺たちが事件に巻き込まれるとは思わなかったっすね。彼の方が事件を呼ぶ体質なのに。」

 

(天海君がシャッターから わたしに視線を移した気配がした。わたしは変わらずシャッターの方へ目を向けたまま話題を探す。)

 

「探偵にありがちだよね。死神体質。事件に走り回って睡眠不足の時は『眠らない終一』とか言われてたし。」

 

「あ……。終一…だからかな。」

 

「えっ。」

 

「ほら。一…新一…龍一…圭一…友一…事件の影に、やっぱり『一』ってヤツだよ。」

 

「……。」

 

(視線に気付かれないよう苦し紛れに出した言葉だった。けど、我ながら的を射てる気がする。)

 

(そういえば、今回の参加者の中に『一』が付く人がいない。わたしが覚えている限り、1シリーズに1人はいたのに。)

 

(そんなことを考えた時に聞こえたのは、ふっと吹き出した音。思わず視線を天海君へ向ける。彼は少し緊張をといた表情で口元を押さえていた。)

 

「やっぱり、何 言ってるのか分からないっす。」

 

「……って、なんか この感じ、久しぶりっすね。」

 

「…そういえば、その言葉を聞くのも久しぶりかもね。」

 

(久しぶりに天海君と目が合った。瞬間、いつも通り彼の首に視線を移した。)

 

「……何というか、白銀さんの顔色も悪いし…それどころじゃなかったっすからね。」

 

「……。」

 

「前のステージから…俺、避けられてないっすか?」

 

(……バレてる。)

 

「そんなことないよ?」

 

「けど、俺と2人で話す時、目が合わないっすよね。」

 

(…さすが観察眼が鋭い。)

 

「天海君こそ、このステージに来てから、わたしのこと避けてたよね?」

 

「いや、それは変な夢をーー…あ、いや、何もないんすけど。」

 

「……。」

 

「すみません。気にしないでください。…お詫びに今度、何か美味いデザート作りますよ。ダダールグルンとかピカロンとかオム・ハリとか。」

 

「天海君こそ、何 言ってるか分からないよ。」

 

(思わず、また天海君の顔をマジマジと見てしまった。そこには優しい微笑みがあって、ガツンと頭を殴られたような気になった。)

 

「名前は聞き馴染みないっすけど、味は保証するっすよ。」

 

「……。」

 

「楽しみにしてるね。」

 

(わたしが答えると、またホッとしたような笑顔が返ってくる。)

 

(胸が温かくなる。)

 

(ーーそう感じたそばから、急激に冷えていく。それは、やがてズキズキとした胸の痛みに変わっていった。)

 

(ーーわたしは、この手で、彼を殺した。)

 

(みんなを、陥れたんだ。)

 

(震えそうになる身体を抑えて笑顔を貼り付け、天海君に「また後で」と告げた。)

 

 

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【寄宿舎 白銀の個室】

 

(みんなと夕食を食べた後、部屋のベッドに身を横たえた。しばらく目を閉じて深呼吸を繰り返す。)

 

(今回の…この『V2』のコロシアイを終わらせる…それだけじゃダメだ。)

 

 

「『ダンガンロンパ』を終わらせるんだ!」

 

 

(『ダンガンロンパ』を終わらせる。それが、『V3』の結末だった。)

 

(それなら、わたしが…。)

 

「……。」

 

(首謀者が何言ってんだって話だけど。)

 

 

……

 

(トントンと部屋がノックされた音で、微睡かけていた わたしは目を覚ました。)

 

(嫌な予感を感じながら、扉を開けた。)

 

 

 

「白銀サン!起きて!!大変だよ!」

 

(扉を開けて現れたのは、ぽぴぃ君と集まった人たちの慌てた顔。次いで、金属が焦げた嫌な匂いを感じた。)

 

「格納庫の方が火事なんだ!」

 

「は、早く行きましょう!!女性陣は待っていてください!」

 

「あ、あたし達も行くよ!」

 

「そうね。急ぎましょう。」

 

 

 

【格納庫】

 

(サイバーパンクな通路を走り、格納庫の前に辿り着いた。歪んだ状態で閉じられたシャッターの前に郷田君が立っている。)

 

「郷田クン!良かった…!火事は…!?」

 

「火は収まっているみてーだ。来た時には火は消えかけてた。火元は中みてーだが、シャッターがイカれてて中に入れねぇ。…おい、テメーらだけか?」

 

「う、うん。2人は…部屋をノックしたけど…誰もいなくて…。」

 

「……。」

 

「と、とりあえず、シャッター、自分が力ずくで開けますよ!」

 

「ダメよ。焼けた金属を肌に当てられたら死ぬほど痛いってローズさんが言ってたわぁ。」

 

「じゃ、じゃあ、とりあえず…お兄ちゃん2人、探しに行こ?もー、こんな時にどこ行っちゃったのかなっ。」

 

(ここにいない2人。みんなが嫌な予感を感じているのだろう。妹尾さんが明るい調子で言った。そこに現れたのは、)

 

「呼ばれて飛び出て〜!」

 

「モノクマのことなんて呼んでない!」

 

(消防士みたいな雑なコスプレのモノクマだった。)

 

「しょぼーん。頑張って消火活動したのに。傷付くなぁ。」

 

「モノクマ。火は消えてるんだね?」

 

「うん。早起きして頑張ったからね。」

 

「そのシャッターが壊れて中に入れないんだ。開けてくれる?」

 

「もー、クマ使いが荒いんだから。」

 

(モノクマがブツブツ言いながらシャッターを開け、それと同時に消えた。その先は床から天井まで見事に真っ黒で、変な匂いと煙で目が痛くなった。)

 

(真っ黒な床に足跡を残しながら、わたし達はグニャグニャに曲がったプレス機やエグイサルの洗浄機を見回しーー…)

 

(そして、発見した。)

 

(真っ黒になった室内に同化する真っ黒な人の形をした何かを。)

 

 

『死体が発見されました!』

 

(黒い部屋の中の曲がったモニターからモノクマのアナウンスが鳴り響いた。そこで、みんなは やっと、それが何なのか実感したようだった。)

 

(それは、誰かの死体なのだと……。)

 

 

 

非日常編へ続く

 

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