











英語とその土地の言語、そして日本語の土地名・国名が異なることは結構ありますよね。
例えば、日本語の「ドイツ」は、英語では「Germany(ジャーマニー)」、ドイツ語では「Deutschland(ドイチュラント)」です。
「イギリス」は、日本語で、日本以外では通じません。
また、当然ですが「英」と表記しても、日本以外では通じません。
これらは、いつどのようにして日本で一般化したのでしょうか。
なぜ日本語で「イギリス」?
ご存知の通り、英国の英語名称は「United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)」。
通称「United Kingdom 」あるいは「UK」。
海外メディアでは「イギリス」のことを「UK」または「great Britain(グレートブリテン)」「Britain(ブリテン)」ということが多いようです。

「イギリス」の語源とは
では、なぜ私たちは「UK」でも「グレートブリテン」でもなく、「イギリス」と呼ぶのでしょうか。
語源の説は3つあります。
ポルトガル語由来説
ポルトガル語の「Inglez (イングレス)」は南蛮貿易時代に入ってきた言葉で、意味はイングランドを表すものでした。
「イングレス」が訛って、または省略されて「イギリス」と呼ばれるようになったという説があります。
オランダ語由来説
さらに、江戸時代にはオランダ語由来の「エゲレス」という呼称も広く使われていました。
これは、オランダ語の「Engelsch(エングルス)」を語源とするもの。
こちらもイングランドのみを表します。
英語の「England」由来説
江戸時代に初めて武士になったイギリス人をご存知でしょうか?
英国人のウィリアム・アダムスが乗った商船は1600年、関ヶ原の戦いの半年前に日本に漂着しました。
後の将軍・徳川家康に気に入られ、1607年頃には三浦按針という日本名を与えられて旗本になりました。
彼が自身の国を英語で「England」と呼ぶことを話したため、「イングランド→イギリス」になったという説です。

ただし、ポルトガル語と日本語を話す通訳者しかおらず、アダムスの「England」を「Ingles」と訳した可能性も高いとされています。

イギリス人にイギリス人と言えない理由
歴史的に日本語の「イギリス」とはイングランドのことですが、広い意味で「UK」を指す言葉とされています。
しかし、イングランド人以外を「イギリス人」と呼ぶと嫌がられる場合もあるのでご注意を。
なぜなら、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの人々は、「イギリス人ではなく、〇〇人だ」という意識が強いからです。
日本人がイメージするロンドンやシャーロック・ホームズ、「English=英語」はイギリスのごく一部の要素。
これをスコットランド人やウェールズ人、アイルランド人に押し付けるのは大変失礼なことになります。


イングランド人は「English」、スコットランド人は「Scottish」やウェールズ人「Welsh」、北アイルランド人は「Northern Irish」。
それぞれ異なる文化や民族を持つため、イギリス人だと思って「Are you English? 」と聞いてしまうと「I’m Welsh」と訂正されます。





なぜ漢字一文字でイギリスが「英」?アメリカが「米」?
漢字一文字でイギリスを「英」、アメリカを「米」と表すことがありますね。


当然ですが、この表記は日本以外では通じません。

なぜこんな漢字一文字表記が生まれたのでしょうか?
漢字一文字で表記する理由はスペースの問題
「英」「米」など、漢字一文字表記は、新聞や雑誌記者間での表記ルールでした。
外国名をカタカナで表記すると公式的に定めたのは、昭和27年(1952年)のこと。
しかし、新聞などの見出しを作成時、カタカナ表記ではスペース確保が難しい!
それで工夫した結果の漢字一文字表記でした。
これが広く広がりました。
意味でなく音で当てた当て字
ではなぜ、アメリカが「米」なのか。
人口の60%以上がカトリックのフランスが「仏」なのか。
ドイツの「独」、ロシアの「露」はなんだかかわいそうな響きでは…ツッコんだらキリがありません。
というのも、全てこれらは当て字だからです。
江戸時代または明治以降、外国名は元の発音に近いものをあてはめ、無理矢理日本の漢字にしました。
また、江戸時代中期に世界地図を作成する際、参考にしたものは中国のものだったためこれを元にした漢字の当て字も存在します。

ちなみに、イギリスのよく使われる漢字表記は「英吉利」「英吉利斯」。
オランダ語の由来の「エゲレス」寄りですね。
アメリカが「米」国の謎
さまざまな場所でさまざまな人が当て字を当てた結果、同じアメリカでも漢字表記はこんなにバリエーション豊かです。



ジョン万次郎の影響
幕末期なら明治初期に活躍した英語翻訳家・中濱萬次郎(ジョン万次郎)はアメリカを「メリケン(米利堅)」と表現していました。
この表現の方が、「メ」にアクセントがある本来の発音に近いため、世間に広がり、アメリカの漢字表記も「亜米利加」や「米利堅」に変わっていきます。
そしてだんだん「亜国→米国」へ変化していきました。
亜細亜(アジア)と区別
「亜国」では「亜細亜」の「亜」とかぶってしまう…
そんな理由もあり、「メリケン」の「米」が一般的になっていきました。
「西」「普」「星」とはどこ?国名漢字クイズ
「英吉利」「亜米利加」は分かりましたね。
では、以下はどの国でしょうか。
1.「独」独逸、独乙
2.「伊」伊太利、伊太利亜
3.「仏」仏蘭西、法蘭西
4.「加」加奈陀
5.「露」露西亜、魯西亜
G-8などの主要国は、初めの文字を見れば分かる人も多いでしょう。


では、以下はどうでしょうか?
1.「西」西班牙、士班牙、日斯巴尼亜
2.「葡」葡萄牙、葡萄耳、波爾杜瓦爾
3.「蘭」阿蘭陀、和蘭陀
4.「波」波蘭、波蘭土
5.「普」普魯西、普露西、孛魯西
6.「洪」洪牙利、匈牙利、匈加里
7.「馬」馬来西亜、瑪雷西亜
8.「星」星嘉波、星港、新嘉坡
9.「墨」墨西哥、墨是可
10.「埃」埃及、埃及多
あまり見覚えのないものを集めました。
どれだけ分かりましたか?
日本語の「イギリス」呼びにご注意を
「イギリス」呼びは、スコットランドやウェールズ、アイスランド出身の人からすると、「ん?」と思われることもごく稀にあります。
「English」はさらに「んん?」と思われるので、特にご注意を。
当然のことですが、他国の名称にも、他国との歴史が深く関わっています。

次回は、日本はなぜ「日本」なのか。
「日本」や「Japan」の語源と起源を見ていきましょう。
前回記事:なぜ日本語は縦書きで右から左?昔は右から左の横書き?なぜ今は左から右?いつから?
次回記事:「日本」「Japan」の語源・由来とは?いつから国号「日本」なの?神話が起源の日本の起源