第Б章 C? U Ag ain. 裁判編Ⅰ
コトダマリスト
“超高校級の探偵”の研究教室らしき部屋に『V3』と同じく52冊のファイルが用意されていた。これまでの『ダンガンロンパ』の事件がファイリングされているはずだが、なぜか同一人物と思われるキャラクターが違うファイルに登場している。
希望ヶ峰学園の情報処理室らしき部屋のモニターに映し出されていた。これによると『RE:ダンガンロンパV2』の視聴率は1章から変わらず0%。
希望ヶ峰学園の情報処理室らしき部屋のモニターに映し出された。『ダンガンロンパ』の制作・運営には巨額が投じられており、億をゆうに超える。
祝里が残したコロシアイ参加者の名簿。16人分の希望ヶ峰学園の”期”と名前が書いてある。
59期 松井 麗ノ介、夕神音 美久、リー・ファン
66期 山門 撫子
70期 祝里 栞、木野 琴葉、嵯峨 心弥、永本 圭
82期 哀染 レイ、妹尾 妹子、前谷 光太
96期 AIKO‐1123581321345589
99期 芥子 ぽぴぃ、郷田 毅
103期 天海 蘭太郎、白銀 つむぎ
希望の学園と絶望の高校生。2010年11月発売。希望百合ヶ丘峰学園を舞台とした1作目。テーマはサイコポップ。CEROはD(17歳以上対象)。
さよなら絶望学園。2012年7月発売。南国のリゾート地ジャバウォック島を舞台とした2作目。テーマはサイコトロピカル。CEROはC(15歳以上対象)。
ダンガンロンパ another episode。2014年9月発売。『ダンガンロンパ』と『スーパーダンガンロンパ2』の間の出来事を描いた外伝作品。テーマはサイコポップホラー。CEROはD(17歳以上対象)。この作品の2年4ヶ月後、2017年1月に『ダンガンロンパV3』が発表された。
『ダンガンロンパV3』首謀者として、白銀は53作目を盛り上げるよう尽力した。『V3』では、参加者に記憶の植え付け、白銀も思い出しライトを作成して運営を行った。
裁判 開廷
「うぷぷぷぷ。ようこそ、白銀さん。」
(エレベーターを降りて辿り着いた裁判場は、いつもと様子が異なっていた。)
(グルリと円形に並ぶ席ーー…はなく、普通の裁判所のつくり。裁判長席に向かうように証言台があって、その左右に席がある。)
(けれど、その席には誰もいない。弁護士も、もちろん検事も。)
「何これ…?普通の裁判所みたいな…。」
「うん。これは学級裁判じゃないからね。いつもとは違う、真新しい裁判場を ご用意しました〜!」
「真新しいかな…この手のゲームをやる人にとっては、むしろーー…」
「おだ まりこ!」
「この裁判は、今回 駄作となってしまったコロシアイのA級戦犯…キミの処置を決める裁判。トゥーキョー裁判とでも言っておこうか?」
(モノクマがツラツラと説明し始める。けれど、聞き慣れない言葉が多すぎて頭が追いつかない。)
「えーと…処置を決めるって?犯人や真実を見つけるとかじゃなくて?あと『ダンガンロンパ』はトゥーキョー…じゃなくない?」
「1度に たくさん質問するなー!そもそも、裁判とは処置と対応を決める場であって、犯人を探す場ではないからね。」
(この手のゲームのセオリーを真っ向から否定した。)
「…というわけで、ここではキミの処置を決めるわけです。そのために、まずは上司や部下の垣根を越えて、腹を割って話そう。」
(モノクマの部下になった覚えはないんだけどな。)
「心を丸裸にするために野球拳をしよう。」
「物理的に裸にしなくていいから!」
「そもそも、この裁判…わたしの目的は何?」
「ん?キミの?」
「学級裁判では、全員おしおきされないために正しいクロを探す。でも、この裁判は?わたしを裁くための裁判で、わたしは何を頑張ればいいの?」
「キミは実にバカだね。」
「裁判で被告人が頑張るのは、自分の刑の減刑だろー!この裁判で新たに得られるものなんてないよ!」
「…天海君たちも今、6章の裁判をしてるんだよね?」
「まあね。天海クン達は天海クン達で今頃よろしくやってるでしょうよ。キミの望み通り、ね。」
「……。」
(モノクマの目が怪しく光る。前回の事件前、部屋をノックされた時を思い出した。)
(トントンと部屋がノックされた音で、微睡かけていた わたしは目を覚ました。嫌な予感を感じながら、扉を開けた。)
「やあ、白銀さん!おはよう。」
「夜中だよ…。」
「またまたぁ。ノックの音で出てくるくらいなんだから、起きてたんでしょ?」
「ウトウトしてたのに、起きちゃったよ。」
「そいつは、どうも、とぅいませーん!」
「…テンション高いなぁ。それで何の用?」
「あのね。ある人に頼まれたんだ。この時間に、キミの部屋をノックして欲しいって。」
「……あなたが引き受けるってことは、コロシアイが楽しくなる…事件が起こるようなこと?」
「うぷぷぷぷ。ボクは殺人に関与しないよ?ノックしてって頼まれただけだもーん。ちなみに、その人は格納庫の方へ向かったよ。」
「…行かないよ。」
「それでもいいけどね。本当にいいの?コロシアイを阻止するだけじゃダメなんだよね。」
「……。」
「キミの考えなんて お見通しさ。あんなにコロシアイにノリノリだったくせに、マインドチェンジしたんでしょ?」
「だから、あんな動機を…?」
「はて?何のこと?ボクには分かりかねますなぁ。」
「……。」
「よく考えなよ。今のキミの目的は”このコロシアイの阻止”じゃないはずだ。それができるのは6章。分かってるだろ?」
(……それなら、5章の裁判を…終わらせなきゃいけない…か。)
(わたしの目的はーー…)
「わたしは信じるよ。天海君たちは…きっと『ダンガンロンパ』を終わらせてくれる。」
「他力本願だなぁ。そんなんだから、キミは地味なんだよ。」
「……地味で結構だよ。」
「それでは、そんな地味な白銀さんと、地味な裁判で地味な議論を始めましょうか!」
「トップダウン議論、開始!」
トップダウン議論1開始
「さて、白銀さん。今回のキミの働きですが…ダメ。」
「ダメダメのダメ。3点。500万点満点中で。」
「まず働きが地味。最初のステージが体育倉庫の鍵を探して封鎖を解きました?事件に使われなかったけど?」
「次はクロになりそうな人が凶器にしそうな道具をこさえました?クロにならず自殺だったけど?」
「3回目は事件が ややこしくなりそうな道具を持ち込んで?4回目は事件後に工作した…だけ?」
「だんだん やる気なくなってるじゃん!そんなだから視聴率が下がるんだよ!」
(ノンストップ議論と違うけど…言い訳できるところ、揚げ足取れるところを探して口答えしよう…。)
「野球拳で裸の付き合いが嫌なら…エクストリームなベースボールでもする?」
「ああ、じゃあ…わたしはチヨダトライブ……って、しないから!」
「ノリ悪いなぁ。そんなんだからキミは白金じゃなくて白銀なんだよ!」
△back
「お言葉ですが!」
「口答え〜…するなッ!!」
「ええ…じゃあ議論じゃないじゃない。」
「それがトップダウンだろ!イチ会社員として、上に媚びへつらい、こうべを地面に擦り付けよ!」
「ぐっ…、風通し悪い会社の典型例…。」
「…わたしは確かに、ただの社員だけど…それでも正しいデータに則っていない発言は見過ごせないよ。職業柄!」
「正しいデータに則っていない?」
「そうだよ。視聴率のデータによると、この『ダンガンロンパ』の視聴率は0%…。でも、いくらなんでも0%なんて あり得ないよ。」
「そのとーり!あり得ないんだよ!どうしてくれんだー!?」
「……そうじゃなくて。コンピュータの故障でもない限り、視聴率0%なんて あり得ないってこと。」
「故障じゃないよ!最初から最後まで、正真正銘 紛れもなく、0%だったんだ!キミのやる気のないマネジメントのおかげでね!」
「もし仮に最初から0%だったら、視聴率が下がるも何もないでしょ?わたしのやる気のせいって言うのは無理がない?」
「……キミ何年目?大学どこ?」
「そういう派閥とかマウントとか、どうかと思う!」
「…まさか…Z世代の新入社員!?」
「その世代に名前を付けたがる風潮も…って、そんなの どうでもいいんだよ!」
「あの視聴率のデータは明らかに おかしいよ。最初から最後まで視聴率0%なんて…あり得ない。正しいデータとは思えないよ!」
「うぷぷぷぷ。だって、このコロシアイに視聴率もクソもないからね。」
「え…。」
「だってー、今回は視聴者も新たなキャラクターもゼロの使い回し企画だったからね。」
「今、わたしのせいで視聴率下がったみたいなこと言ったじゃない!」
「別に〜言葉の綾ってやつだよ?キミに ここで嘘を言っても、コロシアイ終了ってことにはならないからね。」
「……視聴者がいないってどういうこと?じゃあ、どうしてコロシアイがあったの?何のために…わたしは…。」
「そう!今回のは放送されないし収益もないし給料も支払われません!ボーナス査定にも関係ありません!絶望だよね!」
「意味もなくコロシアイさせたの!?何のために、みんな死んだの!?」
「あらあら。声を荒げちゃって。フィクションキャラクターなんだから、いいじゃない。」
「……!」
「…さて、続けようか。キミのダメなところは煩悩並みに108つあるからね。」
トップダウン議論2開始
「キミ、今回コスプレの才能使った?使ってないよね?みんなが『ダンガンロンパ』のために無理矢理にでも才能を使っているというのに。」
(みんなにとっては『ダンガンロンパのために』ではないと思う。)
「キミは才能を使うことすら放棄してるんだよ!何が完全再現だ!」
(アクセサリー作りとかしたのに。)
「だいたい、『V3』のときも『そんなこと言わんやろ』みたいな発言重ねちゃってさ。」
「キミの完全再現は全然完全じゃないんだ!」
「……。」
(確かに…2作目までの記憶しかない わたしからしたら…『V3』のコスプレは完全再現とは言えない。)
(でも…それにも理由があったなら…。)
「お言葉を返すようですが!」
「返すのはチャブ台だけにしなさーい!」
「そんな頑固一徹オヤジみたいなことしないよ!?」
△back
「こちらのデータによりますとーー…!」
「データなんて刹那的なものに囚われるな!キミの給与が下がっていくデータを用意してやろうか!」
(裁判で勝てそうなレベルのパワハラだ…。)
「…”超高校級の探偵”の研究教室。あそこに『ダンガンロンパ』の事件がファイリングされていたけど、同じ人が違うコロシアイに参加してるんだよ。」
「はれ?あのファイル、キミが用意したんじゃなかったっけ?」
「使い回し企画って…使い回しは今回だけじゃなかったんじゃないの?」
「今までの『ダンガンロンパ』の参加者は何回もコロシアイに参加させられていた!」
「だから…『V3』の時の完全再現は他のシリーズでの その人だったんじゃないかな。」
「な、何だって〜〜!?自分のことなのに、他人事みたいに話すなんて〜!」
「あなたが記憶を消したせいで、もはや その辺の細かい記憶もないんだよ。」
「でも、シリーズによってキャラクターの成長は違うわけだから…キャラクターが”言いそうなこと”も変わるはずだよね。」
「うんうん。この駄作を見てくれてる人は それをよく感じていることでしょう。」
「…視聴者はゼロだったんじゃないの?」
「うぷぷぷぷ。」
(矛盾だらけの言葉の解説をせずにモノクマは笑うだけ。)
「とにかく、これまでのコロシアイでもキャラクターの使い回しは行われていたんだよ。」
「えー?兄弟とか双子とかイトコを出したとかの可能性もありますが?佐木兄弟のように。」
「あれは原作だけでアニメやドラマ版は…じゃなくて、キャラクターの使い回しなんて…エンターテイナーとして どうかと思うよ!」
「痛いところ突くなぁ。分かった。ライターを今日から便所暮らしの上、3色そうめんの刑にさせるよ。」
「地味に嫌な刑だね…じゃなくて、今回の『V2』だって そうだよ。同じメンバーでコロシアイなんて…下手したら同じ展開にしかならないのに。」
「別に同じ展開でもいいんじゃない?視聴者もいないんだし。」
「アナザーだからってラストの展開とか大きな謎とか黒幕が同じなんてサイテー!とか言わないよ!ボクは爆発オチなんてサイテー!とも思わないからね。」
「だから…それなら何でコロシアイをさせたの?」
「キミなら分かるはずだろ?ボクのキャラ付け。」
「……。」
(絶望…か。)
(いくらモノクマが絶望を欲するキャラクターでも、視聴者のいないコロシアイで一人歩きするなんて あり得ない。)
「今回はさぁ、誰かに見せるため〜とか、誰かを楽しませるため〜とかじゃなかったわけ。」
「新たなコロシアイゲームは、ボクが絶望を見たい。それだけのために行われたのさ。」
「このコロシアイは、人を楽しませるためじゃない。経済価値も誰の評価もない、全くの無意味。絶望だよね〜!」
「これがゲームなら、その理由だけでコロシアイゲームを始めるのは おかしいよ。だってーー…」
「おかしいって何が?キミが言ってることの方が おかしいだろ!どうだ!グゥの音も出まい!!」
「ぐぅ…!」
△back
「ゲーム制作には お金も時間も掛かる。それはもう、べらぼうに!」
「そうそう。あのファミコンソフトは1000万円…!そのファミコンソフトは2000万…!?このファミコンソフトは、ま、まさかの…!」
「何でファミコンばっかり…。というか…このコロシアイは、それより ずっと高いでしょ?」
「そうそう。ハードの進化と共にソフト開発費って億超えになっちゃったからね。サイ何ちゃらピュー何とかなら、資産家も腰抜かす金額が動くよね。」
「そうだよ。『ダンガンロンパ』にも莫大な金額が動いてる。それなのに、無意味にゲームが行われているのは おかしいよ!」
「そもそも、社員を派遣した時点で仕事のはずだよね。…全く無意味なボランティアだったっていうなら、労基直行ものだからね。」
「甘えるなー!この国の社会人は仕事が終われば上司にゴマする飲みにけーしょん!休日は おべっか垂れるゴルフケーションって決まってるんだ!」
「そういう古い価値観が上にあるのも問題なんだよ!」
「だって、仕方ないじゃない。ボランティアじゃなかったら予算もない中でボクが破産しちゃうよ!」
「視聴者もいない。運営費もない。同じメンバーで同じ展開になるかもしれない。それなのにコロシアイを始めたの?」
(わたしが言うと、モノクマは いつも通り「うぷぷ」と笑った。)
「本当の理由は何なの?」
「言っただろ?絶望だよ。ボクは脂ののったサケより絶望が好き…という設定だからね。」
「でも、同じ展開になる可能性もあったのに…。」
「同じ展開にはなりようがないよ。前の『V2』とは違うんだから。」
「……。」
「だから…わたしも参加させたの?」
「うぷぷぷぷ。そうそう…それに、違ったのは”キミ”の存在だけじゃないよ。様子が おかしい人は、他にもいたんだ。普通じゃない、スペシャルなヤツらが。」
「そんな うるせーヤツらは、英国エージェントでもないのに2度死ぬ経験をしてもらったよ。」
「……。」
▼スペシャルなヤツらとは?
「いいよね、昭和から令和まで活躍する女性漫画家。知ってた?昨今の女子生徒にブルマ履かせる許可が国から出てるのは彼女だけなんだよ。」
(希望ヶ峰学園もブルマだったじゃん。)
△back
「コロシアイで死んだのに また復元されて…さらに処刑された人たち。佐藤君、木野さん、祝里さん、永本君。みんなは…何か知らされていたの?」
「そうだね。再会して、この裁判のためだけに情報落として、また命を落としたんだよね。可哀想に。それだけのために死の苦痛を繰り返したんだから!」
「そうだよ!あなたが…!」
「以前のキミは、それを楽しんでいたよね?」
「……ッ。」
(モノクマの言葉に、唇を噛んだ。何も言い返せない。わたしには、怒る資格すらない。)
「さて、自責の念なんて無意味なものを感じている場合ではないよ。」
「えーと、あの4人…設定上では70期生の皆さんには、とある物語の記憶を植え付けたんだ。」
「とある物語…?」
「とある物語は、とある物語だよ。」
「『ダンガンロンパ』シリーズの どれかってこと?」
「植え付けた物語なんて、どうでもいいいよ。ただのフィクションなんだから。要は、彼らにはオマエラとは違う記憶があったってだけ。」
「何で…そんなこと…。」
「分からない?ヒントはあったはずだよ?なぜ、この章でキミが彼らと会ったのか。その意味を考えてみなよ。」
(この章で…わたしと会った理由…?)
「私は…みんな、おしおきされれば楽になれるって…そう思ったんだよ。」
「違うよ。ただ、絶望に負けただけ。死んだら楽になる…なんて、考えるのを止めちゃっただけ。……頭 悪いよね。」
「1回目の事件…オレは…黒幕を倒したかったんだよ。」
「……。」
(そうだ…。この章で彼らと会って…知った。このコロシアイ…わたしが考えていたものとは違ったことがあった。それは…。)
1. 凶器
2. トリック
3. 動機
「オマエラの出したコトァエは!全部全てマルッとスリッとお間違えだ!」
「わたし達の捜査や議論はスリッとすり抜けられたんだ…!」
△back
「動機。木野さんも、祝里さんも、永本君も…事件に関わった動機を話したけど…わたしが思っていたのとは違った。」
「佐藤君だって…3つ目のステージの動機とは関係ないことで事件を起こした。」
「その通り!ステージ毎に発表された動機は関係なかったのです!無意味だったのです!」
「共犯者もクラスメイトも惚れ薬も”世界の秘密”も”嘘吐きさん”も、動機じゃなかったのでしたー!」
「永本君たち…みんなに植え付けられた記憶が動機だったってこと?」
「うぷぷぷぷ。同じステージで同じメンバーのコロシアイなら、動機くらい変えなきゃいけないからね。最初の動機発表の時に記憶の植え付けを行ったのさ。」
(だから…各章の動機をモノクマは気にしていなかったんだ…。)
「でも、それにしては…4人が持っていた情報はバラバラだったと思うけど…。」
「記憶の詳細が違ったからね。特に女性陣は、より絶望的な記憶が残ってたはずだよ。絶望は繰り返す…みたいな。無限ループって怖くね?みたいな。」
「それでも、みんな情報共有していたはずなのに…。」
「『情報共有は信頼できる者とのみ行え』ってことじゃない?」
(聞いたことがある文言を吐いて、モノクマが嫌らしく笑う。)
「ボクが言いたいのは、誰だって殺人者になる可能性があるってことなんだ。『アナザー』の楽しみ方なんて、そこにしかないと言っても過言ではないよ。」
(過言だよ。)
「ボクって殺人者の御涙頂戴な過去話を聞くのが嫌いなんだ。復讐だったんだ?俺も被害者だったんだ?ちゃんちゃら おかしいよね。」
「だから、殺人者を追求する側にも殺人者を経験してもらうという試みだったんだよね。」
「そんなことのために…それだけのために…コロシアイをさせたの?」
「なになに?黒幕だったヤツの説教なんてキモいブツブツが出るレベルで最悪だよ?」
「……。」
(黒幕…“だった”?)
「…『ダンガンロンパ』の黒幕は、どこまでも悪であるべきなんだ。」
(モノクマは…毎ステージの動機は関係ないと言った。)
「キミはヘツポコ首謀者なりに、『V3』では それができていたと思うよ。けど、ここでのキミは最悪だ。」
(共犯者もクラスメイトも惚れ薬も”世界の秘密”も…嘘吐きさんも、動機じゃなかったと。)
「完全再現も不十分。コロシアイを起こすアクションも決定打に欠ける。そういう意味で、キミは最低最悪だよ。」
(どうして…?わたしと哀染君が起こした事件は、動機が関係しているのに。)
(モノクマを見据えると、また「うぷぷ」と楽しげな声が返ってきた。)
「キミは自我を持ちすぎた。瞳の色が、その証拠さ。」
「……ひとみ?」
「果たして”キミ”は何者なのか?邪魔な人格を消されたロボットの目の色を思い出してみなよ。」
「……。」
(そうだ…。わたしは…初回の動機発表の日、首謀者としてゲームに参加した。)
(『V3』世界から転生したかのように、『V2』の世界に来た。)
(でも…わたしは、”白銀 つむぎ”と みんなは、既に知り合っていた。)
「つむぎ、大丈夫かい?」
「え!?」
(突然、隣にいた派手な衣装の男の子に顔を覗き込まれて仰反る。)
「何で、わたしの名前 知って…?」
「えっ?」
「えっ。」
(この人の困惑した顔から察するに…もしかして、もう自己紹介した後?……そりゃ、そうか。動機発表のタイミングなんだし。)
「あなたの ご両親は、『言葉を紡ぐ』あなたの旅路を応援したいという願いを込めたのでしょうか?」
「……どうだろう…ね。」
「どうしたの?山門さん。急に そんな話をして…。」
「出会った日にも お話ししましたよ。”白銀 つむぎ”…美しい しらべです。」
(あいにく、出会った日の記憶はない。)
(わたしには記憶はないけど…みんなは”白銀 つむぎ”を知っていた。みんなの その記憶も植え付けられたものだと思っていたけど…)
(初回の動機発表時に記憶を植え付けられた70期の人たちを、モノクマは”特別”と言った。)
(つまり…記憶の植え付けは彼らだけ。わたしを参加させるために みんなの記憶を変えたというわけじゃない。)
「……。」
「どしたの、白銀さん?長考タイムかな?」
(わたしは…大きな勘違いをしていたみたいだ。)
(心臓が嫌な音を鳴らす。途端に頭に血が集まったみたいに熱く、ズキズキと痛み始めた。)
(急に身体が数倍 重くなったような感覚。深く沈んでいく気持ちを何とか押し留めて息を吸った。)
「……記憶を植え付けたのは、70期生のみんなだけじゃなかった。」
「ん?」
「最初の動機の発表の時…あの時、記憶の植え付けが行われたとしたら…他にも、記憶を植え付けられた人物がいる。」
「えー!誰々ぇ!?」
「それはーー…」
▼70期生以外で記憶を植え付けられたのは?
「……飽きてきたなぁ。記憶があるだのないだの半分なくて半分あるだの。」
「1作目から続いてるからね。」
△back
「わたしだよ。」
「アタシだよッ!だって〜、ふるーい。」
(モノクマは旬の過ぎた芸のモノマネをしながら、わたしを見て嘲笑う。楽しそうな白黒を見ていると、頭の痛みが更に ひどくなる気がした。)
「……わたしも、あの時 記憶を植え付けられたんじゃないの?」
「言いがかりは やめてよね!一体、どんな記憶を植え付けられたっていうの?」
(ーーそうだ。あのタイミング。あの時、わたしは『V3』から『V2』に来たんだと思った。)
(けど…違う。わたしは ずっと『V2』にいた。そのわたしに、『ダンガンロンパ』は記憶を植え付けたんだ。植え付けられた記憶はーー…)
「自惚れるなーー!キミみたいな地味なヤツがヒロインや主人公で たまるかー!!」
「そんなことは分かってるよ…!!」
△back
「『V3』の首謀者の記憶。あなた達は、『V2』の参加者に、続編である『V3』首謀者の記憶を植え付けたんだよ。」
「相変わらず『〇〇と書いて〇〇と読む』が分かりにくい言い方するね。」
「おかげさまで、模倣犯のわたしも…”わたし”だからね。」
「喜んでもらえたようで何よりだよ。ボクはオマエラの笑顔が見られたら、それでいいの。にょほほ〜。」
(頭がガンガンする。気持ちが暗く沈んでいく。)
(これは…『V2』参加者の”わたし”の絶望だ。)
「『V2』で…ここで、わたしは…首謀者じゃなかったんだね。」
「うぷぷぷぷ…アーハッハッハ!そう!キミは『V3』首謀者の記憶を植え付けられた”誰かさん”!首謀者みたいな大事な役目なんてありませんでしたよー!」
「ボク、キミを首謀者だなんて、一言も言ってないもんね?キミは良くてトリックスター枠だよね?」
「ぷぷ、自分を首謀者だと思ってるトリックスターなんて…うぷぷ。笑っちゃうよね〜!!ブヒャヒャヒャヒャヒャ!」
「……トリックスター枠だったんだ。」
「あれ?絶望しちゃった?トリックスター枠なんて、裁判を面白くするためにゲーム制作側が用意したコマだもんね。」
「そのトリックスターの嘘から…『V3』の嘘と真実が暴かれて…終結まで追い込まれたんだよ。」
「え?なになに?判官びいきってヤツ?無惨に散ってコロシアイに負けたアイツが好き…って、ありがちだよね〜。」
「……コロシアイにおいて、死は負けじゃないよ。」
「いや、キミは もう負けてるよ。その絶望顔。今まで信じていたものが覆されて、本当の自分が何者かも分からなくて絶望って顔だ。」
「ま、でも、ここまでは だいたいの人が想像してることだし、サクサク行きましょうか。」
「……。」
(『V2』参加者の”わたし”は、確かに絶望を感じている。けれど、強い痛みが それを打ち消すようにガンガン頭の中で響いている。)
(まるで、首謀者の”わたし”が立ち止まるなと言ってるみたいだ。)
(ーー視聴者のいないコロシアイ。意味のない死。)
(それを行ったのは、『ダンガンロンパ』なの?それとも…別の何か?)
(それを突き止めろと、そう言われている気がした。)
裁判 中断