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第◆章 047は∞度фぬ 非日常編

 

(発見アナウンスが鳴り響き、みんな黒いものが何なのか確認した様子だった。)

 

「クソ…!クソが!!」

 

「え…嘘、だよね。だって…そんな。」

 

「まだ…終わらないのねぇ。」

 

「というか……この死体って…誰?」

 

「ここにいない人…ってことですよね!?」

 

「うぷぷぷぷ。アーハッハッハ!コロシアイは終わらないよ。」

 

(黒く煤けた格納庫内にモノクマの笑い声が響いた。)

 

「まだ いたの?」

 

「当たり前だろー!!これをオマエラに渡さないと始まらないんだから!」

 

(いつも通りファイルを配るモノクマは、わたしに2枚のモノクマファイルを手渡した。)

 

「遅刻者に渡しておいてね。」

 

「遅刻者…。2人のうち、どっちかってこと?」

 

「ぷぷぷ…。」

 

(意味深な笑いを残して消えるモノクマ。それを見た みんな慌ててモノクマファイルを開いた。)

 

(被害者は爆撃を受けている為、身元不明。死体発見現場となったのは格納庫。死亡推定時刻は午前2時半〜3時半頃…か。)

 

「被害者…身元不明?」

 

「クソッ!何なんだよ!」

 

「それ以外の情報も少ないね。」

 

 コトダマゲット!【モノクマファイル】 

 

「被害者はここにいない先輩のどちらかって…ことですよね。」

 

「……。」

 

(ここにいないのは…天海君と哀染君。けれど、わたしには分かってる。)

 

「あ…あたし、お兄ちゃん達を探してくる!!」

 

「せ、妹尾先パイ!!」

 

(妹尾さんがモノクマファイルから顔を上げて格納庫の出口に駆け出した。ーーと思ったら何かに ぶつかったらしく、小さく悲鳴を上げて よろけた。)

 

「あ、すみません…!大丈夫っすか?」

 

「天海…お兄ちゃん。」

 

(額に汗を浮かべた天海君が格納庫入り口に立っている。)

 

「天海君…良かった。」

 

(ーー『ダンガンロンパV2』だから当然ではあるんだけど。)

 

「良かったわ…生きていてくれて。」

 

「…え、じゃあ…あの、死体。」

 

「……っ。」

 

「妹尾さんっ。」

 

「あ!あ!!自分、追いかけます!!」

 

(妹尾さんは途端に泣きそうな顔になって、格納庫から出て行った。一瞬 遅れて、前谷君も背中を追いかけて行った。)

 

「死体発見アナウンスがーー…」

 

「分かってる。発見者はオレら全員だ。」

 

「……ここにいないのは、哀染君っすね。」

 

「……そう、だね。」

 

「じゃあ、これ…哀染君なのね。」

 

「……。」

 

(全員が黒く焦げた身体を見やる。そこには生前の面影は当然ない。初めから無機物の塊だったかのようにすら思えてくる。)

 

 

「……とりあえず、現場を調べましょう。」

 

(天海君が みんなを促した後、わたしの方に近付いてきた。)

 

「白銀さん、それ…俺のモノクマファイルっすよね。」

 

「うん。モノクマから預かったよ。」

 

「ありがとうございます。」

 

「天海クン、どこにいたの?部屋をノックしたんだけど…。」

 

「…ちょっと眠れなくて5階で調べ物してたんすよ。アナウンスがあって、急いで来たっす。」

 

「そうかよ。心配させんな。夜中にフラフラ歩いて何かあったら どーすんだ。」

 

「…すみません。」

 

「…既に何かあったから、ここは この状況なのよねぇ。」

 

「まあまあ、とりあえず今は何があったか調べよう。」

 

「そうだな。行くぞ、芥子。…と…夕神音。」

 

「あらぁ。私もいいの?」

 

「夕神音サンとボクはショー仲間。」

 

「あいつらクラスメイトのくせに、あんま話してねーからな。」

 

「……。」

 

「……。」

 

(余計な気を回して、郷田君たちは格納庫入り口辺りを調べ始めた。)

 

「……久しぶりに天海君と捜査だね。」

 

「…よろしく頼みます。」

 

(残された天海君に声を掛けたけれど、目が合うことはなかった。)

 

 

 死体を調べる

 周辺を調べる

全部見たね

 

 

 

(黒い塊は損傷が激しいものの、四肢を残しているため、かろうじて人の形を保っているという感じだった。)

 

(けれど、身につけたものも皮膚も焼け落ちて黒くなっているため、生前の姿は全く分からない。)

 

(これが…本当に哀染君だったのか。信じられないくらいに。)

 

(人の焼けた匂いは だいぶ薄れているが、反射的に息を止めたくなる。胃から吐き気が込み上げてきた。)

 

「……白銀さん。無理しなくていいっすよ。」

 

「…大丈夫。」

 

(死体に近付いて、その様子を観察する。)

 

「身長は…わたしと同じくらい。男性、痩せ型…哀染君の特徴と一致するね。」

 

「……そうっすね。哀染君が ここにいない以上、彼しか考えられないっす。」

 

(一応、シリーズ1作目に例外があったけど。)

 

(そんなことを考えていると、黒い板状のものを拾い上げて天海君が呟いた。)

 

モノパッドが落ちてるっす。」

 

「…これ、哀染君のっすね。起動したら名前が出てきたっす。」

 

(電子生徒手帳は熱に弱かったはずだけど無事だったらしい。割れた液晶部分を いじっていた天海君が、わたしにモノパッドを見せた。)

 

「これ、見てください。」

 

「えっと、写真?あ、2つ目のステージで追加された“クラスメイト”の写真だね。」

 

「ええ。前谷君や妹尾さんが写ってるっす。でも…」

 

(見せられた10枚の写真。動機として追加された”クラスメイト”の写真。それらを順に見ていったがーー…)

 

「あれ?哀染君、いない…?」

 

「はい。哀染君らしき人が写ってないんすよ。」

 

「…どういうことだろうね?」

 

 コトダマゲット!【哀染のモノパッド】【動機の写真】 

 

(死体近くに落ちているのは、モノパッドだけではない。黒く変色して歪んでいるものが二つ。それは、被害者が今までのステージから持ち込んでいたものだ。)

 

音楽プレイヤーとヘッドホンっすね。」

 

「哀染君、前のステージから持ってきてたね。」

 

「はい。音楽プレイヤーは2つ目のステージの牛の腹から出てきたっす。」

 

「ヘッドホンは永本君の…だね。彼が1つ目のステージで おしおきされた時、裁判場に現れた…。」

 

「でも…おかしいっすね。音楽プレイヤーには牛の声しか入ってなかったっす。音楽を聴くために持ってきたとは思えないっすね。」

 

「…本当に牛の声だけだったのかな。」

 

「え?」

 

「だって…ヘッドホンも音楽プレイヤーも哀染君が格納庫まで持ってきたってことだよね?ここで牛の声を流したっていうのは考えにくいよ。」

 

「……確かに、哀染君が探索のために音楽プレイヤーやヘッドホンを持ち込むのは おかしいっすね。」

 

「うん。音楽プレイヤー…詳しく調べられたらいいんだけどね。」

 

 コトダマゲット!【音楽プレイヤー】【ヘッドホン】 

 

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(格納庫内は床も壁も黒く変色している。特にプレス機から入り口にかけては真っ黒だ。入り口近くのススを踏み荒らした跡が残っている。)

 

(トイレ側の床も黒くこすれた跡がある。壁も歪んでデコボコになっていた。)

 

「これ…プレス機だったのか。言われなきゃ分かんねーな。」

 

「グニャグニャに曲がってるね。」

 

「爆心地って感じねぇ。」

 

(3人が歪んだプレス機を眺めている。3人が言う通り、プレス機は もはや何もプレスできないくらいに曲がっていた。)

 

「確かに…この辺りで爆発があったと考えられるっすね。」

 

 コトダマゲット!【プレス機】 

 

「爆発…爆弾が使われてるはずだよね。やっぱり、一昨日みんなで見つけた爆弾が使われたのかな?」

 

「…起爆装置はモノクマが持っていったはずっすよね。」

 

「そういえば、そうだったね。」

 

(でも、衝撃が加えられれば爆発するとも言っていた。)

 

(もう1度 折れ曲がったプレス機を見上げたところで、間伸びした声がした。)

 

「あらぁ?」

 

「どうした、夕神音。」

 

「見てちょうだい。分かりにくいけど…ここ、ススが こすれているところ…文字が書いてあるわぁ。」

 

「……本当っすね。」

 

「どいてろ。」

 

(夕神音さんが指差したのは、プレス機の目の前の床。郷田君が服で床を擦ると、スス汚れの中から文字が現れた。)

 

 

「えっと…1103…Lhかな…7?」

 

(1103…1作目2作目のキーになる数字に似てる。でも…)

 

「これ…書いたんじゃなくて、床を削った跡だよね?」

 

「誰かが彫ったってこと?」

 

「結構 深く彫られてんな。前から こんなんあったか?」

 

「なかったよ。」

 

「…ダイイングメッセージってやつかしら?ローズさんが言ってたわ。残されたら犯人涙目って。」

 

「犯人の手掛かりを哀染クンが残したってこと?けど…このメッセージの意味は?」

 

「意味 分かんねーな。」

 

(…現場に残されたメッセージか。でもメッセージの意味が全く分からない。)

 

(『11037』の中に『Lh』…どんな意味があるんだろう?)

 

(他にも『523104』とか『911333』とか『33』とか『11+7=18』とか、ミステリモノで見たことある解き方を いくら考えても、その意味は分からない。)

 

(それに…このメッセージには何か違和感がある。)

 

(やっぱり…謎を作る脳と解く脳は違うんだな。)

 

「白銀さん、どうかしら?何か分かった?」

 

「…うーん、ごめん。何も分からないや。」

 

 コトダマゲット!【プレス機近くの傷跡】 

 

「…火事に最初に気付いたのは、ぽぴぃ君なんすよね?」

 

「うん。明け方近くに変な匂いがして起きたんだ。それで寄宿舎の方から煙が出てるのが見えて…郷田クンを起こしたんだ。」

 

「そんで、オレは叩き起こされて すぐ、ここに向かった。そん時は既に火も沈静化してたがな。」

 

「ボクは郷田クンが格納庫に向かった後、みんなを起こして回ったんだ。後は、みんなが知る通りだよ。」

 

「爆発後、シャッターが壊れて格納庫には誰も入ることはできなかったよね。」

 

 コトダマゲット!【格納庫の正面シャッター】 

 

「あと、白銀さん。」

 

「え?」

 

「これ、さっき隅で見つけたわ。」

 

「えーと…何これ?」

 

(夕神音さんが手のひらに載せているのは、黒い歪な塊だった。)

 

「分からないけど…前からあるものかしら?」

 

(受け取った感触からして、金属ではない。格納庫にあったものを思い浮かべて照らし合わせたけれど、該当するものはなかった。)

 

「前に来た時は…なかったと思うよ。」

 

「ねえ、これ…ボールじゃないかな?」

 

「ボール?」

 

「うん。ベコベコだけど…ボールだよ。」

 

(ボールだとしたら…あれしかない。けど…どうして こんなところに?)

 

 コトダマゲット!【焦げたボール】 

 

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(死体と格納庫内は だいたい調べられたかな。)

 

(格納庫入り口に向かう足にコツンと当たるものがあった。)

 

「あれ。これ?」

 

「これ…こんなところに…。」

 

(拾い上げると、黒くて歪んでいるものの見覚えがある。シンプルな棒状の金属。それは…。)

 

「…シュラスコ串だね。哀染君が持ってきてた…。」

 

「…そうっすね。入り口近くは真っ黒なんで今まで気付かなかったっす。」

 

「でも、ここに何でシュラスコ串なんてあるんだろ。哀染君が持ち歩いてたのかな。」

 

「さっきの音楽プレーヤーといい、妙な持ち物っすね。」

 

 コトダマゲット!【シュラスコ串】 

 

(開いたままの歪んだシャッターに近付いた。)

 

「シャッターは爆発で壊れたんすよね。」

 

「うん。モノクマが直すまで外から中に入らなかったんだ。だから、爆発後に格納庫に入れた人はいないと思うよ。」

 

「…そうっすね。」

 

(天海君が視線を落とす。その先に黒い何かが落ちていた。)

 

「……これ。」

 

「あ、それ、プレス機のリモコンじゃないかな?格納庫内ならプレス機を作動させられるみたいだよ。」

 

「このステージに来た初日、モノクマが用意したんだよね。」

 

(裏側まで押し込まれる特徴的なボタン。黒く焦げているが、上向き下向きの三角ボタンから、プレス機のリモコンだと判別できた。)

 

「事件に使われたのかもしれないね。」

 

「…ええ。」

 

 コトダマゲット!【プレス機のリモコン】 

 

「シャッター…曲がってるっすね。これじゃ外からボタンを押しても開かないわけっす。」

 

(シャッター前に立った天海君がシャッタースイッチを眺めた。シンプルな上下の三角ボタンも、室内の壁と同じく黒ずんでいる。)

 

(そういえば、シャッターの開閉スイッチはプレス機のリモコンと同型同色だ。)

 

(『V3』と違って、外のパネルじゃなくて、簡易的なスイッチがシャッター横に取り付けられた。つまり、シャッターは事件に関わってくる。)

 

(…昨日そんなことを考えたっけ。)

 

 

「シャッターをガン見しちゃって…まさか落書きする気じゃないでしょうね!落書きも立派な犯罪だからね!」

 

「たとえフレスコ画 経験者のルネッサーンスな女流作家にコスプレしたとしても!!」

 

「同じ後悔なら自分の望み通りに…などと宣ってカゴの中の鳥から卒業したフィレンツェのシニョリーナにコスプレしたとしても!」

 

「……しないし、落書きなんてしないよ。」

 

「何しに出てきたんすか。」

 

(天海君が厳しい目を向けると、モノクマは心底 楽しそうに身体を震わせた。)

 

「うぷぷぷ。オマエラに これを渡しておこうと思ってね。」

 

(そう言って見せてきたのは、印刷された紙。そこには、数字とローマ字が並んでいた。)

 

01:49 in

02:13 in

02:43 out

 

「…何これ。」

 

シャッターのモーションセンサーが感知した時間を示す記録だよ。」

 

「モーションセンサー?」

 

「セキュリティは切ってたけどね。モーションセンサーは動いてたんだ。これは、夜時間に誰かがシャッターを出入りした時間だよ。」

 

(そっか。モーションセンサーは切ってなかったんだ。)

 

(……良かった。これなら、クロを見つける材料になる。)

 

「……つまり、1時50分頃と2時すぎに誰かが格納庫に入り、2時40分頃 出たってことっすね?」

 

「いかにも。ま、爆発の衝撃でセンサーも壊れたから、その後は知らないけどね。」

 

 コトダマゲット!【入り口センサーの記録】 

 

「爆発が起こった時間は分からないの?」

 

「うぷぷぷぷ。」

 

(わたしが問いかけると、モノクマは楽しげに笑った。)

 

「それは まだ言えないよ。爆発直前の写真もあるにはあるけど、もちろん まだ提供できないよ。」

 

「……。」

 

(モノクマはニヤニヤ笑いを堪えている。おそらく、ヒントの提供は裁判中だ。諦めて、さっき見つけた証拠を つきつけた。)

 

「モノクマ。この音楽プレイヤーなんだけど…何が入っていたか調べられないかな。」

 

「え。白銀さん?」

 

(さっき現場で拾った音楽プレイヤーをモノクマに見せると、天海君は意外そうな驚いたような顔をした。)

 

「おや?おやぁ?白銀さんも激カワゆるキャラなボクに頼りたい お年頃?人に頼ることがキミの生存フラグになるとは限らないよ?」

 

(……知ってるよ。)

 

「いいよ!こうもグチャグチャじゃ、中にCDだのカセットが入ってても聞けるかは分からないけどね。校舎の2階で調べてこよう。」

 

「……意外と、すんなり調べに行ったっすね。」

 

(音楽プレイヤーを両手に消えたモノクマを見送り、天海君が言った。)

 

「…モノクマのことだから、裁判に必要な情報だったってことじゃないかな。」

 

 

「さて…現場は だいたい調べられたっすね。後は爆弾があった建物と…一応、哀染君の部屋も見ておきましょうか。」

 

「うん。」

 

(サイバーパンクな通りに出る。無意識に格納庫トイレと繋がる窓を確認した。『V3』5章事件で使われた窓は、爆撃のためか潰れていた。)

 

(壁もデコボコになっていて、天井近くは穴がポッカリ空いている。)

 

「白銀さん、行きましょう。」

 

(ボンヤリ眺めていると、天海君の外に促す声が降ってきた。)

 

 

 哀染の部屋へ行く

 メカメカしい部屋へ行く

全部見たね

 

 

 

【寄宿舎 哀染の個室】

 

「あ…。」

 

「……お姉ちゃん。」

 

(寄宿舎の哀染君の部屋は扉が開いていた。中には妹尾さんと前谷君がいた。)

 

「2人とも、何か見つかったっすか?」

 

(天海君が尋ねると、妹尾さんが首を振った。)

 

「哀染お兄ちゃん…どこにもいないの。」

 

「え…。」

 

「……。」

 

「あ、の…あの死体って…。」

 

「あれは、たぶん…」

 

「つむぎお姉ちゃん!あたし、まだ探してないとこ探してくるから!」

 

(わたしが言いかけたとたん、妹尾さんは逃げるように室内から出て行った。)

 

「あ、妹尾先パイ!!」

 

「前谷君。鍵 開いてたんすか?」

 

「あ…いえ、モノクマが開けに来ました。『ここには証拠なんて残ってないのに』などとブツブツ言いながら。」

 

「証拠ないんだ?」

 

「どうでしょう。自分たちは哀染先輩を探しにきただけで…。」

 

「……哀染君を探す…?」

 

「あ…あの、状況は分かってるんですが…。どうしても…信じられなくて…。」

 

「……。」

 

「前谷君、哀染君なんだけど…」

 

「……はい。」

 

「…何か変わったところなかったかな?」

 

「え?」

 

「昨日や一昨日…何か様子が おかしかったり、あなたが気付いたこと…ない?」

 

「えーと…あの、特には…。あ、前回のステージについて詳しく話したりしましたね。」

 

「前回のステージっすか?」

 

「ええ。前回のステージでの自分の言動やら死体発見の時のことやら…。」

 

「…何で そんなことを?」

 

「さ、さあ。…あ!自分、妹尾先パイを追いかけますんで!!失礼します!!!」

 

(ポンと手を叩いて、前谷君は素早く部屋を出て行った。)

 

「…とりあえず、部屋を探しましょう。」

 

「うん。モノクマによると、証拠は残ってないらしいけどね。」

 

「…たぶん、残ってないということが大事なんすよ。」

 

「え?」

 

「いつも哀染君は持ち物を部屋に置いてたっす。ここに来た初日も彼はすぐ宿舎に荷物を置いてたっすから。でも、ここには手紙くらいしかないっす。」

 

(クローゼットを調べていた天海君を見ると、彼はクローゼット内の棚に置かれた封筒を指した。)

 

(3つ目のステージの前谷君から哀染君宛の手紙。それらは封筒に入れられたまま、棚のフチに鎮座している。けれど、その他の持ち物は見当たらない。)

 

「格納庫にあった音楽プレイヤー、ヘッドホン、シュラスコ串らしきものは、全部 間違いなく哀染君が持ち込んだものってことだね。」

 

(クローゼットには哀染君のステージ衣装も数着並んでいる。天海君が上着を手にして呟いた。)

 

「結構 収納力のある上着っすね。」

 

「哀染君が音楽プレイヤーとかシュラスコ串とか持ち歩いてたとしても気付かないね。」

 

「けど…わざわざ持っていくなら理由があるはずっす。」

 

「確かに。格納庫の探索に持っていくのは変だよね。」

 

(探索のためなら…の話だけれど。)

 

 

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【メカメカしい建物】

 

(キーボ君の研究教室に やって来た。一昨日 来た時と変わらない。爆弾がある箱が妙な存在感を放っている。)

 

「爆弾は やっぱり…ここから持ち出されたんでしょうね。」

 

「そうだね。持ち出すなら貸出機にモノパッドかざせってモノクマが言ってたけど…。」

 

(先日モノクマが示した貸出機に近付くと電子音と共に機械が明るくなる。)

 

「これで貸し出し記録が見られるみたいっすね。昨日の夜はーー…1つ貸し出されてるっす。」

 

「誰が借りたとかも分かるかな?」

 

「……分からねーっすね。IDみたいな番号が出てるっすけど…。」

 

(天海君に言われて、わたしも機械のモニターを覗き込んだ。確かに昨日の夜時間に貸し出されたという記録と共にID-710931の番号が書かれている。)

 

「メモしておきましょうか。白銀さん、ペンと紙 持ってたっすよね。」

 

「あ…ごめん、ペンも便箋も前のステージに忘れて来ちゃったよ。」

 

「そうっすか。キッチンや部屋に筆記用具はありましたが俺も持ち歩いてなかったっす。まあ、語呂合わせで覚えられないことはないっすね。」

 

「見たことない数字だけど、モノパッドに番号でも振られてるのかな。現場にあった番号…とも違うし…。」

 

「そうっすね。俺たちのモノパッドのどこかに製造番号とか、それぞれの番号があるのかもしれません。」

 

(天海君が自分のモノパッドを取り出して番号がないか調べている。)

 

(でも、モノパッドの見えるところにはない。それより謎なのは現場に残っていた『1103Lh7』。)

 

(あれが暗号的なものでないなら、このIDと繋がりがありそうなものだけど…)

 

(あれには一体、どんなメッセージがあるんだろう。)

 

 コトダマゲット!【メカメカしい部屋の爆弾】 

 

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「これで、だいたいは調べられたっすね。」

 

「……。」

 

校舎5階も見ておこうよ。」

 

「……校舎5階?」

 

(わたしが言うと、天海君は訝しげな顔をした。)

 

「うん。昨日、哀染君は5階のノスタルジックな部屋にいたんだ。何か手掛かりがあるかもしれないよ。」

 

「ああ…あの探偵博物館みたいな部屋っすね。行きましょう。」

 

 

 

【校舎5階 ノスタルジックな部屋】

 

(5階は静かだった。最原君の研究教室も静寂に包まれている。)

 

「特に…変わったところはなさそうっすね。」

 

(天海君が部屋全体を見回して言う。わたしは薬品棚を指差した。)

 

「モノクマが薬品棚にも貸出機を取り付けたって言ってたよね。わざわざ取り付けたってことは何か意味があるんじゃないかな?」

 

「なるほど。そういえば…今までもそうだったっすね。」

 

(モノクマが後から付け足したアイテムやルール。それは、犯行に使われるためだけじゃない。みんなが謎を解くヒントのためのものだ。)

 

(薬品棚に近付くと、案の定、薬品が少なくなっていることに気付いた。)

 

「やっぱり…薬品なくなってるよ。」

 

「確かに。何か足りない感じがしますね。貸出機を見てみましょう。」

 

(貸出機に現れたのは、昨日の夜時間の打刻と『貸出:赤くてドロドロした生臭い薬品 ID-710931』の文字。)

 

「赤くてドロドロした生臭い薬品…確かに、ここに来た初日にはあったのに、なくなってるね。」

 

「誰かが夜時間に ここから持ち出したってことっすね。」

 

 コトダマゲット!【5階の薬品】 

 

 

『時間になりました!オマエラ、裁きの祠に集まってください!裁きの祠は中庭の緑の壁に囲まれた赤い扉の奥だよ。』

 

(校舎を出たところで、モノクマの声が鳴り響いた。アナウンスを知らせるモニターが黒く暗転したところで、天海君が こちらを見た。)

 

「……白銀さん、あの…」

 

「フィクション フィクション!CTUもSCPもMI6も、ぜーんぶ、フィクション!!」

 

「MI6はフィクションじゃないでしょ。」

 

(ーー瞬間 現れたモノクマの叫びに思わずツッコむ。天海君は開きかけていた口を一旦 閉じてから、モノクマを睨み付けた。)

 

「何しに来たんすか。」

 

「まあ〜、失礼しちゃう。せっかく頼まれてたもの持ってきてやったのに。」

 

「あ、音楽プレイヤーのこと?どうだった?」

 

「うん。何やかんやして何やかんやで何やかんや叫んだら確認できたよ。」

 

「…牛の声っすか?」

 

「うぷぷぷぷ。音楽プレイヤーに入っていたのは…子守唄だったよ。」

 

「子守唄…?」

 

「そう。それも、聞いたら超麻酔級に眠くなる、フィクション的な子守唄だよ。ファ〜ア。」

 

「それって…」

 

「夕神音さんの…?」

 

「うんうん。歌姫の子守唄だろうね。ファ〜。」

 

「眠たい演技はいらないよ。」

 

「演技じゃないよ。今朝は明け方から消火活動だったし、昨日は夜中にオシゴトもあったしね。ヒィへ〜。」

 

「仕事?」

 

「夜中に部屋をノックする簡単なオシゴトですよ。ホァ〜。」

 

(そんなことを言って、あくびなのか分からない音と共にモノクマはいなくなった。)

 

 

「天海君、さっき何か言いかけた?」

 

「……いえ。顔色が悪いので…心配になっただけっす。」

 

「だから地味に天海君は人のこと言えないって。」

 

「…そうっすね。」

 

「郷田君といい、哀染君といい、心配症な男の子 多いよね。」

 

「最初のステージでも天海君と哀染君、毎日 迎えに来てくれてたよね。」

 

「毎日?」

 

「え、うん。ほら、動機発表の日、わたしが体調 崩したでしょ?その翌日も、翌々日も。」

 

「…翌々日は、俺、直接 小学校に行ったっすよ。」

 

「え?だって哀染君が来たよ?朝シャワー浴びてた時…。」

 

 

(ピンポーンと、インターホンが鳴ったのは、バスルームから出て、すぐのことだった。)

 

(まだ朝のアナウンス前なのに…と思いきや、時計を確認すると、既に8時過ぎになっている。)

 

「つむぎ、おはよう。起きているかい?」    

 

(ドアの外から少し大きい声で話し掛ける声がしたので、慌てて廊下に向かって言った。)

 

「ごめん!シャワー浴びたばかりだから、先に行ってて!!」

 

「あ、良かった。今日は元気そうだね。じゃあ行こうか、蘭太郎クン。」

 

(ドアの外から気配が遠ざかっていくのを聞いて、身支度を整えた。何かに使えそうな道具をポケットに詰め、小学校へ向かった。)

 

 

「哀染君が…俺が一緒にいるかのように言ったんすか?」

 

「うん。あれは確か…体育館の封鎖が解かれた日の朝だったかな?寝不足でボンヤリしてたから朝にシャワー浴びたんだよね。」

 

「その日の朝、哀染君と俺は一緒じゃなかったっす。」

 

「……。」

 

「わたしがシャワー中だったから、気まずくて意味のない嘘 言ったのかもしれないね。」

 

「……。」

 

(明らかに腑に落ちていない顔をしている天海君。それはそうだろう。哀染君の不可解な行動。モノパッドの動機に彼の姿もない。)

 

(彼が何者だったのか、わたしにも分からない。)

 

「とにかく、行きましょう。」

 

 

 

【裁きの祠】

 

(裁きの祠に全員が集まった。全員…といっても、たった7人。)

 

「……。」

 

「白銀さん。…必ず、みんなで一緒に ここを出ましょう。」

 

(中央のモノクマ像が動き出し、現れた道と門。それを見ながら、天海君が緊張した声を発した。)

 

「……。」

 

(けれど、わたしは彼の言葉に上手く答えられなかった。)

 

(天海君が…裁きの祠にいる。)

 

「白銀さん…?大丈夫っすか?」

 

「う、うん。大丈夫。」

 

(門をくぐった先に、『V3』と同じエレベーター。みんながエレベーターに乗り込む中、わたしは深呼吸した。) 

 

 

(また…『ダンガンロンパ』の裁判パートが始まってしまう。) 

 

(誰がクロなのか。どうやって犯行がなされたのか。そんなドキドキもハラハラも…今のわたしには…ただただ苦痛だ。) 

 

(いつから、こんなに変わっちゃったんだろう。)

 

(『ダンガンロンパ』が終わったと思った。でも、わたしは今、ここにいる。) 

 

(視聴者は まだ『ダンガンロンパ』を求めている。『ダンガンロンパ』の希望を見たいんだ。) 

 

(わたしの仕事は、そんな人たちを楽しませること。わたしの全てを懸けて、楽しめるものにすること。) 

 

(……この、命懸けの学級裁判を。)

 

 

 

コトダマリスト

【モノクマファイル】

被害者は爆撃を受けている為、身元不明。死体発見現場となったのは格納庫。死亡推定時刻は午前2時半〜3時半頃。

【哀染のモノパッド】

死体近くに落ちていた。起動時に哀染の名前が出現した。

【動機の写真】

哀染のモノパッド内の写真フォルダには写真データが10枚入っている。2つ目のステージで全員のモノパッドに送られたクラスメイトの動機の写真だが、哀染自身は写真に写っていない。

【プレス機】

格納庫内のプレス機。事件後は真っ黒になっていてグニャグニャに曲がっている。

【プレス機のリモコン】

モノクマが用意したプレス機昇降スイッチのリモコン。格納庫内ならどこでも受信できる。シンプルな上下三角のボタンで、押し込み式。押すと裏側まで押し込まれる。

【プレス機近くの傷跡】

プレス機の目の前の床に残った傷跡。何かで床を深く削っている。発見前、周囲のススは擦れていた。見覚えのない数字が並んでいる。

【シュラスコ串】

2つ目のステージにあったシンプルなシュラスコ串。3つ目のステージで起きた事件によりおしおきされた佐藤が持っていたものを、哀染が持ち込んだ。今回の現場の目立たないところに落ちていた。

【音楽プレーヤー】

格納庫で発見された。2つ目のステージの牛の腹から出てきたものを、哀染が持ち込んでいた。中には夕神音の子守唄が入っていたらしい。

【ヘッドホン】

格納庫で発見された。1つ目のステージの事件でおしおきされた永本のものを、哀染が持ち込んでいた。ノイズキャンセラー付きで、つけると外界の音が聞こえなくなる。

【焦げたボール】

格納庫内で発見された。真っ黒でべこべこになっているが、手に乗るサイズのボールだったと思われる。

【格納庫の正面シャッター】

普段は電子バリアが張られているが、警報装置は切られている。シャッター横のボタンで開閉が可能。ボタンはシンプルな上下三角ボタン。死体発見時、シャッターは歪んで閉まっていて、開閉できなかった。

【入り口センサーの記録】

シャッターのモーションセンサーが感知した時間を示す記録。人がシャッターを出入りした際にその時間が記録される。夜時間の記録は、

01:49 in

02:13 in

02:43 out

【メカメカしい部屋の爆弾】

“メカメカしい部屋”にあった爆弾。起爆装置はモノクマによって回収されている。モノクマが設置した貸出機には、夜時間に爆弾が1つ貸し出されたという記録と共にID-710931という番号が残されていた。

【5階の薬品】

校舎5階の”ノスタルジックな部屋”の薬品棚には、薬品が並べられている。爆弾と同じく貸出機が設置されており、昨日の夜時間『貸出:赤くてドロドロした生臭い薬品 ID-710931』という記録が残っている。

 

 

学級裁判編へ続く

 

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