Round. 3 愚人は夏の虫 非日常編
(アナウンスが鳴り響き、みんなが集まって来た。焼け焦げた施設に戸惑った声を上げていた みんなは、人型の黒いものを目にすると黙り込んだ。)
「…これは……。」
「死体だね。オレとゴンちゃん達で火事見つけてー、ここきてーKONOYONOOWARIみてーに燃えてたから消火しよーとしたけど無理でぇー。」
「モノクマが消火せしこと風のごとし…とのことだ。」
「ゴン太さと野伏さが先に来てて、オラとイーストックさが後から来たんだけんども、全員で建物ん中入ったら、コレがあっただ。」
「これって…今いない人…ってことですよ …か?」
「やあやあ、諸君!集まったね。オマエラのために、危険を顧みず、火事を消したワタクシ、モノクマ!モノクマです!」
「再三言うけど、これは いつものと違うからね。動機や被害者の数や犯人像が違っても関係ないからね。」
(みんなの輪の中にモノクマが飛び込んできて、意味の分からないことを言いながらモノクマファイルを配った。)
「やっぱり…本当に……また?」
「…とりあえず、モノクマファイルを見る。…べき。」
(みんな、緊張した顔でモノクマファイルを確認した。)
(被害者は全身を焼かれているため判別不明。死体発見現場は、夏ノ島東 山エリアの遊園地内ホラーハウス。死亡推定時刻は午後1時〜2時頃。)
コトダマゲット!【モノクマファイル】
「被害者は判別不明…ですか。」
「でも、簡単なこった。」
「左様。ここにいない者が被害者であるぞ。」
「……ここに いねーのは、火野だな。」
「……うん。」
(ここに火野君の姿はない。もう1度、黒い死体を見ると、彼の体格に よく似ていると感じた。)
(火野君。午前中は明るく笑ってくれていたのに。)
(ーーゴン太は、また何もできなかった…。)
(無力感が湧き上がってきて、ゴン太は言葉が出なかった。)
「この死体が…火野だっていうの?」
「…としか、考えられない。」
「そうでしょうか?以前 見つかった焼死体とか…。」
「ちょい体格 違うっしょwでも、ま。とりま、また捜査しなきゃなんない系?」
「ええ。各自で調査いたしましょう。」
(みんなは そんなことを言って、解散した。)
(ゴン太は近くにいた星君と顔を見合わせた。)
「……調べるか。」
「うん…。」
(落ち込んでいる場合じゃない。星君と虫さんと、しっかり現場を捜査しないと。)
▼全部見た
(死体や その周辺を眺めてみる。けれど、真っ黒になっていて手がかりと言えるものはなさそうだ。)
「…死体も…服も皮膚も丸焼けで何も手がかりになるものはねーな。焼け方から見て…この部屋付近が火元だろう。」
「う、うん。」
「死因は書いてなかったが…外傷があったかすら分からねーな。」
「…そうだね。たぶん、ゴン太が1番に ここに来たんだけど、その時もホラーハウスは燃えてたんだ。」
「なるほどな。モノクマが消火したらしいが…。」
「うん。ゴン太や後から来た野伏君にも無理そうで…野伏君がモノクマに頼んだんだ。」
「ここに来た時点でホラーハウスは激しく燃えていて、モノクマ以外に入った奴はいなかった。そういうことだな?」
「うん。」
「そうそう。オマエラのために頑張っちゃったよ。」
「モノクマが入ってから一瞬で火は消えてたよね。」
「うぷぷ。この世界の神になるって決めてたからね。」
「随分と景気良く燃えたみてーだが、耐火加工なんざされてねーのか?」
「もー、星クンがいた独房と一緒にしないでよ!この建物は特別に燃えやすい木材で作られてるの。」
「…独房?」
「……。」
「キャンプファイヤーや お焚き上げ、悪魔召喚や衝動的な防火癖に、一家に一棟、燃えやすいハウスを!」
「ええ!そんな所に住んだら危ないよ!?」
コトダマゲット!【ホラーハウスの火事】
(モノクマは笑いながら、ゴン太と押し黙る星君を置いて、どこかに消えてしまった。)
「また よく分からないこと言ってたね。独房って…何のことだろう。」
「…さあな。それより、この部屋に でかい人形も落ちてたな。」
(そう言って、星君は窓の近くに倒れた背が高いマネキンを見た。)
(マネキンは黒く焦げているけど、炎の中でも燃えてなくなることはなかったみたいだ。)
「このマネキン…遊園地の色んなところにあったものだよ。」
「そうらしいな。遊園地の至る所に配置されてた。材質は布みてーだが…燃え残ってたのか?」
「え、布なの?ホラーハウスは あんなに激しく燃えてたのに…。」
「燃えにくい布だったのか…偶然 場所的に燃えなかったのか…。」
「でも、前にホラーハウスに来た時、中にマネキンはなかったはずだよ。」
「…なるほどな。今回の事件に関係がありそうだな。」
コトダマゲット!【遊園地のマネキン】
△back
「現場から分かることはあんまりねーな。」
(そう言って、星君は廊下に出た。)
(前に来た時は暗くて気付かなかったけど、このホラーハウスは奥の部屋まで進んで また入り口地点に戻るルートを使うらしい。)
(火野君の死体が見つかった部屋は1番 奥の部屋で、大きめの窓から山頂へ向かう遊歩道が見えた。)
「おい、ここに部屋があるぞ。」
「え?」
(星君が廊下の途中の壁を指差す。見えにくいけれど、確かに人がやっと通れそうなくらいの小さな扉があった。)
(星君は慎重に扉を開けて、その中に入って行く。ゴン太も慌てて後を追った。)
【夏ノ島東 山エリア ホラーハウス制御室】
「…獄原、入れるか?」
「う、うん。何とか…。」
(狭い入り口を抜けると、機械が たくさん並んだ空間に出た。)
「ここは…制御室といったところか。」
「制御室?」
「ああ。空調だのボイラーだのの管理室だ。」
「そうなんだ。…ここは、火事の被害が少なさそうだね。」
「心臓部だからな。…だが、どうやら被害はあったみたいだぜ。」
「え?」
(星君が指差す先には、ボロボロになった機械がある。火事のせいじゃなくて、刃物で切られたりハンマーで叩かれたような状態だ。)
「これって何の機械かな。」
「……下の方に書いてあるぞ。スプリンクラーの作動装置みてーだな。」
「スプリンクラーがあったんだ。でも、作動しなかったのは…この機械が壊れてたから?」
「ああ。そうみてーだな。」
コトダマゲット!【スプリンクラー】
「この機械、全部スプリンクラーなのかな?」
(壊されたもの以外の機械を見てから星君の方へ振り向くと、星君が首を横に振った。)
「いや…館内全体のスプリンクラーは壊されてる。後は空調のみだな。」
「……ホラーハウスなら、暗視カメラや放送設備があっても おかしくねーんだが…。」
「あ、そうだよね。お客さんの様子を見なきゃいけないし…怖い音楽も流すはずだよね。でも、カメラやモニターみたいなものは ここにもあったよ?」
「宿舎や校舎と同じ、モノクマのモンだろう。ここはプラネタリウムをやったシアターと同じで、録音や放送ができる設備はねーみてーだな。」
コトダマゲット!【ホラーハウスの設備】
△back
「ホラーハウスは だいたい調べられたな。」
(星君の言葉にゴン太は頷いた。2人でホラーハウスの入り口に戻ろうと黒い廊下を進んだ。)
「あれ?」
(入り口近くにグチャグチャになった紙のようなものが落ちていた。)
(広げてみると、結構 大きい。ゴン太の顔を十分 覆えるくらいのステッカーだった。)
(『1』と大きく書かれている。手書きじゃなくて、何かのロゴマークに見えた。)
(このロゴマーク…どこかで見たことがある。どこだっけ?)
コトダマゲット!【『1』のステッカー】
「さて…これから どこに行くか…だな。」
「火野君は山頂の山小屋で ずっと作業をしてたはずだよ。」
「ああ。だが、どうしてか山頂手前の遊園地で焼かれてた。そっちを調べなけりゃならねぇが…。」
「?」
「今回は全員バラバラの場所にいたから、それぞれの居場所を詳しく聞いとく必要があるな。」
「それに、調べたいところもある。」
「調べたいところ…?」
(星君はモノパッドの地図を確認しながら言った。)
「……ちょうどいい。今なら、全員に話を聞きながら捜査できるぜ。先に山頂に行くか後に行くかは あんたに任せる。」
「う、うん。」
(ゴン太は頷いてから、近くの虫さんに尋ねた。)
(虫さん、どっちから行こうか?)
【夏ノ島東 山エリア 山頂】
(山頂の山小屋に やって来た。)
(午前中は火野君がいたけれど、当然 今は誰もいない。)
「扉は開けっ放しか。」
「…うん。火野君が来る人に気付けるように開けっ放しにしていたんだ。火薬を使うから人の気配に気を遣ってたみたいだよ。」
(星君が作業台の辺りを調べるのを目で追っていると、朝は見なかったものが置かれていた。)
「それ…朝はなかったよ。」
「…線香花火だな。」
「せんこうはなび…。こんなに たくさん?」
「見るだけじゃなくて、俺たちがする花火も用意していたみてーだな。」
「…そうだね。」
「これで、今夜は笑顔の華が咲くだろうよ!晩飯の後、花火大会だ!」
(火野君の笑顔が思い出された。)
(みんなのために頑張ってくれた。それなのに…。)
「小屋にはトイレやシャワーもあるんだな。」
「うん。でも、立ち上がるのも最小限にしてたみたいだよ。作業台の横に全部の材料を置いて花火を作ってくれてた…。」
「……そうか。」
「しかし、その割には作業台は煩雑に散らかっているな。」
「そ、そういえば…。」
(午前中より、作業台の上は散らかっている。まるで、片付ける暇がなくて、慌てて ここからいなくなったかのように。)
コトダマゲット!【火野の作業場】
「あんたが火野を見たのは何時だ?」
「えっと…10時半くらいだよ。昼ごはんのために本島に戻る以外は ここにいたはずだよ。」
「だが、実際には少し山を下った遊園地で死体が発見されている…か。」
「火野はいつも12時頃に昼食を とっていたな。」
「う、うん。規則正しいってイーストック君が言ってたね。」
「なるほどな。今朝 全員がスケジュールを確認してたから、全員に火野の行動は知られていたな。」
(そういえば…朝に そんな話をしたね。)
「あ、あのさ…今日は みんな、何する予定?」
「オラ、また海さ行くだ。鬼のいぬ間のこの機会に素潜りの世界大会記録を塗り替えてぇ。」
「鬼のいぬ間に目指す高き志…感銘を受けた。その生き証人となろう。」
「なになに?2人はビーチ行ってなろう系?ならオレも午後はビーチ行こっかなww」
「私は漁に出る。…今日こそカニ祭り。」
「ボクは本島の調査を続けます。メタ的に何か見つかるとしたら、ここですから!」
「まだ調査 続けてたんだーwwでも、調べ尽くしたけど何もなかったくね?」
「ええ、ですから、今日は星先生と華椿先生にも協力いただきます。」
「初耳ですが。」
「今 言いましたからね。」
「…….。」
「俺ァ、花火の準備の続きをするぜ。今日はカニ祭りの後、花火大会だ!」
コトダマゲット!【火野のスケジュール】
△back
【夏ノ島西 海エリア 船着場】
(山を下りて島の西側、海エリアに来た。ゴン太たちはビーチ周辺に誰もいないことを確認した。)
「ビーチから船着場は見えないんだな。」
「うん。塀で囲まれてるからね。でも、出入り口の門は見えるよね。船着場の出入り口は あそこだけみたいだよ。」
「そうか。」
(そんな話をしながら、塀に囲まれた船着場の方へ向かった。)
(船着場には、前に来た時と同じように船が2隻あった。船着場の小屋から話し声がしたので中に入る。)
「あ、ゴン太さ。星さ。」
「お二方も来られたか。」
「…あなたも、食べる?」
(小屋には3人がいてーー…なぜか、白いものを食べていた。)
「えっと、それ…何?」
「カニ。さっき獲ってきたもの。…の、皮を剥いて茹でてる時にアナウンスが鳴った。」
(言いながら、蔵田さんは小屋の中の簡易なキッチンを見てから、皿を指差した。)
(皿の中には皮を剥かれた真っ白いカニ。それを、伊豆野さんとイーストック君がムシャムシャしている。)
「捜査中に失敬。手前達は海で泳いでいた故、空腹でな。」
「弁当 持ってってたんだけどな、腹が減っだら捜査はできねっからな。」
「あなた達は?…食べる?」
「ありがとう。…でも、裁判が終わってから頂くよ。」
「……。」
「蔵田は冬ノ島の漁に行ってたんだな。」
「そう。10時に出発して、戻ってすぐ、カニの下処理をした。…でも、ここを出ようとした時アナウンスがあった。」
「んめぇ、蔵田さが冬ノ島に すっぱつするとこは、うめ、オラたつ見てただよ。カニ、うめ。冬ノ島行きの船に乗るうめぇ蔵田さが見えただ。」
「ビーチから船着場は見えねーはずだが?」
「んなもん…うめぇだなぁ。沖の方に船が行くのん…うますぎんべ。蔵田さが乗ってんのも見えたからだべ、うめぇ!」
「左様。美味なり。我々は午前中からアナウンスまで美味美味。ビーチにいたが…蟹…美味しんぼ。本島から夏ノ島に入る者は野伏殿のみ。」
「……カニを食べると人は饒舌になる。」
「オラたつ、夏ノ島の橋が見えるとこにいたべからな。午前中はゴン太さが来たりしてたけんども、午後 本島から来たのは野伏さだけだぁ。」
「野伏殿は夏ノ島に来て、我々と水練を共にしていた。」
「火野君は通らなかった?お昼ご飯を食べに行ったはずだけど…。」
「ああ、そういえば、12時前に本島に向かってっただなぁ。で、1時頃に戻って来てただよ。」
「野伏殿が来たのは30分ほど後だ。」
「死亡推定時刻は1時から2時半だったな。山小屋に戻る途中で遊園地に寄ったのか…?」
「うーん…午前中より花火が増えてたから、お昼も作業してたんだと思ったけど…。」
コトダマゲット!【夏ノ島の出入り】
「ハエ、入ってきた。…ので、窓 閉めて。」
(イーストック君たちがカニを食べ終えた頃、虫さんが窓から入ってきた。)
「あ、うん。虫さんが人のキッチンに入るのは良くないもんね。」
「良かったべ。ゴン太さが そこは寛容で。」
「夏ノ島は やはり虫が多いな。」
「…うん。ここはレモン汁で掃除してる。…のに、ハエが入ってくる。」
「えっと…この虫さん、蠅さんじゃなくて、本島の灯台にいた虫さんだよ。」
「…1回目の事件に関係していた虫か。確か甘いものと光が好きだって話だったな。」
(河合さんが灯台に集めた虫さん。虫さんはゴミ箱から見える卵の殻にとまって、くつろぎ始めた。)
「獄原、そろそろ ここはいいんじゃねーか?モノパッドによると春ノ島に野伏と虎林がいる。」
(そんなところで、星君がモノパッドを見ながら言った。)
「あ、そっか。モノパッドで、誰が どこにいるか分かるんだね。じゃあ、春ノ島に行こう。」
(ゴン太は星君が出したモノパッドの地図の1点を指差した。)
「夏ノ島の東に春ノ島へ行く橋ができてるんだよ。」
「なるほどな。そこを通れば、本島を介すことなく夏ノ島に行き来できるってことか。」
【春ノ島南 町エリア パン屋】
(夏ノ島の橋から春ノ島の町エリアまで来た。いつも通り、パン屋から良い匂いがしている。)
(橋の目の前はパン屋さんだ。大きい『1』のロゴ入り看板を掲げた店。ショーウィンドウのような大きい窓から中にいる虎林さんと目が合った。)
「虎林さん。パン屋さんにいたんだね。」
「ゴ、ゴン太。お…おはよう!」
「え…。お、おはよう…?」
(星君と中に入ると、虎林さんが変な動きで迎えてくれた。)
「ちぃーす。ゴンちゃん、ホッシー。ようこそ、パタヤビーチへー…じゃなかった、ココ1パン屋へー。」
「…あんたもいたのか。」
「そらそうっしょー!原則1人で捜査できねっし?」
(外からは気付かなかったけれど、野伏君も一緒だった。彼は死角から現れて笑った。)
「超高校級の凸凹コンビも、アレ?なんか ここが怪しいゼ☆と踏んで調査に来た系?残念ながら現場と離れてっし、事件とは関係なさげだぜ?」
「美味しいパンの匂いが漂ってるだけって感じ?な、トラリン?」
「う、うん…。」
「えっと…みんなの今日の動きを教えてもらいたくて来たんだ。」
「あ、なーんだ⭐︎トラリンとオレに会いに来たわけね!」
「え!?あ、そう…なの?」
「……野伏は午後、ビーチにいたんだったな?」
「そーそー。午前中はテキトーに宿舎の部屋でゴロゴロしてー、飯食ってー、1時半くらいにイー君とイズノンと泳いでた。」
「うん。さっき、イーストック君と伊豆野さんも そう言ってたよ。」
「そういや、昼飯ン時、ゴンちゃんにも会ったべ?」
「あ、そうだね。1時過ぎに野伏君は昼ごはんを食べ終わって、ゴン太の入れ違いだったよね。」
「そーそー。オレ、食堂でヒーノにも会ってんだわ。」
「それは いつだ?」
「うーんと、あれはー、1時前だっけか?オレが飯食おーと思って、食堂 行ったわけ。それと入れ違いで、ヒーノは食堂出てったっぽい。」
「火野の様子は どうだった?」
「え?フツーだったけど?見せる花火は完成したーとか、これからオレらもできる花火を作るーとか言ってたっけ?」
「やっぱり…火野君は食事の後、山小屋に戻ってたってことだね。」
「火野…頑張ってくれてたんだ…。」
「……虎林、あんたは どこにいたんだ?」
「え?ア、アタシ?アタシは、ここにいたんだ。」
「ここ?」
「うん。朝から ずっと…パン、作ってたんだ。」
「そうだったんだね。」
「メロンパイとかプリンパイとか食いてー。」
「…今回は、甘いパンは作んなかったよ。」
「午後も ずっとか?」
「うん。」
「この作業台でパンを作るなら、窓から外の様子が見えたはずだな。ここを通った奴…夏ノ島への橋を通った奴はいたか?」
「えっと…アタシも集中してたからハッキリしないけど…誰も通らなかったと思うよ。」
(星君が2人と話すのを聞きながら、ゴン太は店の中をグルリと見回した。お店のロゴ入り紙ナプキンやお皿が並んだ棚。)
(前来た時、みんながパンを焼いていたけれど、今はパンの匂いだけだった。)
(そういえば、ここは初めて来た時からパンの良い匂いがしてたよね。)
コトダマゲット!【春ノ島のパン屋】
【本島南エリア 寄宿舎 倉庫】
(最後に、華椿さんと桐崎さんが倉庫にいることを確認したので、本島の倉庫まで来た。)
「あ、ゴン太先生!星先生!」
「貴方様方も ここを調べに来たのですか?」
「ああ。」
「え?そうだったの?」
「ああ。いくら木造とはいえ、ホラーハウス全焼した理由があるはずだ。」
「さすが、星先生!昼に捜査術を伝授した甲斐があります。」
「されてませんが、そんなこと。」
「ボクらも犯人が何を使ったのか調べるために来たんですが…いろいろなくなってるんですよ。」
「いろいろ?」
「わたくし達が生活のために消費したもの以外ですと…オイル、ろうそく、録音機などの数が減っているんです。」
「オイルは料理で消費したとかじゃありません。大量になくなってます。」
「なるほどな。オイルをホラーハウス全体に撒いたのか。」
「それで あんなに激しく燃えてたんだね。」
「ろうそくは一晩もつ長さがありましたね。」
「ろうそくやオイルは分かるんですが…どうして今さら録音機なんでしょう?」
「ああ。録音機は野伏が電池を抜き取ったと言っていたが…。」
「あ…そういえば、昨日の裁判で そう言ってたね。」
「録音機の如きアリバイ工作に使われそうな危険物は排除するべき…という八百万の神々の思し召しの通り、電池を拝借したのです。」
コトダマゲット!【倉庫の様子】
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『時間になりました。学級裁判を始めます!』
(モノクマのアナウンスが鳴った。)
「星君、校舎へ行こう。」
「…ああ。」
「……ゴン太、頑張るよ。みんなのために。火野君のために。」
「……。」
「火野は、過去の過ちを乗り越えようとしていたな…。」
「過去の過ち…?」
「あいつが火を恐れるようになった原因だよ。」
「あ…そっか。原因があるはずだもんね。」
「はっきり言っちゃいなかったが…なんとなく、俺には分かったよ。あいつは、俺と同じだってな。」
「…同じ?」
「…忘れてくれ。昨日の夜時間前、俺は火野に会ったんだ。」
「え?昨日の夜…死んだ人たちの部屋に入った後だよね?」
「ああ。ほとんどは あの後、自室に戻ったが、俺は なんとなく外に出た。火野も そうだったらしい。あいつは夏ノ島の橋の前…宿舎のキッチン裏にいた。」
「あ、星…。」
「あんた、何してんだ?もうすぐ夜時間だぜ?宿舎の中にいた方が いいんじゃねーか?」
「いや、星も人のこと言えねーだろ。」
「……そうだな。」
「なんつーか…みんなの部屋 見たら、改めて死んだ奴らを思い出してさ。」
「……。」
「空の向こうの奴らに決意表明…?みたいなさ。」
「……。」
「俺ァ、火を克服する。もう、何があっても…見捨てたり……しない!!」
「……そうか。」
コトダマゲット!【星の証言】
「それを聞いたのが俺じゃなけりゃ…あんただったら…こんな事件は起こらなかったかもしれねーな。」
「え?」
「……やれやれ。俺も まだまだだな。忘れてくれ。」
「星君…まさか、また『自分と関わったから』って思ってるの?」
「……。」
「星君、前の裁判で言ってたよね?」
「柄にもねーことを考えてたのさ。」
「今回の事件は…まさしく俺のせいだと思ってたのさ。」
「俺は…三途河が殺されたのは、あいつが俺に近付いたからだと思ったのさ。」
「あれは…どういう意味だったの?」
「……忘れてくんな。柄にもねぇ…戯言だ。裁判が始まる。行くぞ。」
(星君は口の端を上げるだけの笑顔を見せて、宿舎の方へ歩き出した。でも。)
(彼の”声なき声”は、ゴン太には聞こえた。)
「たわごと…なんて…。それは違うよ!!」
「……!」
「ゴン太には、星君の声が聞こえるよ!悲しいって!苦しいって!だから、ゴン太は…何もできないけど…教えて欲しいんだ!」
「どうしたら、ゴン太は星君を笑顔にできるのか…!!」
(三途河さんの笑顔を思い出した。人を笑顔にしたいと言った彼女。それから、火野君の笑顔。ゴン太に話をしてくれて、笑ってくれた。)
(平君、河合さん、高橋君、そして…最初に発見された2人。)
(みんな守れなかった。でも、ゴン太は目の前のみんなを守りたい。)
(そんな思いで いっぱいになって、ゴン太はボロボロと泣いてしまった。)
「……クールじゃねーな。」
「ご、ごめっ。すぐ、泣き止むからっ…」
「クールじゃねーのは、俺さ。」
「えっ?」
「いずれ…あんたには話す。だが、今は裁判に集中するべきだ。」
「…うん、そう…だね。」
(小さく言った星君が ゆっくり校舎への道を進む。ゴン太は慌てて涙を拭いて、彼の背中を追いかけた。)
【本島北エリア 校舎 玄関】
(校舎の玄関に着いた時、既に全員が集まっていた。)
(ゴン太たちが来ると、玄関にあった開かない赤い扉が開いた。)
(前と同じように、エレベーターホールに進み、エレベーターに乗り込んだ。)
(火野君は苦手なものを克服して、今日は花火大会だって笑っていた。)
(そんな彼は、火に焼かれて死んでしまった。)
(今朝まで笑ってくれていたのに。たくさん話してくれていたのに。)
(ゴン太も、ちゃんと考えるよ。生き残るために。みんなの笑顔を守るために。)
(この…命懸けの学級裁判で。)
コトダマリスト
被害者は全身を焼かれているため判別不明。死体発見現場は、夏ノ島東 山エリアの遊園地内ホラーハウス。死亡推定時刻は午後1時〜2時半頃。
昼すぎに獄原他数名が火事に気付き、現場へ急行。最初に獄原が到着した時、ホラーハウスは中に入れない程に強く燃えていた。その後、野伏が到着し、モノクマが消火した。建物自体がとても燃えやすい素材だったらしい。
遊園地内に設置されていた来園者を模したようなマネキン。1体がホラーハウス内に移動していた。死体発見現場である部屋と同室の窓付近で発見。布製であるにも関わらず、燃え残っていた。
ホラーハウス内のスプリンクラー。制御システムらしき機械が刃物やハンマーで壊された跡があった。
ホラーハウスにはスプリンクラーの他、空調などの設備があるが、録音・放送などの設備はなかった。
火野が花火作りに使用していた山エリア山頂の小屋。火野は小屋の扉を開け、正面に座り来訪者にすぐ気付く状態で作業をしていた。捜査時、作業台は散らかっていた。
火野は朝から昼まで夏ノ島の山頂にいた。12時ちょうどに昼食をとり、夏ノ島の山頂に戻った。虎林が今朝聞いたことで、全員がスケジュールを把握していた。
現場のホラーハウス入り口近くで発見した大きめのステッカー。何かのロゴのようで、『1』と印刷されている。
夏ノ島のビーチから、本島〜夏ノ島の橋が見える。イーストック、伊豆野によると、午後通ったのは2人。13時前 被害者が本島から山へ戻ったのと、13時半頃 野伏が本島から来た2回だけ。
春ノ島の南、町エリアにあるパン屋『ココ1パン屋』。店内には至るところに店のロゴマーク入りのアイテムがある。初めて来た時からパンの良い匂いが漂っていた。
寄宿舎内の倉庫のオイル、ろうそく、録音機の数が減っていた。
事件前夜、星と火野は本島キッチン裏 夏ノ島の橋前で話をした。火野は「火を克服する」と語っていた。
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