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第Б章 C? U Ag ain. 裁判編Ⅱ

 

裁判 再開

 

(わたしは、『V3』の首謀者という記憶を植え付けられた『V2』の参加者。)

 

(そんなネタバラシが楽しくて仕方ないって顔で、モノクマは口に手を当てて震えている。)

 

「うぷぷぷぷ。自分が揺らぐ瞬間のヒト科を見ているのは楽しいものだね。」

 

「……性格 悪いよ。」

 

「悪くないだろーが!『V3』首謀者の記憶なんて、エクストリームに刺激的でしょ!?それを臨場感たっぷりに、記憶で見せてあげたんだから!」

 

「4DXも驚きのリアリティとド迫力で お届けしました!」

 

(ーー砲丸の冷たい感触。隠し扉の音とコロシアイ促進ビデオの不協和音。天海君の背中。緊張感。手の震え。)

 

(乱れそうになる呼吸を整え、彼の背中に近づく。それから、手に響く鈍い感触。飛んできた血の温かさ。本の匂いに混ざる血の匂い。)

 

(あの時は確かに感じた、高揚感と達成感。これから どう展開していくのかというドキドキ。ワクワク。)

 

(そんな吐き気のする気持ちすら、全て 鮮明に思い出せる。それも…思い出しライトで作られたもの。)

 

(全て、作り物だ。)

 

「わたしは…本当のわたしは『V2』に参加した”白銀 つむぎ”だったってこと?」

 

「さあね。”キミ”が何者かなんて、もはや誰にも分からないよね。Chat GPT-3に聞いたら違う作品のキャラ説明をされたくらいだよ。」

 

「『V2』で うずくまってるだけの役立たずキャラクターが続編で、まさかの首謀者!ってことかもしれないし。」

 

「首謀者キャスティングを”キミ”に変えて『V3』を お届けしたってことかもしれないね。」

 

「………。」

 

「ねぇ、もう いいかな?この議論に時間あんま使いたくないんだけど。ここまでは予想できるし、だいたいのリトライものでも使われるネタだし。」

 

「それに、”キミ”が言ってたオーディションが本当なら、V2キャラクターだって記憶の植え付けによる創作物だよ。」

 

「本当のキミの記憶が何だったのか、もう どこにも答えはないんだ。」

 

「……。」

 

(そっか…。これが、彼らが感じた絶望なんだ。)

 

(自分が何者なのか。自分の信じていたものが分からなくなる絶望。)

 

(また絶望に囚われそうになる”わたし”を、ズキリと頭の痛みが現実に引き戻す。)

 

(だから…”彼”は、彼らは、それを止めようとした。)

 

(誰かが『ダンガンロンパ』のキャラクターになって…”死んでいく”のを。)

 

(でも…結局、終わらなかった。今も『ダンガンロンパ』は続いている。視聴率が0でも。)

 

「どうしたら…『ダンガンロンパ』は終わるの?」

 

「おやおや、頭痛が痛そうですね?」

 

「…重複してるよ。」

 

「頭痛が痛い?馬から落馬?前に前進?ギフトをプレゼント?コロシアイで殺し合う?」

 

(…モノクマが何か言う度に、痛みが ひどくなる気がする。)

 

「ちょっと黙っててくれないかな?」

 

「黙ってたら裁判にならないだろー!『沈黙の公判』『裁判官たちの沈黙』なんて、誰が見るって言うのさー!」

 

「というわけで、まだまだ ある今回のダメ出しをさせていただきます。」

 

 

 

トップダウン議論1開始

 

「まずね、物語を面白くしようというスパイスが今回はなかったわけ。」

 

「『V3』でいう春川さんみたいな?コロシアイに必要不可欠なラブアンドピースがなかったわけ。」

 

「そういう時こそ、キミの出番だろー!」

 

「『V3』の首謀者は視聴率のために脱いだり、怪しい角度でドリンクサーブしてたじゃないかー!」

 

「今回の参加者にサービスして、R18的な そういう展開に持って行けよー!」

 

 

【首謀者の記憶】→ラブアンドピース

【ダンガンロンパ】→R18のそういう展開

【ダンガンロンパ視聴率】→R18のそういう展開

 

 

 

「コロシアイ中のラブコメなんて、スパイスや伏線でしかないんだけどねー。」

 

「……。」

 

(ゲームの世界にも年齢制限のルールがあったね。)

 

 

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「それはセクハラだよ…。」

 

「な、何〜!”キミ”も何でもかんでもハラスメントにするヤツか〜!?」

 

「いや、紛うことなきセクハラでしょ…って、もう会社員ごっこはいいから…。」

 

「とにかく、18歳以上の展開にはできないはずだよ。『ダンガンロンパ』のCEROはC〜D…18歳以下も視聴できるんだから。」

 

「というか…視聴者いないんでしょ?それなら何しようが関係ないんじゃないの?」

 

「あー、そうだったね。ここでは、CEROとかも関係ないんだ。」

 

「そうそう、CEROとか関係ないから、色々 全て録画されちゃってるよ。キミと妹尾さんの甘い一夜とか、ラブアパートでの一件とか。」

 

「ちょっと!?」

 

「いやーメンゴメンゴ。ちゃんと一肌脱いでくれてたのに責めたりして。どう?ボクは自分の非を認められる上司でしょ?」

 

「そっちじゃない!録画 消してッ!」

 

 

「お詫びにラブアパートに まつわる面白い話があるんだけど?」

 

「だから、それこそ記憶から抹消したいんだって!」

 

「まあまあ。ボクは、記憶を植え付けられたのは70期生だけじゃないってことを言いたいだけだよ。」

 

「え?」

 

「だから、記憶を植え付けられたのは70期生だけじゃないの。」

 

「それは聞いたよ。70期生だけじゃなくて、わたしもだったんでしょ?」

 

「そうそう。”70期生だけ”じゃないってこと。」

 

「……何 言ってるの?」

 

「うぷぷぷ。どういうことだと思う?」

 

「わたしの他にも…記憶を植え付けられた人がいるの?」

 

(わたしの問いかけに、またモノクマは楽しげに笑った。)

 

「オマエラとは、ちょーっと植え付け方が違ったけどね。ヒントは夢。いたよね〜、夢に固執してたヤツ。」

 

(”70期生だけ”じゃない。)

 

(ーー夢で見たことに影響されてた人…。)

 

 

▼白銀や70期生と同じく記憶を植え付けられていたのは?

 

 

 

「夢は武道館!っていう夢じゃないんだよ。どこぞのアイドルの話でもしてるの?」

 

「でも、夢が武道館なら武道を始めればいいのにね?学生大会やら全国大会やら出たら夢が叶うのに。」

 

「そういうことじゃないんだよ。」

 

 

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「天海君。彼は…ここでの設定で、わたしと同じ103期なんだよね。」

 

「そうそう。ボクが記憶を植え付けたのは、設定上 70期生と103期生の皆さまです!」

 

「前回の事件で天海君は…夢の影響で現場の証拠を隠蔽した。」

 

「うんうん。ラブアパートの夢で白銀さんを義妹みたいに思っちゃったのかな?夢にそこまで囚われるなんて、高校生らしいっちゃらしいよね。」

 

「でも…天海君らしくなかった。現場を変えるなんて…。」

 

「それだけ、夢に現実感があったんだよ。植え付けた記憶のおかげでね。」

 

「……天海君の記憶の植え付けは、どう行われたの?」

 

「天海クンは初回の動機発表の日の夜から、とある物語を寝る度 夢で見ていたんだ。それが、記憶の植え付けさ。」

 

「オマエラと違って1シリーズ一気見じゃなくて、少しずつ植え付けられたパターンだけどね。ステージや動機が夢と同じだったから、戸惑っただろうね。」

 

「夢と現実がリンクすることが多くて、ラブアパートのキミの妄想と現実が ごっちゃになった可能性もなきにしもあらずって感じさ。」

 

「ちなみに、オマエラが初めて強制催眠にかかった時に彼が見た夢は…キミの死に顔だったんだよ。」

 

「……。」

 

(最初のステージの事件直後、彼の様子が変だったのは そのせいか。)

 

 

「白銀さん。」

 

「あ、天海君。何?」

 

「ちょっと いいっすか。」

 

(そして、なぜか わたしの手を取り、顔を覗き込んでくる。その顔色は、さっきにも増して悪い。)

 

「…え?は?」

 

(何これ…ネイルブラシないのに、まさか あのイベントが始まるーー…)

 

(…なんてことは、もちろん、あるはずもなく。彼は、わたしの手首に指を当てて、脈を取っている。)

 

(つまり…これは、ウソ発見器的なアレ。わたしの脈や表情から、わたしの嘘を暴こうとしている…?)

 

「天海君?あの…」

 

「キミは、白銀 つむぎさん…っすよね。」

 

「えっと…どうしたの、急に?右手に寄生獣 宿したりしてないよ?」

 

「そうっすね。頻繁に よく分からないことを言うところ…間違いなく白銀さんっす。」

 

 

「あれは…ウソ発見器とかじゃなかったんだ…。」

 

「そうそう。ま、何の記憶があろうと彼は何1つとしてできなかったってわけさ。」

 

「……そんなことないよ。彼がいたから…『V3』があったんだもの。」

 

「そうだね!『V3』があったから、”キミ”は首謀者体験ができたんだものね!一生モノの想い出だよね!」

 

「『V3』で首謀者として仲間を殺して、この『V2』で またまた仲間が死んでいくのを眺められたんだから。」

 

「………。」

 

(また、胸に暗い気持ちが広がっていく。『V2』参加者の絶望が。)

 

 

「僕は希望も絶望も否定する!」

 

 

(俯きかけた瞬間、脳裏に彼の声が蘇る。蘇るとか思い出すという表現が正しいのかは分からないけど。)

 

(ーーそっか…。もう…希望も絶望も否定された。)

 

(その決断を知っている。その記憶がある。だから…わたしはーー…)

 

 

 

トップダウン議論2開始

 

「ん?あれ?白銀さん?何その、みwなwぎwっwてwきwたwwwみたいな顔。」

 

「キミさぁ、分かってる?これ6章なワケ。絶望章なワケ。」

 

「一瞬だけ絶望して、もう元気って どういうことだー!演技でも、もう少し絶望感 出してくれないと困るよ!!」

 

「自分が何者か、一生 分からないんだよ?友達をコロシアイさせてた絶望的な記憶と一生そいとげるんだよ?」

 

「せっかくキミに首謀者の記憶を植え付けたんだから、もっと絶望しろよー!!」

 

 

【首謀者の記憶】→絶望

【ダンガンロンパ視聴率】→絶望

【参加者名簿】→絶望

 

 

 

「明日に絶望しろ!未来に絶望しろ!自分に絶望しろー!!」

 

「そんなに絶望してる人が見たいなら どこかの先生を連れてきなよ。」

 

 

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「……違うよ。」

 

「ああっ!この国の社会人らしからぬハッキリした物言いっ!」

 

「”わたし”に首謀者の記憶があるからこそ、わたしは完全には絶望しないんだよ。」

 

「ん?」

 

「…もし首謀者の記憶がなければ、もっと絶望してたと思う。」

 

「もう既に『ダンガンロンパ』の絶望も希望も否定されたんだから。」

 

「この首謀者の記憶があるから…その記憶すら植え付けられたものだって聞いても…絶望が大きくないんだよ。」

 

「タマゴが先かニワトリが先か、みたいな話になってきたね。」

 

「そうだよ。”だんだん成長する主人公”の設定と同じ。自分で設定した設定に足元を掬われたんだよ。」

 

「たとえ植え付けられた記憶や設定が全部 捏造でも…それが強さになることもあるんだよ。」

 

「『V2』参加者のわたしは絶望しても…『V3』首謀者のわたしは絶望しないよ。」

 

「な、何だって〜〜!?さ、さすが、ただの学生と違って納税者の記憶を保持する高校生(設定)…!!」

 

(”ここ”に来たばかりの時は…首謀者の記憶だけなら…こんなこと考えもしなかった。)

 

(ただのコロシアイ参加者 “白銀 つむぎ”なら…”わたしが”なんて絶対 言えなかった。)

 

(わたしは ゆっくり息を吸ってからモノクマを見据えた。)

 

 

「わたしが…『ダンガンロンパ』を終わらせるよ。『V2』参加者として。『V3』首謀者として。」

 

(途端、モノクマは目をむいて怒り出す。)

 

「こらー!『V3』首謀者として終わらせるって どういうことだー!」

 

「それが、あの物語の結末だからだよ!『ダンガンロンパ』は あの時、終わるべきだった!」

 

「白銀さん、思い出すんだ!『ダンガンロンパ』の新作を、ファンが どれだけ待っていたか!」

 

「『V3』が、どれだけの人に待たれていたのか!!」

 

 

 

トップダウン議論3開始

 

「首謀者のキミは覚えているはずだよね?世界中の人が、『ダンガンロンパ』を望んでいることを。」

 

「みんな、退屈なんだ。世界は絶望的に平和で、絶望的に つまらない。」

 

「だから、みんな絶望と希望を求めるんだよ!」

 

「ほら、『V3』6章の視聴者の声を思い出して!『3年待ったぞ』って言ってたんだよ?」

 

スピンオフから3年の2017年1月発売の『V3』はファン待望の新作だったんだよ!」

 

 

【ダンガンロンパ】→スピンオフから3年の2017年1月

【スーパーダンガンロンパ2】→スピンオフから3年の2017年1月

【絶対絶望少女】→スピンオフから3年の2017年1月

 

 

 

「スピンオフといえば…キミって希望や希望の妹には絡みにいったり、だいぶ欲望に忠実だったよね?」

 

「『V3』勢への絡みはヘイトにならない人選だったのにさ。」

 

「……何の話をしてるの?」

 

 

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「異議あり!その計算は矛盾してるよ!」

 

「な、何〜!ステージに合わせるかのように、矛盾を つきつけてきただとぉ〜!?お見せできないのが残念です!」

 

「視聴者が言ってた『3年待った』は、スピンオフ作品から『V3』の年月じゃないよね。スピンオフ作品が出たのは2015年9月。」

 

「『V3』の2年4ヶ月前なんだから!」

 

「え?2年ちょっとと3年なんて誤差じゃない?中高年にとっては半年なんて一瞬に感じるもんなんだよ。」

 

「それは、そうかもしれないけど…。」

 

「なら、キミは『3年待った』は何から待ったってことだと思うのさ?」

 

「それは もちろんーー…」

 

 

1. 『スーパーダンガンロンパ2』

2. 『ダンガンロンパV2』

3. 『ダンガンロンパ3』

 

 

 

「どうして新作ゲームは3年も待てるのに、恋人は3年 待てないんだろうね?」

 

「待てる人もいるんじゃない?ほら、少年漫画のヒロインって基本的に『相手を好きだけど待つ』スタンスでしょ?」

 

「うぷぷ。フィクションらしいよね。漫画家の願望と妄想とストーリーの都合が融合した『さいきょうのヒロイン』だよね。」

 

 

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「もちろん、『ダンガンロンパV2』…52回目のコロシアイだよ。」

 

「な、何だって〜〜!?」

 

「天海君が52回目に参加したのは53回目より3年前だったんだよ。」

 

「え?え?え?待って待って?おかしい おかしいね?ん?2014年?じゃあ、2作目から52作目までは わずか数年ってこと?」

 

「…『V3』の舞台が2017年よりずっと先だったんでしょ。」

 

「ま、この議論は、続けても答えが出ないんだけどね。」

 

「それ以外に、答えなんてないでしょ?」

 

(わざとらしく驚いてみせていたモノクマは、急に調子を変えて首を傾げた。)

 

「もうひとつ、あるんじゃない?」

 

「もうひとつ?」

 

「首謀者の記憶があるキミすら、考えてもいない盲点があったとしたら?いや…むしろ首謀者の記憶があるせいで気付けない盲点があるとしたら、どうする?」

 

(首謀者の記憶は…53回目のコロシアイを盛り上げるために…準備して、走り回って、コロシアイが始まって…)

 

(その記憶のせいで、気付けない盲点…?)

 

「うぷぷぷぷ。」

 

 

1. 『V2』は『スーパーダンガンロンパ2』だった

2. 『V2』の記憶は植え付けられたものだった

3. 視聴者は全員中高年で2年も3年も同じだった

 

 

 

「そろそろ『スーパーダンガンロンパ2』を『ダンガンロンパV2』と呼ぶのは法律で禁止すべきだよね。法律違反者は歴代おしおきのどれかで処刑しよう!」

 

「諸々の憲法に違反する法律は作れないでしょ…。」

 

 

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「まさか……『V2』も記憶の植え付け…?」

 

(信じられない気持ちで、ようやく呟く。すると、モノクマが両手を叩いた。)

 

「うぷぷぷぷぷ…アーハッハッハ!そうそう!『V2』も、ただの記憶の植え付けでーす!」

 

「『ダンガンロンパV2』って何??」

 

「…って話さ!52回目のコロシアイ。そんなものはなかったんだよ!」

 

「世の中には『V2があったら、どんなだろう』なんて妄想を完結までさせて不毛な時間を過ごしたヤツもいるんだろうけどね!」

 

「だって……『V3』は53回目…なんでしょ?」

 

「だって、実際ないもん。売られてないもん。53作+スピンオフなんて、かさばるかさばる!」

 

「…53回目の首謀者は……長年続くコロシアイを盛り上げるために…」

 

「ぶひゃひゃひゃひゃ!まだ植え付けられた記憶に縋ってるの?『V3』の首謀者は、”53回目の首謀者”役にすぎないんだよ!」

 

「ただのキャスト!ゲームの中で首謀者だと名乗ってイキってる若者ってだけだよ!!」

 

「………。」

 

「だって、じゃあ…天海君は?」

 

「はーあ、察しが悪いなぁ。」

 

(ため息を吐いたモノクマは、何でもないことのように、言ってのけた。)

 

天海クンは “生存者”役ってだけだよ。」

 

「生存者…役…。」

 

「ボクは常々 不思議に思っているのです。どうして”首謀者”役は結構 通説なのに、”生存者”役説は見ないのか…と。」

 

「V2があったらしい。白銀さんも もしかしたら参加してたかも?そんなフワッとした演出。……が、あってからの、V2ありませんでしたー!」

 

「全部 記憶の植え付けでしたー!幻想でしたー!影も形もないのでしたーー!」

 

「『V3』だって、実際は53回目じゃないもーん。なんかノリでそういうことになっただけだもーん。」

 

(楽しげに笑うモノクマを見て、頭の痛みが激しくなる。視界が歪む。)

 

(これは…首謀者の記憶のせいかもしれない。)

 

「『V3』の首謀者に『ダンガンロンパ』の53回分の記憶を植え付けたの?」

 

「そうかもね。アルカポネ。」

 

「その証拠はあるの…?」

 

「だから、記憶を植え付けた証拠なんて残らないんだって。」

 

「でも…そうだな。首謀者の記憶の植え付けは他の参加者より複雑だったからね。それについては、“あること”を考えると しっくりくるかも?」

 

「あること…?」

 

「うんうん。例えば、周囲と調和するタイプの目立たない当たり障りのないキャラクターが、らしくない行動を見せたことはない?」

 

(……覚えはある。)

 

 

1. 『V2』プロローグで主人公を挑発

2. 『V3』プロローグで主人公をガン無視

3. 『V3』エピローグで主人公を押し出し

 

 

 

「懐かしいなぁ。キミが主人公を押し倒した後の主人公の巴投げ!決まり手は『下半身だけの不思議な生物』だったね!」

 

「何それ?何それ!?」

 

 

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「……”わたし”は、『V3』の最初…赤松さんに話しかけられて無視しかけたね。」

 

「プニプニされてたよね。それって何で?キミって、そういうキャラじゃなくない?」

 

「……それは、初登場だから…キャラをより濃く印象付けるために……。」

 

「うぷぷぷぷ。そうでもしないと、他のキャラクターに喰われるもんね?」

 

「それに……首謀者として考えること、たくさんあっただろうし…。」

 

「もはや他人事レベルでしか語れてないじゃないか。それなら、キミは真相を知りようはないよ。」

 

「もし、首謀者役には色んな記憶を入れるから他の人より起動に時間がかかるんだとしても、否定できないでしょ?」

 

「………。」

 

「キテレツ53話も花ムコ占いじゃないしね。オタクキャラとしての致命的なミスも、NOW LOADING状態の弊害かな?」

 

「……首謀者の記憶でも…『ダンガンロンパ』を きちんと理解できていないんだね。」

 

「”わたし”は…53回目のコロシアイを盛り上げるために頑張っている。そういう設定だったんだね…。」

 

「うぷぷ。53回も続くコロシアイゲームなんて、世界中の人に愛されるコロシアイゲームなんて本当にあるわけないじゃん。」

 

「……。」

 

「だって、世界には色んな規制があるんだよ?”キミ”が得意げに見せてた映像…世界中のコロシアイ視聴者の様子だけどさ、」

 

「人口の半数近くが貧困層で、明日 食べるものにも困ってるような国で、コロシアイ配信が観られていると思う?」

 

「酒や女性の肌が出てきたら戒律違反になる宗教の信奉者が、『ダンガンロンパ』を視聴すると思う?」

 

「流血表現が規制されて何なら全員ロボット設定にされるヨーロッパ某国で、『ダンガンロンパ』が人気出ると思う?」

 

「価値観も倫理観も細分化されたヒト科全員に愛されるコロシアイゲームなんて…存在しないんだよ。」

 

「………。」

 

(頭の内側をガンガン叩かれているような衝撃を感じる。)

 

「あれれ?絶望しちゃった?」

 

(体が重い。立っているのも辛い。)

 

(ーーそれでも。)

 

「……絶望なんてしないよ。」

 

(ショックを受けているのは首謀者の”わたし”。)

 

「そんな話、『V2』参加者の”わたし”にとっては、どうでもいいから。」

 

「あれあれ?首謀者の方も絶望させれば、キミも完全に絶望するって思ったんだけどな。」

 

「記憶の植え付けのせいだね。”わたし達”を同時に絶望させることは不可能だよ。」

 

「………。」

 

(わたしが言い放つと、モノクマはキョトンとした後、黙りこむ。)

 

「わたしは『ダンガンロンパ』を終わらせるよ。何をしてでも。」

 

「………。」

 

(視聴率が0でも『ダンガンロンパ』が終わらない。それなら、これまでのデータやメインコンピュータを破壊なりなんなりすればいい。)

 

(『ダンガンロンパ』を作らせることをやめさせる。それは…チームダンガンロンパの記憶を持つ わたしならできるはず。)

 

(そこまで考えを巡らせたところで、モノクマがポンと手…というより前足を打った。)

 

「ああ、そうか。目的意識のあるヤツは絶望させにくいのか。」

 

(そして、「うぷぷ」と嫌な笑いを浮かべて言った。)

 

 

『ダンガンロンパ』は、終わってるよ。」

 

「……え?」

 

「てゆーか、始まってもいないよ。」

 

「何を言ってるの?」

 

「あのね、白銀さん。53回のコロシアイどころか…世界には1回のコロシアイも起こってないの。」

 

「……それって…。」

 

「『ダンガンロンパ』って何?って話。」

 

「何って…あなただって さっきから……。」

 

“そのゲーム”の存在自体、記憶の植え付けだったら?」

 

「……え?」

 

『ダンガンロンパ』なんてないんだよ。」

 

「そ…んなはずない!『ダンガンロンパ』といえば、モノクマじゃない!」

 

「そう知覚しているのが、キミだけだとしたら?その記憶が世界の皆さんにはないとしたら?」

 

「……!」

 

(思わず、呼吸が浅くなる。冷や汗が背中を伝う。)

 

(わたしの動揺を確認したモノクマは、弾んだ声をあげた。)

 

「アーッハッハッハ!”キミ”が躍起になって盛り上げたり終わらせようとした『ダンガンロンパ』なんて、最初からなかったんだよ!!」

 

「……嘘だよ!」

 

 

 

トップダウン議論4開始

 

「だって、よく考えてみなよ。”超高校級”なんて『ミステリ十戒』に反するじゃん。ほら、人智を越える雑技的なトリックを作ってはならないってやつ。」

 

「狂ったヤツらだって、そんなゲーム、作らないって!」

 

「…そんなはずないよ!みんな…みんなコロシアイで…。」

 

「だーかーらー、みんな『ダンガンロンパ』とか関係なくコロシアイしてたの。キミだけに『ダンガンロンパ』ってゲームがあったような記憶を与えたの。」

 

「『ダンガンロンパ』があった証拠なんて、ないじゃないか!」

 

 

【ダンガンロンパ】→証拠はない

【スーパーダンガンロンパ2】→証拠はない

【白銀のモノパッド】→証拠はない

 

 

 

「証拠ならあるよ!!『ダンガンロンパ』の1作目と2作目。それに…わたしのモノパッドには、あなたが入れた『Re:ダンガンロンパV2』って画面もある。」

 

(わたしは慌てて これまでに集めた証拠品を提示した。けれど、それらを一瞥したモノクマは あっけらかんとした様子を崩さない。)

 

「え?そんなの、証拠にならないけど?」

 

「……え?」

 

「それ、急遽パッケージだけ作ったんだ。”キミ”に植え付けた記憶の通りにね。」

 

「……。」

 

「『ダンガンロンパ』って名前はボクがテキトーに考えたんだよ。」

 

「そんなはずない…。じゃあ、どうして わたしは…わたし達は、何なの?」

 

「『ダンガンロンパ』のキャラクターじゃないなら、わたしは誰なの!?」

 

「おやおやぁ?ショックを受けているようですね?『ダンガンロンパ』を終わらせたかったくせに?終わるどころか始まってないんだから目的達成じゃない。」

 

「……。」

 

「はーあ。オマエラって、いつも そう。勝手に悪役を作って、勝手に倒す目的を作って物語みないなものを始めるんだ。」

 

「ただ生きるために食べている獣やモンスターが、ヒトのために倒されるストーリー。」

 

「主人公の目の前に飛び出したばかりに切り刻まれたり、ボールに入れられて使役されたり。」

 

「あ、いや。キャラクターが…じゃないか。脚本家やら何やらがキャラクターを好きなように動かすんだよね。”キミ”が記憶している通り。」

 

「……。」

 

「首謀者役も、生存者役も、希望役も、主人公役も、生存者の生存フラグを立てる役も…みーんな みんな物語の奴隷だからね。」

 

「じゃあ、……これは…誰の…どんな物語なの?」

 

「さあね。どう見える?この世界が『ダンガンロンパ』じゃないと認識したキミには、どんな風に見えてるの?」

 

「……。」

 

(次に知覚したものは、黒。裁判場はなくなっていて、目に見える全て ただ真っ黒だった。)

 

「さて、というわけで、裁判は お開き。疲れさまっした〜!」

 

(姿の見えないモノクマらしき声だけが響き、わたしの世界の全てが遮断された。)

 

 

 

裁判 閉廷

 

「……。」

 

「ねえねえ、キミに また“新しい役割”をあげようか?」

 

(静寂の世界にモノクマの声が響く。)

 

「そうすれば、束の間は『がむしゃらに何かを頑張る自分』になれるよ?」

 

(ーーいや、正確にはモノクマですらないのかもしれない。)

 

「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ?何がダメなの?そもそもヒト科なんて、肉食獣から逃げてきて爪もキバも退化したフレンズなんだから。」

 

(”わたし”が”モノクマだと思っていたもの”だ。)

 

「逃げるは恥だが厄を断つ!逃げ上手のキミ!」

 

(遠くで、近くで、その声は響く。)

 

「また、大勢 死ぬ?仲間が苦しむ?犠牲者が出る?いいじゃない!そもそもホモ・サピエンスなんて、他のヒト科を駆逐して繁栄した種族なんだから。」

 

(ーーいや、声なのかも分からない。わたしの妄想なのかもしれない。)

 

「今、キミは何者でもない。つまり、何者にもなれるんだ!次は何する?」

 

「文芸部でドキドキするヤツらを見守る?奇天烈なダイヤルの新人相談員を見守る?熱い呪詛珠バトルを見守る?」

 

「キミの望み通りのキャラクターを演じさせてあげるよ。」

 

(”声”は笑う。楽しそうに。嬉しそうに。愉快に。軽快に。)

 

「役割を与えられなければ、キミは どこにも行けないんだから。」

 

(身体が動かない。”わたし”は…世界がなければ動けない。)

 

(ひどい頭痛に耐えられない。頭を押さえたいのに、目を閉じたいのに、うずくまりたいのに、身体はピクリとも動かなかった。)

 

(そうこうしているうちに、黒い世界に光が放たれた。)

 

 

 

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