なぜ日本語には主語がないのか?主語・目的語を省略する3つの理由|例文・英語・海外の反応から解説


トラウマウサギ
トラウマウサギ
うう…先生……。
おや、どうしましたか。
先生
先生
トラウマウサギ
トラウマウサギ
日本語を勉強している子と話が繋がらないんですよ。
トラウマウサギ
トラウマウサギ
日本語を勉強して2年半くらいで、文法はしっかりできていて、語彙もあるのに、僕の話は分からないそうです…。
なるほど。どんな風に分からないんでしょうか。
先生
先生
トラウマウサギ
トラウマウサギ
「誰が、何をしたのか」いまいち分かりづらいそうです。
心配いりませんよ。多くの日本語学習者が直面することであって、友だちもあなたも悪くありません。
先生
先生
トラウマウサギ
トラウマウサギ
え?どういうことでしょう?
語彙も文法も問題ない外国人が、日本語で会話するとき困るのが、日本語の主語や目的語の省略です。
先生
先生
今日は、この「なぜ主語がないのか、目的語を省略するのか」をお話ししていきましょう。
先生
先生

 

前回、日本語はなぜ難しいのかということに、主語や目的語が省略されるという1つの理由を紹介しました。

参考:日本語は世界で最も難しい言葉?外国人による海外の反応・文法や発音からくる理由まとめ

私たち日本人にとっては、主語や目的語を省略して話すことは普通でも、そうでない文化圏の人にとっては難しいものです。

先生
先生
私たち日本人はいわば生まれてからこの方ずっと、そのトレーニングをしてきたようなものですからね。

 

 

日本語の主語・目的語の省略とは?

英語は必ず「I」「You」など、主語が入ります。

他動詞を伴うのであれば、目的語も必要です。

日本人がこれを忘れがちなのは、日本語では頻繁に主語や目的語が省略されるから。

逆に、日本語を学ぶ外国人はこの省略に四苦八苦しています。

 

日本語は主語がない!目的語もない!

例えば、こんな例文を見てみましょう。

「昨日、彼女と店でドーナツ食べた後、観に行ったんだ。流行りの…。」

仮に、これは2020年秋頃の話としましょう。

多くの日本人は、2020年秋頃に「観てきた」「流行」のワードで、ピンと来ることでしょう。

しかし、外国人はこの文章だと、「誰が誰と何を観たんだって?」と言いたくなります。

「僕は昨日、僕の彼女とドーナツ屋でドーナツを食べた後、映画を観たんだ。流行りの『鬼滅の刃』。」

これなら外国人でも分かりやすい文です。

ですが、前半部分が少し日本人には違和感のある文章ですよね。

「行った」のは自分に決まっているし、「彼女」も自分の彼女に決まっています。

さらに、「『鬼滅の刃』の映画」と言わずとも、察して会話が進められる可能性も高いですね。

トラウマウサギ
トラウマウサギ
2016年なら『君の名は。』、2018年夏頃なら『名探偵コナン』でしょうか!

このように、日本語では明白な主語は省略されやすく、重要な目的語さえも省略される場合があります。

先生
先生
ちなみに、「こんにちは」は「今日はお元気ですか。」の略です。大阪弁の「おおきに」は「おおきにありがとう」の略で、「おおきに」とは本来「とても」という意味です。
そんなとこまで略してるんだ…。
トラウマウサギ
トラウマウサギ

 

日本語と英語の比較例文

日本語と英語で比較すると、主語や目的語の省略は一目瞭然ですね。

「昨日、彼女と映画に行った。」

I went to watch the movie with my girlfriend. 」

主語「I」と所有格「my」が日本語では現れない例です。

さらに言えば、「彼女」には「girlfriend」と「she」のどちらの意味もあるため、「僕の彼女」と言わなければ本来は分かりにくいはずです。

けれども、私たち日本人は文脈からこれらを察して会話をしているわけです。

先生
先生
ちなみに、英語やドイツ語では「彼女」と「女性の友達」の言い方もしっかり区別しています。「female friend」や「friend of mine」のように誤解が生じない言い方がされます。
先生
先生
何でも言葉に表す文化、誤解を生まない明確な言葉の文化なんですね。
でも、その割に欧米は「付き合おう」って言わずに交際がスタートしてたりしますよね。空気の読むシーンって国によって違うんですかね…。
トラウマウサギ
トラウマウサギ

「最近、ミステリーにハマってるんだ。『三毛猫ホームズ』とか。」

「私も読んだことあるよ。面白いよね。」

I‘m into mystery novels recently. Especially, “Mikeneko Holmes”.」

「I’ve read it too. It‘s nice. 」

前述した目的語は省略する例です。

英語では代名詞「it」を使い、「まだ『三毛猫ホームズ』の話してるよ~!」と主張します。

しかし、日本語では「私も読んだ」ということから『三毛猫ホームズ』の話題だということは明白であるため、目的語の省略が起こっています。

 

主語や目的語を省略するのは日本語だけ?

主語や目的語の省略が起こるのは日本語だけなのでしょうか。

実は、日本語だけではありません

例えば、スペイン語やイタリア語などは、主語や目的語が省略されることの多い言語です。

先生
先生
代わりに動詞の活用で主語を判断するそうですね。

主語または目的語を省略することができる言語は、ザッとあげてもこんなかんじ。

アラビア語、中国語、ポルトガル語、スペイン語、イタリア語、フィンランド語、ハンガリー語、ヒンディー語、ベンガル語、ヘブライ語、ギリシャ語
先生
先生
英語やドイツ語などでも、命令形や受動態で主語・目的語が省略される場合もあります。このような省略は、多くの言語で見られます。

つまり、省略が起こるのはなにも日本語だけではないということです。

しかし、主語や目的語がない頻度が高いのも、やはり日本語の特徴といえます。

 

「日本語は主語がない!」海外の反応

さて、日本語の主語述語の省略について、海外の反応はこんな感じ。

「日本語の漢字を頑張って、文法を頑張って、ようやくある程度分かってきたその後に友人と話して(文脈が読めなくて)愕然とする」(アメリカ)

「日本語はシンプルだよ。言語はシンプルな方が覚えやすい。日本人と実際話すまではそう思ってた。」(アメリカ)

「主語が省略されても動詞の形が変わらないのは厄介だね。」(スペイン)

「長いこと日本語をやっていても意味が分からない理由に気がついたよ。主語がないんだ!」(オーストラリア)

「いつ主語を抜いてよくて、いつ抜いてはいけないのか、検討も付かない。」(英語圏)

「日本語は『スター・ウォーズ』のヨーダみたいな話し方ってことかい?」(アメリカ)

先生
先生
ちなみに、私は「君の英語はジャージャー・ビンクスみたいだ」と言われたことがあります。
そんなに「I」「my」「me」を無視して話してたんですか…
トラウマウサギ
トラウマウサギ

 

主語・目的語がないのはどんなとき?ルールと表現方法

主語・目的語がないときとは、どんなときでしょうか。

もうお分かりですね。

ズバリ、 言わずとも分かるとき です!

 

主語がないときのルール

(私は)トラウマウサギです。よろしくお願いします!」

(私は)日本出身です。」

(あなたは)髪を切ったんですね。(新しい髪型があなたに)似合いますね。」

(あなたが)体調を崩すくらいなら、(あなたは)仕事を辞めるべきです。」

ルールというほどでもありませんが、「私は」「あなたは」は特に省略されやすいといえます。

なぜなら、会話をしているのは「私」と「あなた」であり、主語が明白だからです。

また、前の会話から主語が予測できるときも省略されやすいですね。

「ウサギ先生がこの前たい焼き食べてるの見たよ。」

「あ~、(彼は)たい焼き好きだもんね。」

 

目的語がないときのルール

目的語も、前の会話や普段の会話から推測できるときに省略されます。

「昨日初めて天ぷらを作りました。」「(天ぷらを)うまく作れましたか?」

「君が好きなんだ。必ず、絶対(君を)幸せにするよ。」

「えぇと、なんだっけ、君が前話してた…。(話していたものを)読んだよ。最終話すごかった。」「(話したものを)読んだんだ?最高だったよね。」

先生
先生
ちなみに、全て主語もない文章ですね。
主語も目的語もないって、外国人にとってかなり難易度高そうですね…。
トラウマウサギ
トラウマウサギ

 

なぜ主語がない?目的語を省略する?その理由

さて、日本語はなぜ主語がないのか、目的語を省略するのか。

それには、日本の文化が大いに関わってきます。

 

ハイコンテクストな言語・文化圏

日本語とは、ハイコンテクスト(高コンテクスト)な言語であり、日本はハイコンテクストな文化だとされています。

ハイコンテクストとは、言葉で全てを表さずとも、文脈などで相手の気持ちや言いたいことを慮る文化です。

先生
先生
簡単に言えば、空気を読む文化ですね。

日本は島国で、民族的にも言語的にも概ね同じ文化圏の人々が住む国であるため、このような文化が育ちました。

逆に、ヨーロッパの国々は、言いたいことは全て口に出す文化で、ローコンテクスト(低コンテクスト)な文化と言われています。

「発言がなければ何も考えていないのも一緒」とされる文化です。

先生
先生
「高」「低」とありますが、どちらが優れているという話ではありません。単に文化が違うことを表しています。

同じ英語圏でもアメリカはよりローコンテクストな文化、イギリスは少しハイコンテクスト寄りだとされています。面白いですね。

つまり、 日本人は文脈を読み相手の言いたいことを悟る民族であり、日本人同士なら主語や目的語を省略しても会話が成り立つ 

それゆえ、「主語がない、目的語がない」が頻繁に起こるわけです。

特に、主語は明白な(と日本人は思っている)ため、省略されます。

先生
先生
日本語は述語が最後に来るため、日本人はそれを無意識に考えながら会話を進めています。これが、空気を読む文化を作る要因になったという説もありますね。
逆に、空気を読むから日本語は省略される…空気を読む文化が先なのか、空気を読む言語が先なのか…。
トラウマウサギ
トラウマウサギ
先生
先生
タマゴが先かニワトリが先か…。

 

日本語は述語が大切

日本語で文を作るとき、必ず必要になるものとは何でしょうか。

動詞?形容詞?名詞?

全て正解といえます。

「私は 昨日、映画館へ 行った。」

「君の 飼っている うさぎの 目は、赤い。」

「これは 彼が 話していた 時計だ。」

「行った。」「赤い。」「時計だ。」全て最後の述語部分がなければ、文として機能しませんね。

つまり、日本語とは、最後の述語部分に重きを置いた言語なのです。

先生
先生
「文法」とは、この述語と他の語の関わり方ともいえます。

極端なことを言えば、述語の部分があれば、文になる

だからこそ、主語や目的語は省略されやすいのです。

 

省略する言語文化は「言霊」信仰から

「お互いの言いたいことが省略しても分かる」ハイコンテクストな言語を持つ私たちですが、何も省略しなくても良いはずです。

第二次大戦直後には、「このハイコンテクストな言語のせいで敗れたのだ」という作家もいました。

先生
先生
「日本の言語の欠陥が良くなかった。フランス語に切り替えてはどうか。」という暴論を吐いたそうです。
何でフランス語…?そんなことになってたら、先生は日本語教師としての仕事がないですね。
トラウマウサギ
トラウマウサギ
先生
先生
いえ、日本語が母語だからヨーロッパ言語は不利なところもありますし、フランス語が母語なら世界で活躍していたかもしれません。
日本語教師がそんなこと言っていいんですか!?
トラウマウサギ
トラウマウサギ

さて、もちろん日本語文化は欠陥などではありません。

ある学者はこう言っています。

日本語の省略は日本のアニミズム的な「言霊」文化を表しているのだ。

言葉には魂があり、うっかり口に出すとその通りになってしまうという文化です。

大事なことほど、口に出してはいけないということですね。

例えば、「死んだ」という直接的な言い方は古代から避けられてきました。

古文でも「隠れた」「過ぎていった」「散った」という遠まわしの表現が使われています。

先生
先生
「死んだ」を間接的に言う文化は、多くの言語圏で見られます。英語では「died 」のように直接的でなく、「passed away」と言いますね。

「死んだ」については、他国でも避けられるものですが、日本では「言霊」信仰によってさまざまな言葉を使わないようにする文化があります。

これにより、大事な言葉を省略する言語文化が進んだとされています。

トラウマウサギ
トラウマウサギ
結婚式で「終える」「別れる」「切る」は言わないっていうのも言霊が関係してるんですね。
他にも忌み言葉と呼ばれるものはたくさんあります。スルメをアタリメと呼ぶのは、賭け事などで「する」のではなく、「当たる」ように願った名前です。
先生
先生
トラウマウサギ
トラウマウサギ
ドイツの「カッコウ時計」が日本では「ハト時計」なのも、「閑古鳥(カッコウ)が鳴くといけないから」という理由でしたね!

参考:ドイツ語から日本語になった言葉18選

 

主語がない・目的語の省略は日本人な文化がゆえん

いかがでしたか?

外国人を悩ませる、主語・述語の省略は日本語の特徴であり、日本文化の象徴です。

日本語は、日本という島国の文化だからこそこのような文脈を読むべく発達していきました。

もし、日本が陸続きのままであれば、このような日本語の省略も、空気を読む文化もなかったかもしれません。

超自然的かつ偶然的に生まれた日本語…そう思うと、より一層日本語が素敵なものに思えませんか?

 

前回記事:結構ですは肯定?否定?ビジネスでも使える敬語なの?目上の人には失礼?

次回記事:なぜ日本語は縦書きで右から左?昔は右から左の横書き?なぜ今は左から右?いつから?