第Б章 C? U Ag ain. 非日常編
【???】
「白銀さん。」
(誰かが、わたしを呼んでいる。その声に初めて、自分が目を閉じていたことに気付く。)
「白銀さん。」
「……!」
(肩を揺らされて初めて、自分の身体が横たわっていることに気付いた。慌てて飛び起きて、辺りを見回す。)
(どこもかしこも黒い空間。けれど不思議と、目の前にいる人物の姿は鮮明に見えた。)
(その人はーー…)
「あ、元気そうだね。」
「佐藤君!?」
「うん。佐藤だよ。良かった、また自己紹介ってことにならなくて。」
「え?生きてる…?」
「キミが?僕が?」
「あ…そうだ。わたし…おしおきで…。」
「じゃあ、ここって…死後の世界…とか?」
「僕、神や仏や死後の世界はヒトの創造って立場なんだよね。後世に語り継がれた奇跡も偉業も誰かの創造…フィクションってね。」
「……。」
「代々意識に深く結び付いた創造だから、夢に見たり本当にあるような錯覚に陥る。神仏のお告げも臨床体験もフロイトで説明できる…ってのが僕の考え。」
「だから、ここは死後の世界じゃない。僕の意見ではね。」
「…えーと、じゃあ、わたしも あなたも…おしおきされなかったってこと?」
(だから、佐藤君の おしおきは…非公開だった?)
(胸に安堵感が広がる。1人でも犠牲者が少なくてよかった。そんな考えが脳裏をよぎる。)
「……白銀さん、表情が変わったね。真底 安心したって顔だ。それとも…そういう演技?」
「……演技って…どういうこと?」
「気付いたら、キミが ここに転がってたんだ。キミは本当に白銀さんかな?」
「……わたしは、白銀 つむぎだよ。佐藤君は、ずっと ここにいたの?」
「僕も さっき目覚めたところなんだ。だから よく分からないけど…モノクマが言うには、『キミのおしおきは裁判後』らしいよ。」
「裁判後…?また学級裁判があるの?」
「学級裁判とは言ってなかったけどね。とにかく、『証拠品を集めろ!』だってさ。」
「えっ。」
「これまでの捜査時間みたいなものなのかな。」
(ーー何だろう。わたしは5章で退場したはずなのに…これじゃあ、まるで6章みたい。)
「ここは別のステージなんだろうね。」
「これでもかというくらい黒い廊下だよね。」
「うん。先に扉があるよ。行ってみようか。」
「その前に、佐藤君。聞いてもいいかな?」
「何?」
「あなたは2つ目のステージからシュラスコ串を持ち出していたよね。どうして?」
「ああ。やっぱり、キミが あれでクギを作ったのかな?」
「えっ。」
「祝里さんの事件で使われたクギは、彼女が普段 使っていたものより大きかったからね。誰かが金属を加工したんだと思ったんだ。」
「それで、鍛冶屋が使えて そんなことができたのはキミくらいかなって。だから一応、シュラスコ串を調べてたんだ。」
「そこまで分かっていて…どうして黙っていたの?」
「確信があったわけじゃないから。それに、正直キミのことは どうでもよかった。」
「ど、どうでも…。」
「僕は…生き残る価値がある人間を生かそうとしてただけだよ。まあ、計画は狂ったけどね。」
「それって…誰のこと?」
「誰だろうね。失敗したってことだけ言っとこうかな。」
「……。」
「あなたは松井君を殺したクロだったけど…おしおきはなかったんだよね?他の人も…永本君も、もしかしたら生きてるかもしれないよね?」
「……向こうの扉、見覚えがあるね。」
「……。」
(わたしの言葉に彼は返すことなく、黒い廊下の先の扉を指差した。確かに、その扉には見覚えがあるというか、見覚えしかない。)
(最原君の…“超高校級の探偵”の研究教室の扉だ。)
【超高校級の探偵の研究教室?】
(扉を開けて中に入る。中は最原君の研究教室と同じだった。)
(何これ…?研究教室に飛ばされた?)
「ここは…。」
「佐藤君は ここに来るの初めてだよね。新しいステージにあった場所なんだ。」
(佐藤君は室内を見回した後、ニコリと笑った。)
「そっか。扉に見覚えがあったけど、気のせいだったよ。」
(わたしは研究教室の隅まで歩き、薬品棚を眺めた。哀染君が使ったはずの薬品の瓶が戻っている。それに、貸出機が付いていない。)
(復元された部屋…なのかもしれない。)
「……ファイルが たくさんあるね。」
「あ、うん。犯罪のファイルみたいで、殺害方法とかトリックとかが書かれてるんだ。」
「ふーん…。」
(彼はスピーディーにファイルを めくる。)
「気になるのは…最初の数冊はイラストなのに、急に写真になること。」
「え、早っ。もう読んだの?」
「あと、『動機が外に出たかったから』という事件が多いこと。」
「……。」
「そして、1冊目に黒幕についての記載があること。」
「え?」
(そんなの…わたし書いたっけ?)
「さらに、イラストや写真では分かりにくく写されているけど…同一人物と思われる人が何度も違うファイルに存在していること…かな。」
「……うん、わたしも気付いたよ。」
(2作目以降の記憶を抜かれた わたしでも覚えているキャラクターが、他のシリーズに登場している。)
(そんなの聞いてない。知らなかった。わたしが忘れているだけ…?)
コトダマゲット!【犯罪ファイル】
「へぇ、52冊目のファイルも、写真をわざとボヤけさせたり変色させたり、分かりにくく写しているけど…興味深いね。」
(佐藤君は52冊目を手に取って、じっくり眺めている。)
(そういえば…52冊目は52回目のコロシアイ。普通に研究教室に置いてあって、天海君や哀染君も見ていたはずだけど…。)
(佐藤君の後ろからファイルを覗き込む。中には もちろん『V2』の事件がファイリングされている。写真家が見たら怒り出しそうなほどの不明瞭さで。)
(首謀者の わたしも覚えていない、本来の『V2』の事件なのだろう。)
「犯罪心理に詳しい人なら、犯罪を犯す人間の立ち方やクセに注目して同一人物って分かるけどーー…」
(また、佐藤君はニコリと笑った。わたしは黙ったまま彼の顔を見つめていた。)
(ーー彼の真意を読み取るために。)
「…あ、バレちゃった?嘘だって。」
「佐藤君…嘘吐く時、わざとらしく笑うから。」
「キミも よく見ているんだね。」
「……職業柄ね。」
「それに、動きが分かるなら まだしも、こんな不明瞭な写真から同一人物を探すなんて…立ち居振る舞いから見つけるなんて難しいと思う。」
「まあね。コンピュータなら、できなくもないけど。」
(彼は また、わざとらしい笑顔を見せた。)
「ごめんね。僕の才能も名前も、何から何まで嘘なんだ。」
「え?名前も?」
「うん。ま、僕のことは今どうでもいいよ。それより、この52冊目に載っているのは、“僕たち”だよね。」
「……そう、だね。」
「けれど、今回 僕たちが経験した事件とは異なる。」
「……。」
(佐藤君は開いていた『V2』5回目の事件から4回目、3回目の事件の詳細ページへ指を送る。)
「もしかして…あなたは、3回目に誰が事件を起こすか…分かっていたの?」
「だから、裁判前に毒を盛ることができたんじゃない?」
「……どうかな?僕は この部屋に初めて来たんだよ?この事件ファイルを見ているはずがないよね?」
「……でも、このファイルは見ていたんじゃないの?」
「見てないよ。ただ、10人から1人の犯人を見つけるよりも、容疑者1人がヤったかヤってないか検証する方が、ずっと簡単だったってだけさ。」
(佐藤君は犯罪ファイルを捲り、”2回目の事件”のページへ目を落とした。けれど、しばらく経っても1回目のページを見ようとしない。)
「……。」
「違うコロシアイに同一人物が参加してる。どうして何度も違うコロシアイに参加できるんだろうね?」
「……。」
「僕やキミが今ここにいるのも、変な話だ。」
(佐藤君が わたしを見据える。)
(確かに、死んだはずのコロシアイ参加者が生きていて、次のコロシアイに参加する。)
(そんなの…緊張感がなくなってしまうはず。たった1つの命の奪い合いだから…視聴者は楽しんでいたのに。)
(ーー”これ”だってそう。終わったはずの『V2』を もう1度やってる。どうして?)
(どうして『V4』じゃなくて、もう1度『V2』を始めたんだろう。)
(まさか キャラクター考えたり、立ち絵 描いたりするのが面倒だから…なはずもないし…。)
「考えることが多そうで大変だね。」
「…あ、ごめん。NOW LOADING…状態だった?」
「大丈夫だよ。キミの役割は、他の人より考えることが多いだろうし。さて、そろそろ出ようか。」
(佐藤君が扉を開けて退出を促した。いつの間にか、真っ黒な空間は真っ白な空間に変わっていた。)
「……わたしの役割って?」
(扉の外に出ても笑顔を崩さない佐藤君に問いかける。彼は「そうだなー…」と考える素振りを見せてから言った。)
「クギを作ったのがキミだとすると…1つ目のステージで体育倉庫の封鎖を解いたのもキミかな?」
「そうだね。ついでに言うと、木野さんが自殺に使った時の容器も、わたしが持ち込んだんだ。」
「……そっか。みんなとは逆行した行動と、おしおきされていないことを考えると…キミはコロシアイの黒幕または黒幕に内通する者なのかな?」
(佐藤君は何でもないように笑った。一瞬、笑顔の裏に殺意が隠されているのかとも思ったが、その笑顔は すぐに心底どうでもよさそうな顔に変わった。)
「ま、キミのロールプレイには興味ないよ。」
「……黒幕だって、おしおきはされるんだよ。今回は何か…おかしいんだ。あなただって、おしおきされてないし…。」
「……ちなみに、初回の動機発表までに体育館や小学校の給食室にあった凶器を町中や校舎に隠したのはキミじゃないよね?」
「うん。違うよ。そういえば、その謎は まだーー…」
「だろうね。それやったの、僕だし。」
「え?」
「僕は、あの動機発表の日まで、せっせと凶器をバラ撒いて、動機発表直後に自分で回収したんだ。」
「え?何で?どういうこと?」
「理解できないよね。僕もだよ。そろそろ、これが現実だと思うのが難しいくらいだ。」
「…それは、あなたの意思じゃなかったってこと?」
「……さて、そろそろ時間だ。」
「え?」
「キミが目覚める前に、モノクマに言われたんだ。案内役になれって。そしたら、また…」
(彼が言った瞬間、彼の首に拘束具が はめられた。見覚えがある。これはーー…)
「また、同じ おしおきだ。」
(彼は また、きれいに笑顔を作る。)
「死後の世界で例えるなら無限地獄ってやつかな。最悪だよ。じゃ、また会うか分からないけど、またね。」
「佐藤君っ!」
(佐藤君の体が拘束具に引っ張られて後退する。思わず伸ばした手も、届くことはない。)
(そしてーー…)
(いつの間にか現れたモニターが光を放ち、暗闇を歩く佐藤君の姿を映し出した。)
(暗闇の中で小さな灯りを頼りに見える彼の顔は、笑みを作っている。)
(分岐点に差しかかり、右に進んだ彼は肩と背中を見覚えあるボーガンの矢に撃ち抜かれた。)
「佐藤君!」
(聞こえるはずのない声をモニターに向ける。)
(肩と背中から血を流しながら、彼は分岐点で また右を選択した。と、同時に見覚えのある槍が彼の腹部を貫いた。それでも彼は歩みを止めない。)
「…あ。」
(彼の足が止まったのは、3つ目の分岐点で右に曲がった時だった。佐藤君の足元から煙が立ち昇っている。)
(彼の周囲の、これまた見覚えある割れた瓶。そこから発生しているのは…おそらく毒ガス。それでも、彼の表情は変わらない。)
「佐藤…君…。」
(血に塗れた佐藤君の身体は地面に沈んだ。3回目の裁判で見た映像と同じように倒れた彼。そのままプツリとモニターは切れた。)
「……。」
(しばらく、わたしは動けずにいた。)
(彼は『また』と言った。『また同じ おしおきだ』と。)
(まさか…今の佐藤君は…復元された佐藤君で…また殺された?)
(そんなの…ひどい。ひどいよ。いくらフィクションキャラクターだからって…。)
「白銀さん。」
(不意に背後から声をかけられて肩が跳ねる。いつの間にか、後ろに人の気配。さっきまで誰もいなかったのに。)
(恐る恐る振り返るとーー…)
「……白銀さん…でしょ?」
「木野さん!?」
(死んだはずの人間が、また目の前に立っていた。)
「白銀さん…コロシアイは どうなった?」
「え…えっと、わたしは…おしおきされて…。」
(木野さんは3つ目のステージで確かに亡くなっていた。脈も確認したし…。)
(思わず彼女の手を取って、脈を取る。確かに脈はうっているし、体温があった。)
「あなたは…木野 琴葉さんだよね?」
(手首に手を当てて言った瞬間、こういう場面に既視感がある気がした。)
「うん。…そうだよ。」
(やっぱり…復元されたんだ。佐藤君には、おしおきの記憶まであったからーー…)
「3つ目のステージで、毒を飲んで自殺した…木野 琴葉だよ。」
(彼女にも…記憶がある。彼女には聞いておきたいことが たくさんある。)
(本当に、彼女がトリックスターだったのか。)
(みんなが木野さんの仕業だと思っていたことの大半は わたしがしたことだった。けど…木野さんも また、みんなとは違う目的で動いていた。)
(そうじゃなきゃ、3回目と4回目の事件も説明が付かないし…2回目の事件に関わっていたのに黙っていたことも おかしい。)
「木野さん。山門さんは…亡くなったよ。あなたの薬を飲んで。山門さんを助けようとしたローズさんも…。」
「……。」
(彼女は しばらく黙った後、「そう。」と短く言った。)
「……謝らないよ。」
「わたしに謝る必要なんてないよ。謝られる資格もないし。」
「資格…?」
(また木野さんは黙って わたしを見つめた後、「そう」と呟いた。)
「…あなたなんだね。」
「え?」
「…何でもない。山門さんとローズさんは…苦しまずに亡くなった?」
「……うん。2人とも遺体が綺麗だったから…死因の特定が難しかったかな。」
「……そっか。」
「木野さん…あなたの目的は何だったの?みんな脱出したいって頑張ってたけど…あなたは違ったんだよね?」
(わたしが彼女を覗き込むと、彼女は俯きがちに言葉を吐き出した。)
「私は…みんな、おしおきされれば楽になれるって…そう思ったんだよ。」
「……。」
「3つ目のステージ…松井さんをクロに見せかけて自殺したのも…みんな分かっちゃったんだよね。」
「……その松井君が、あなたの首を絞めたんだよ。それで、あなたがクロか松井君がクロか分からなくて…そんな時、松井君も裁判場で亡くなった。」
「え…。」
「佐藤君は松井君が事件を起こすって勘付いてたみたいで…佐藤君が松井君に毒を盛ったんだ。」
「……佐藤さんが。」
「山門さんに薬を渡したのも、生き残りを裁判で おしおきさせるため?」
「……最初は、ちゃんと山門さんの病気が治るような薬を作ってた。」
「え?」
「2つ目のステージでは、万能薬が作れないか…ずっと実験してた。」
「え、でも。2つ目のステージでは山門さんの体調は そんなにーー…」
「でも、祝里さんの事件があって…間に合わないって思った…。」
「2つ目のステージ…祝里さんの事件の現場に最初に入ったのは、あなただよね?祝里さんのモノパッドを机に置いたのも、あなたなの?」
「……うん。」
「本当は…図書館に鍵なんて掛かってなかったよ。深夜にモノクマが出てくるのが見えたから図書館に入ったら…祝里さんが血塗れで倒れてて…。」
「鎌を自分に突き刺したって…自殺だって…すぐ分かった。彼女は私に…『早く終わらせて』って…そう伝えたかったんだよ。」
「だから…誰かに殺されたように見せかけようと思ったの。…図書館の鍵を掛けて、祝里さんの手にしていた鎌の持ち手の血を拭いた…。」
「鎌の持ち手に血がなかったのは…拭き取られていたからなんだね。」
「その時、ぽぴぃさんが図書館に入って来たから…息を殺して彼が出て行くのを待った…。」
「……ぽぴぃ君の足跡を拭き取ったのは…木野さんってこと?」
「うん。拭き取っておけば、ぽぴぃさんが怪しく見えるから…。」
「でも、気付かれなかったら本末転倒じゃない?」
「血の跡ならローズさんが絶対 気が付くと思ったから。」
「ローズさんの特殊体質を知ってたんだね。」
「…うん。でも、鎌の持ち手の血に気付かれたら…逆手の血の跡があったら すぐ分かるから…ローズさんには あまり死体を調べてほしくなかった。」
(…だから、あの時ローズさんとの会話を遮ったんだ。)
「シロガネ、アイゾメ!ここ!ここ、見ロ!」
「え?」
「えっと、何かな?」
「見えませんか?」
「えっ、何が?」
(ローズさんは階段すぐの床を指差すが、そこには何もなかった。)
「そのメガネは伊達男かァ!」
「それを言うなら、伊達男じゃなくて伊達メガ…」
「ローズさん。みんなも。」
(ローズさんにツッコミを入れようとした時、彼女の後ろから木野さんが顔を覗かせた。)
「後は…近くに生えていたツル植物を編んでヒモを作って…図書館の外から密室を作ったんだ…。」
「密室の作り方なんて、よく知ってたね?」
「……犯罪を まとめて書いたファイルを読んだことあったから。」
「でも…どうして あなたは、みんな おしおきされることで終わらせようって思ったの?」
「……その方が、みんな楽になれるはずだから。」
「…うん。だから、どうして そう思うの?」
(地球最期の生き残りっていう記憶を植え付けられたわけでもないのに…。)
「……。」
(木野さんは答えない。言う気はなさそうだ。言葉の代わりに、彼女は黙ったまま指を前方へ向けた。)
「モノクマが言ってた。白銀さんは…真実を知らなきゃいけないって。最後の裁判に向けて…。」
(言いながら、彼女は いつの間にか前方に現れた青い扉を開けた。)
(その扉にも見覚えがある。希望ヶ峰学園の情報処理室の扉だ。)
【情報処理室?】
(扉の先の景色も見覚えあるものだった。たくさんのモニター、機械類が並ぶ室内。けれど、黒幕がモノクマをコントロールしていた部屋への扉はない。)
「1つ、モニターがついてるね。」
(薄暗い中、これ見よがしに1つ ついたモニター。そこに示されているもの。これはーー…)
「視聴率…?」
(モニターには『Re:V2』の文字の後に、1章、2章、3章それぞれの視聴率のグラフが表示されている。)
「……テレビとかの視聴率?でも、これ…。」
(視聴率は全て”0%”だ…。)
(『V3』のラストで0%になって…それから変わっていないってこと?)
(ーーううん、それなら、このコロシアイだって行われなかったはず。ゲームっていうのは、需要と供給が大事だから。)
(視聴率0%なら、途中でモノクマから お小言があったはず。それもなかった。)
(それに、いくら人気がなくても…視聴率0%なんて…。)
コトダマゲット!【ダンガンロンパ視聴率】
(しばらくして、モニターが切り替わる。そこには、過去の『ダンガンロンパ』のタイトルがズラリと並んでいた。)
「…ダンガンロンパ?」
「……隣に数字が並んでるね。」
「何の数字かな…。」
(…これは、おそらく、ゲーム制作の費用だ。)
(新作になるほど莫大な予算が費やされている。それは、ハードの進化と共にゲーム制作に億単位のお金が必要になったことを意味していた。)
(『ダンガンロンパ』は、それこそ家庭用ゲームに留まらない多額のお金が運営費に充てられている。)
(だから、視聴率0%なんて許されない。)
コトダマゲット!【ダンガンロンパ運営費】
「……何か分かった?」
(ある程度 室内を調べた後、木野さんが言った。わたしが頷くと、彼女は再度「そう」と小さく頷いて室外へ出て行く。)
(わたしが外に出た時、真っ白だった空間は、赤一色になっていた。)
「木野さん、ちょっと待って。」
「白銀さん…あなたなら、これ…終わらせられるの?」
「え?」
「この繰り返し…終わらせられる?」
「…コロシアイのこと…だよね。」
「私には…無理だった。だから…あなたに託したよ。」
(彼女が少し悲しそうな笑みを見せた。わたしが口を開きかけた瞬間、)
(また、見覚えある首輪が現れて、彼女の首を捉えた。)
「木野さん!」
(彼女の身体へ手を伸ばす。けれど、やはり一足遅かった。)
(彼女の身体は強い力で引かれ、一瞬で見えなくなった。代わりに光を放つモニターに目を向ける。)
(モニターには、白い実験室のような場所に座らされている木野さん。彼女の目の前で、モノクマが3つの薬品入りビーカーを並べてみせている。)
(モニターの端には『たのしい化学実験!3つのうち、1つは猛毒!”超高校級の化学者”は正しい薬品を選べるのか?』とテロップがある。)
(モノクマが木野さんに向かって何事か叫ぶ。それと同時にテロップが変わり、セリフが映された。『2つ選んで飲め』。)
「飲まなくていい…飲まないで…。」
(思わず、口にした言葉は、もちろん届かない。木野さんは1つビーカーを掴み、飲み干した。瞬間 咳き込んだけれど、毒ではなかったらしい。)
(良かった…。)
(そんなことを思った矢先、すぐに木野さんは新たなビーカーへ手を伸ばし、一気に飲んだ。)
「……っ。」
(息を呑み、彼女を見つめる。けれど、彼女が猛毒に苦しむ様子はない。)
(おしおき…失敗…?)
(ホッと胸を撫で下ろした瞬間。モニターから轟音がして、白い煙しか見えなくなった。)
「な、に…?」
(煙が引いた後、モニターには木野さんの姿はなくーー…)
「あ…あああ…」
(映されたのは、真っ赤に染まり、何かの塊のようなものが四方に飛び散る実験室。モニター端には『実験成功!混ぜるな危険の薬品で爆弾作ってみた』。)
「ひどい…ひどすぎるよ…。」
(また、口から勝手に言葉が出てきた。)
「……。」
(何が、ひどい…だ。わたしは今まで、”これ”を楽しんできたんだ。)
(胸が痛い。気持ち悪い。いつの間にか、その場に膝をついていた。汗なのか涙なのか、雫が一滴 地面に落ちた。)
「つむぎ…?」
(背後で また、聞き覚えのある声がする。わたしの震えに彼女は すぐ気付いたらしい。慌てたように近付いてきた。)
「だ、大丈夫?ケガしてるの!?」
(肩に彼女の手が触れる。その手首には、わたしが作ったブレスレットが飾られていた。)
「つむぎ…泣いてるの?」
「祝里さん…。」
(2つ目のステージで自殺した彼女が、やはり復元されて立っている。)
(わたしは彼女の手首を掴んで走り出した。真っ赤な廊下を、目的地も分からず、ただ走る。)
「つむぎ!?」
「祝里さん、早く!早く、ここから逃げよう!そうしないとーー…」
(ーー2人と同じ目に合う。そう言いかけたところで、祝里さんが立ち止まり、わたしも手を引かれて止まってしまった。)
「無理だよ。モノクマ言ってたよ。ここは異次元だって。」
「『どのくらい異次元かというと、子育てしてこなかった お爺さんが作る子育て政策くらいの異次元さだよ』だって。」
「それでもっ…!」
「聞いて。あたしは…記憶力だけはいいから。つむぎの助けになれる情報は渡せるよ。」
「……。」
「つむぎ。あたし達コロシアイ参加者は、希望ヶ峰学園の卒業生と在学生なんだ。」
「……希望ヶ峰学園?」
「そう。あたし、ことは、けい、ここみは…70期生。つむぎ、らんたろーは104期生だよ。」
(祝里さんは言いながら、懐に持っていた紙にメモしていった。今回の参加者と、学園での”期”を。)
(どうやら、わたしと祝里さんが30歳くらい離れている設定になっているらしい。)
コトダマゲット!【参加者名簿】
「祝里さん、どこか…どこかから外に出られるはずだよ。コンピュータールームみたいなところはなかった?」
「つむぎ、動機についても聞いて?」
「今はそんなことより…!」
(わたしの焦る様子が見えないように、祝里さんは わたしに目線を合わせて話し始める。)
「あのね、あたし…最終的に自殺になっちゃったけど、最初はモノクマを倒そうとしたんだ。」
「モノクマを呪い殺そうとしたけど、できなかったから自分を呪って才能証明書が嘘だって思わせようとしたんだよね?とにかく、ここから逃げないと!」
「才能証明書が嘘になる?あたし、そんな難しいこと考えてなかったよ。」
「…え?呪いで死んだわけじゃないなら、才能証明書が嘘になるからコロシアイが終わる。そう思ったんだよね?」
「あ…はは。そんな風に思ってくれたんだ。みんな優しいなぁ…。」
「…違うの?」
「違うよ。ただ、絶望に負けただけ。死んだら楽になる…なんて、考えるのを止めちゃっただけ。……頭 悪いよね。」
「みんなも危険な目に合わせちゃったよね。最初の事件でも…。」
「あなたは…最初から永本君が校舎にいなかったことを知っていたんだよね?」
「……うん。中庭にいたのを見たから。最初は…けいが犯人なはずないって、そう思ったんだ。信じられなかったし…信じたくなかった。」
「だから、誰よりも現場に早く着いて…他の人の足跡とかもなかったのに気付いて…パニックになっちゃって…」
「クレーン車 近くにロープが落ちてるのを見て…咄嗟に焼却炉でロープを燃やしたんだ。」
「……事後共犯だったんだね。でも、その時、あなた達にクラスメイトの記憶はなかったはずだよね?」
「……。」
(彼女は また黙り込む。わたしは祝里さんの手を取り、歩き出した。)
「祝里さん。行こう。とにかく、出口を探そう。ここから出たら…わたしも謝らなくちゃ。あなたが呪いに使ったクギはーー…」
「つむぎ。ごめんね。」
(数歩で彼女は立ち止まる。そして、わたしを見ながら悲しそうな顔をした。)
「きみは、”どの”つむぎ…なのかな。あたしは…”どの”あたしなのかな…。」
「祝里さ…」
(彼女の首を拘束具が捕らえる。わたしは彼女を離すまいと彼女の手を握る力を強めた。…けれど、)
「つむぎ。あたし…絶望に負けちゃったんだ。だって…何回やっても…終わらないんだもん。」
「祝…ッ!!」
(祝里さんに身体を押され、握った手は簡単に離れてしまった。次の瞬間には、やはり彼女の姿はなかった。)
(わたしが彼女の姿を確認できるのは…モニターの中だけだった。)
(太い木の幹に貼り付けにされた祝里さん。彼女の目の前には、巨大なクギを携えたモノクマ型のロボットが立っている。)
(その横の小ぶりな木の後ろから、白装束のモノクマが現れた。モノクマはワラで作られた人形を小ぶりな木にクギで打ち付ける。)
(カーン。モノクマがクギを打つと、ロボットが祝里さんへ向かって全身した。)
「やめて…。」
(カーン。ロボットの持つクギの先端が祝里さんの胸に接触する。)
「やめて!」
(カーン。先端は、彼女の胸を貫いた。)
「あ…、あ、…。」
(祝里さんがグッタリと動かなくなっても、クギを打つ音が終わらない。)
「もう止めてよ!!」
(腹の底から叫んだ時、クギの音が止み、モニターが切れた。)
「白銀。」
(また、背後から聞き覚えのある声。もう、予測が付いた。)
「永本君。ここから出なきゃ。」
「は?……いきなりだな。もっと驚かねーのか?」
「急ごう。あなたの才能なら…出口が見つかるかもしれない!」
「おい、待てよ!大丈夫か?」
「わたしは大丈夫だよ。だから、急ごう。」
「いや…なんか…女に こんなこと言うのもアレだけど……顔ぐちゃぐちゃだぞ?」
「わたしの心配なんてしなくていいんだよ…!わたしは、あなた達を陥れた首謀者なんだから!!」
「……。」
(大声を吐き出すと、彼は驚いた顔で わたしを見た。)
「つまり、お前が黒幕だったってことか?」
「…そうだよ。あなた達にコロシアイをさせていたのは、わたしだよ。」
「……。」
(しばらく永本君は、わたしの顔を見据えたまま固まっていた。その瞳に動揺の色が浮かんだので、わたしは笑顔を作って言い放った。)
「もう1度おしおきされたくなかったら、ここから逃げることだよ。早くしないと、また殺すから。」
(そして、目を見開いた彼の顔が怒りや恐怖で歪むのを待った。ーーが。)
「……そう…か。」
(彼が見せた表情は、悲哀とか、後悔とか、同情とか…そういった類いのものだった。)
「……被害者…だったのか。」
「何 言ってるの?」
「1回目の事件…オレは…黒幕を倒したかったんだよ。」
「……うん、あなたはモノクマをクロにしようとしたんだよね?」
「……。」
「……そっか。そうだったんだな…。」
(1人 納得したように、彼が頷く。わたしは痺れを切らして彼の手を取り引っ張った。)
「とにかく!今は出口を探すんだよ!」
「ああ。あっちに…扉があったな。」
(彼の手を引きながら、彼が指差す先へ急ぐ。わたし達が近付くと透明な扉が開いた。)
【ロケットパンチマーケット?】
(ここも見覚えがある。確か、2作目のマーケットだ。)
(こんなところに…手掛かりなんてあるの?)
(棚に並べられた商品を順番に確認していく。と、永本君が盛大にズッコケて商品棚に激突した。いくつかの商品が倒れた彼の頭に降り注ぐ。)
「いてっ!」
「大丈夫!?」
「ああ…ゲームの角に頭ぶつけた。」
(彼が商品を手に顔を上げる。その手に持った商品に見覚えがある。)
(ーー『ダンガンロンパ』だ。)
(彼の手にした1作目。周囲に落ちた2作目とスピンオフ作品。パッケージには覚えのあるイラスト、会社名、発売年、CEROなどが書かれている。)
(1作目、2作目とスピンオフは よく覚えてる。2010年11月に発売された1作目、2012年7月に発売された2作目。)
(それから、2014年9月に発売されたスピンオフ。『V3』の発表は…約2年半後の2017年1月だったっけ。)
コトダマゲット!【ダンガンロンパ】【スーパーダンガンロンパ2】【絶対絶望少女】
「白銀、そろそろ出るぞ。」
「ダメだよッ!」
(永本君が扉に近付いたのを、慌てて制する。透明な扉の向こうには、澄んだ青空のような真っ青な空間が広がっていた。)
「…何だよ。」
「ダメ…今、外に出たら…」
(ここが安全なんて言えないけれど。今の わたしには、そんなことを言うことしかできない。)
(永本君は一瞬ぽかんと目を瞬かせた後、唇を持ち上げた。)
「大丈夫だよ。オレは“幸運”なんだぜ?」
「幸運だって死ぬんだよ!現に、あなたは1回目の事件でーー…」
「分かってるよ。」
(彼は少し笑って、扉へ歩き出した。何がなんでも止めなければ。そう思ったけれど、どうしてか わたしの身体は指1本すら動かない。)
「白銀、お前が希望を諦めなければ…オレの幸運を分け与えることができる。」
「永本く…」
「オレの分まで生きてくれよ。」
(永本君が扉を開けると共に、彼の首に拘束具が飛んでくる。)
(それでも、わたしの身体は動かない。彼が連れ去られるのを見送ることしかできなかった。)
(身体の自由が戻ったのは、室内のモニターに永本君の姿が現れた時だった。)
(モニターに映されたのは、1回目の裁判後 見たものと同じ。永遠に続くのではないかというモノクマの殺意と幸運の応酬の最中、永本君がフッと笑った。)
「あ…、」
(彼は こちらに向かって、ニッと笑って手を掲げた。手を振りながら、強い眼光を わたしに向ける。)
(諦めるな、と。絶望するな、と。)
(そして、彼の身体はガレキの下に消えた。)
「……。」
(モニターが消えて静かになったスーパーを出ると、外は白と黒2色の空間になっていた。その先に赤い扉が見える。)
(赤い扉の先は、案の定エレベーターホールがあった。迷わずエレベーターに乗り込み、わたしは たった1人で地下へ向かった。)
(わたしは、おしおきされたはずだった。それなのに、また『ダンガンロンパ』の捜査パートにいる。)
(正規の6章なはずはない。これはバグ…?)
(しかも、これまで死んだ人たちを蘇らせて、また おしおきして…いったい、何がしたいんだろう。)
(『V3』では、蘇りはなかった。でも…死者の書は使われなかったけど、一応 蘇りの用意はしていたはず。)
(思い出しライトで記憶を植え付ければ…誰でもダンガンロンパのキャラクターにすることができるから…?それか、本当に復元するつもりだった?)
「………ダメだ。思い出せない。」
(『V3』の準備段階の記憶と照らし合わせてみたものの、肝心な部分の記憶がない。覚えているのは、53作目を盛り上げようと意気込んだことくらいだ。)
(仕方がないので、エレベーターの下降を感じることに意識を集中させた。)
コトダマゲット!【首謀者の記憶】
(ーー『ダンガンロンパ』が終わったと思った。わたしの役目も終わったと思った。でも…わたしは今、ここにいる。)
(視聴者は まだ『ダンガンロンパ』を求めているの?『ダンガンロンパ』の希望を見たい人は まだいるの?)
(わたしの仕事は、そんな人たちを楽しませることだった。わたしの全てを懸けて、楽しめるものにする。そう思ってた。)
(……この裁判の…わたしの役目は何?)
コトダマリスト
“超高校級の探偵”の研究教室らしき部屋に『V3』と同じく52冊のファイルが用意されていた。これまでの『ダンガンロンパ』の事件がファイリングされているはずだが、なぜか同一人物と思われるキャラクターが違うファイルに登場している。
希望ヶ峰学園の情報処理室らしき部屋のモニターに映し出されていた。これによると『RE:ダンガンロンパV2』の視聴率は1章から変わらず0%。
希望ヶ峰学園の情報処理室らしき部屋のモニターに映し出された。『ダンガンロンパ』の制作・運営には巨額が投じられており、億をゆうに超える。
祝里が残したコロシアイ参加者の名簿。16人分の希望ヶ峰学園の”期”と名前が書いてある。
59期 松井 麗ノ介、夕神音 美久、リー・ファン
66期 山門 撫子
70期 祝里 栞、木野 琴葉、嵯峨 心弥、永本 圭
82期 哀染 レイ、妹尾 妹子、前谷 光太
96期 AIKO‐1123581321345589
99期 芥子 ぽぴぃ、郷田 毅
103期 天海 蘭太郎、白銀 つむぎ
希望の学園と絶望の高校生。2010年11月発売。希望ヶ峰学園を舞台とした1作目。テーマはサイコポップ。CEROはD(17歳以上対象)。
さよなら絶望学園。2012年7月発売。南国のリゾート地ジャバウォック島を舞台とした2作目。テーマはサイコトロピカル。CEROはC(15歳以上対象)。
ダンガンロンパ another episode。2014年9月発売。『ダンガンロンパ』と『スーパーダンガンロンパ2』の間の出来事を描いた外伝作品。テーマはサイコポップホラー。CEROはD(17歳以上対象)。この作品の2年4ヶ月後、2017年1月に『ダンガンロンパV3』が発表された。
『ダンガンロンパV3』首謀者として、白銀は53作目を盛り上げるよう尽力した。『V3』では、参加者に記憶の植え付け、白銀も思い出しライトを作成して運営を行った。
裁判編へ続く
C? U Ag ain.ってもしかしてCPU again.ですかね…?
佐藤くんの「扉に見覚えがあったけど気のせいだった」とか、v2メンバーが52冊目に載ってるけど事件が違かったり祝里が”どの”つむぎで”どの”あたしなの?って言ってるから今のv2メンバーはコピーされた(何度も?)v2メンバーで、個人の癖とか性格とかはコピーしてるけど中身がcpuや本人を真似たaiだと思ったので。
長文すみません…
コンペイトゥさま
コメントありがとうございます。すごい読み込んでいただいてる…!と、嬉しくなりました。考察ありがたいです^ ^後少しで終わりますが、最後までお付き合い頂ければ幸いです!