【海外の反応】日本人ってなぜ無宗教なの?
日本語教師は日々外国人からさまざまな質問を受けます。
日本語にまつわることもあれば、「なぜ日本人はいまだに夫婦同姓なの?」「日本人女性に聞いたら『ロマンチックでしょ?』と言われた、なぜ?」のような、日本の慣習や感覚に対する質問もあります。
とは、さすがに言いませんでしたが…(なるべく政治批判は生徒の前でしたくないので)とにかく島国日本は外国人から見ればかなり特殊な文化を持っているようです。
そして、よくある質問がこちら。
「なんで結婚式は教会で、葬式はお寺?」
「クリスマスとかも祝うよね?」
たしかに、現代の日本人の多くは結婚式で挙式します。
結婚のときはキリスト教の神に誓い、クリスマスには恋人と過ごしたり…。
神道も仏教もいっしょくたにされがち。
一見日本人がミーハーのように感じられますが、実は日本人のこの宗教観には歴史的理由があるんです…。
今回は、少しだけ日本語から離れて、日本人の宗教観の謎を紐解いていきましょう。
仏教と神道の違いとは
「なぜ日本人が無宗教なのか」この話をする際、仏教と神道の違いに触れなければいけません。
仏教と神道の違いはご存知でしょうか?
なんとなく、お寺は仏教、神社は神道のものという知識がある人もいるでしょう。
仏教のお寺にいるのはお坊さん、神道の神社にいるのは神主さんです。
これらの違いは神父様(カトリック)と牧師(プロテスタント)の違いのようですね。
それぞれのキーワードを箇条書きしてみましょう。
複数の神様が存在する多神教(八百万の神など)
言い伝え・神話や口承伝聞により、自然的に発生
イザナギ・イザナミが日本を作ったなどの古事記は神道のお話
神々の子孫が天皇であるとされることから以前は天皇=神様という考えだった
教典なし
七五三、初詣、神式の結婚式などが主
参考:「日本」「Japan」の語源・由来とは?いつから国号「日本」なの?日本の起源は神話?
ゴーダマ・シッダールタ(釈迦・ブッダ)の教えによる
輪廻転生・生まれ変わるというのは仏教の教え
もともとは、修行により輪廻転生から解脱して極楽に行くことが目的
「経典」が教典
日本人の多くは仏教徒(敬虔ではなくても檀家あり)
そのため葬式は仏式が多い
日本人の無宗教と歴史は深い関係がある!
日本人がいろんな宗教から考え方や慣習をいいとこ取りしているのは、他国の人から見ると不思議なのかもしれません。(どの国にもあり得ることですが)
しかし、これには歴史的理由があります。
日本人の宗教観の歴史
まずは、宗教と歴史が関係する事象をザックリ見ていきましょう。
6世紀以前 | アニミズム(すべての物に霊魂が宿るという考え方)の神様、神話を元にする神道が広く信仰される |
6世紀中期 | 仏教伝来 |
奈良時代 | 聖徳太子が広く仏教を受け入れる→その後国家仏教へ |
8世紀頃 | 「神は仏の仮の姿」という神仏習合の考え方が広まる(神道と仏教が融合) |
鎌倉時代 | 仏教の流派が細分化・庶民に広まる |
武家社会 | 宗教的信仰よりも儒教の教えを重視 |
明治時代 | 明治時代天皇中心の国づくりを行うために国家神道化、神仏習合の否定(神仏分離令)廃仏毀釈運動により神社から仏教色がなくなる→天皇は神様という考えの下帝国主義へ |
戦後 | 戦後GHQにより、国家神道の解体 |
日本人の宗教観と関係する歴史はこんな感じ。
簡単に見ていくとこんなかんじ。
仏教が入ってくるまでの人々「木や山にそれぞれ神様がいるんだ!(アニミズム的な神道の時代)」
奈良時代の権力者(飛鳥朝廷)「仏教伝来!国を仏教で納めます!寺や大仏作ります!」
その後の人々「仏教っていいよね!神様と仏様はおんなじなんやで。(神道の考え方と絡み合い神仏習合)」
武士「仏教と神道は認めるよ!でも武家社会では儒教の教えが大事だかんな!」
江戸幕府「キリスト教マジ弾圧!」
明治政府「天皇様バンザイ!(国を治めるために神道国教化)神道と仏教はちげーから!」
GHQ「神道国教ダメ絶対。」
なぜ日本人は無宗教なのか?理由をキリスト教国家と比較
さて、こんな歴史の中で、ヨーロッパとの違いが見えてきたのではないでしょうか。
それは、 キリスト教による国の支配が長かったヨーロッパと比べ、日本で1つの宗教や宗教に似た教え(儒教)が定着していた時期は短い ものです。
対して、日本は権力者が変われば教えも変わるといった具合。
また、仏教と神道などは早い時期からいっしょくたにされて伝わってきました。
他の宗教との融合やその神の同一化は、多神教の特徴でもありますね。
だから、神様にお祈りするために神社にも行きますし、江戸時代から続く檀家制度に則り多くの家が仏式で葬式をするのです。
儒教の教えである「年長者を敬え」なども、日本人の慣習として深く浸透していますね。
そんな形で日本人にとって、お祈りや信仰する対象はひとつにする必要は昔からなかったのです。
なぜ結婚式は教会?クリスマスも祝う?
さて、私たち日本人には、長くひとつの宗教や教えを貫くという歴史がありませんでした。
そんな私たちが、結婚の誓いを絶対に神式の神様に立てるという必要もなく…
ブライダル業界の暗躍と若い女性たちの「西洋式がロマンチックでしょ!」という意識により、「結婚式は教会で」が一般的になりました。
クリスマスは、一応南蛮貿易時代に伝わったそうですが、江戸時代のキリスト教弾圧により市民に知られるようになったのは、明治期に新聞を通してのこと。
日露戦争後には、信者でなくてもお祝いするようになり、だんだん現代の「サンタさんの日」や「大人たちも大騒ぎ」「家族でケーキを食べる日」になっていきました。
クリスマスの広がりは完全に、「とにかく楽しそうだからやる」ってことですね。
「日本人は無宗教」なの?統計データから読み解く割合
信仰心の有無についてのNHKの調査によると、「特定宗教に対して信仰心がある」と答えた統計データは以下のようになっています。
1998年 | 2008年 | 2018年 |
32% | 33% | 27% |
https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/pdf/20190401_7.pdf
割合としては、日本人で信仰心がある人は30%前後。
ちなみに、CNN米国人の宗教観に関する調査では、23%が無宗教と回答したそうです。
その他は何かしら信仰があるとのことなので、比べると日本人は無宗教のように思えますね。
しかし、必ずしもそうなのでしょうか?
私の周囲の西洋の方々は皆、「毎週日曜日に教会?まさか!教会に行くのはクリスマスくらいなもんさ」という人ばかり。
人によっては、無宗教や無神論をポリシーにしてる方もいます。
「一応檀家はあるけど、敬虔ではない」「別に神様とか信じてないけどお詣り行く」日本人と同じでは?と思う今日この頃です。
なぜ日本人は無宗教なの?その理由を分析
なぜ、日本人が無宗教とされるのか。
その理由は、以下の通り。
①国を支配する信仰が移り変わった歴史
②アニミズム・神道の特徴
③儒教の特徴
④新興宗教への警戒
①については、既にキリスト教国家との比較で解説したので、以下をそれぞれ見ていきましょう。
アニミズム・神道の特徴
付喪神や山神などの信仰があった日本には、古来から自然や物に神が宿るアニミズム的考えがありました。
これらは、キリスト教や仏教のように固まった教えがあるわけではないもので、いわば解釈です。
教えが固まった宗教を信じている人から見ると、フワフワしているように見えるかもしれません。
また、「八百万の神」というように、アニミズムの考えも神道も、多神教。
これらは、一新教に比べて、他の宗教を取り込んだり融合したり、変容しやすいという特徴があります。
この変容のしやすさも、一新教徒からすれば「フワフワだな」という印象に繋がりやすいのかもしれません。
儒教の特徴
武士の教えである儒教とは、学問です。
信仰や宗教として語られることはありません。
儒教は信仰というよりは、慣習や価値観として理解されやすいですが、日本人の生活や意識の中に根付いたものであることはまちがいありません。
日本人の心の中にあるけれど、宗教認識されにくいとも言えますね。
新興宗教への警戒
また、歴史的に宗教が固定されてこなかった日本人にとって「宗教信仰=怪しい」という意識が形成されつつあります。
本来は「心の拠り所」としてあるはずの宗教。
しかし、怪しげな新興宗教(オウム真理教など大きな原因)により、宗教=「世界はこうならなければいけない!」という人たちの固執的な信仰のようになってしまいました。
彼らはただの過激派ですが、宗教と聞くと日本人は過激派をイメージしてしまうのも、また事実です。
「無宗教」の日本人の心にも信仰あり
ここまで日本人の宗教観を書いてきました。
そういう私も、宗教学マニアなだけで、信仰心はあまり…というか0に等しいかもしれません。
ただ、信仰が心の拠り所となったり、「神が与えた試練なのだ」とポジティブだったりするなら、信仰心があるのは素晴らしいことだと思います。
そして、無宗教といわれる日本人の生活の中にも、儒教や仏教、時にはキリスト教的な教えが浸透していることも事実です。
日本人も、宗教的教えに即した考え方をしている人が大勢います。
ただ、それを宗教とは結び付けないだけ。
これは、無宗教の日本人にも信仰が確実に存在しているということではないでしょうか。
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参考文献・論文
https://zenken.agu.ac.jp/research/47/09.pdf