



どうして日本語が「世界一速い言語」と言われるのか。ここでは、日本語が早口に聞こえる背景について、研究データを交えながら探っていきます。
日本語の発話スピードがどのように測定され、他言語と比べて本当に「速い」と言えるのかを科学的に分析。なぜ外国人が特に日本語を「速い」と感じるのか、その原因を明らかにします。
海外の反応「日本語は世界一速い言語」は本当?
日本語を勉強している、していないに関わらず、「日本語は早口だ」と感じる外国人は少なくありません。日本語の会話は速く、時には理解が追いつかないことが多いようです。実際、SNSや動画配信サービスのコメント欄でも「日本語が速すぎて何を言っているかわからない」といった声が散見されます。
日本語学習者の反応
「おだやかで優しい日本人が日本人同士で話し出して、その速さにびっくりした。(アメリカ)」
「日本語の先生の家に行ったとき、先生と旦那さんの会話のスピードが速すぎて聞き取れなかった。授業で先生はかなりゆっくり話してくれたんだな。(イタリア)」
「日本に行ったとき、他の人の会話から単語のひとつでも聞き取れると思ってたけど、そんなことはなかった。(オーストラリア)」
海外メディア・コミュニティでの反応
SNSや学習者コミュニティでも「アニメやドラマの日本語が速すぎて字幕なしでは理解できない」といった声がしばしば上がります。特に、アニメのキャラクターのセリフは、日常会話よりもさらに速いテンポで発せられることがあり、これが日本語を学ぶ外国人にとって大きな壁となっています。
さらに、YouTubeなどのプラットフォームでは、日本語の速さに驚く海外の反応動画が多数アップロードされており、「日本語はどうしてこんなに速く聞こえるのか?」という問いがしばしば議論されています。こうした反応は、日本語の速さが他の言語話者にとって強い印象を与えることを示しています。

本当に日本語は世界一速いの?日本語の速さに関する研究データ
日本語が「速い言語」として注目される一因は、実際の研究データに基づく結果です。言語の発話速度を科学的に計測する研究は多数存在し、特に音節数や情報密度に注目して各言語の速さが比較されています。
ここでは、代表的な研究やデータを取り上げ、日本語がどれほど速いのかを他言語と比較しながら見ていきます。
日本語は速い!言語速度を比較した国際研究
代表的な研究の一つとして、Bristol大学で行われた言語速度に関する研究があります。この研究では、複数の言語を話す人々に同じ内容の文章を発話させ、1秒あたりの音節数を比較しました。その結果、日本語は非常に速い発話速度を持つ言語の一つであることが明らかになっています。
スペイン語:1秒あたり約7.82音節
フランス語:1秒あたり約7.18音節
英語:1秒あたり約6.19音節
ドイツ語:1秒あたり約5.97音節
日本語は他言語と比べて、かなり速いペースで音節が発話されていることが分かりますね。


日本語は速いけど情報は少ない?
上の研究では、速い発話速度を持つ言語が必ずしも効率的に情報を伝えているわけではないことも示されています。実は、日本語は1秒あたりの音節数が多いものの、1音節あたりに含まれる情報量が少ない傾向にあるのです。



中国語や英語は日本語に比べて1音節に多くの情報を詰め込むことができるため、発話速度が比較的遅くても、効率的に情報を伝えることができます。
これに対して、日本語やスペイン語は1秒間に発音される音節数が多い一方で、その情報量が少ないため、情報の密度はそれほど高くないとされます。この情報密度の少なさが発話者が急いで話す理由の一つでもあります。


日本語が世界一速い言語である理由とは
日本語が「早口」に聞こえるのは、単純に話し手が急いで話しているからではありません。それでは、どうしてなのか。
それは、日本語の持つリズムや発音のルールによるものだと考えられます。言語にはそれぞれ独自のリズムや発音のルールがあり、その違いが他の言語話者に「速い」と感じさせることがあります。
つまり、日本語特有の音素構造やリズム、発話方法が他言語話者にとって「速さ」を感じさせる要因となっています。以下では、その具体的な理由を探っていきます。
日本語が世界一早口の理由①音素の特徴
日本語の音声には、他の言語と比べていくつか特徴があります。その一つが、母音と子音の組み合わせです。日本語の基本的な母音は「あ(a)」「い(i)」「う(u)」「え(e)」「お(o)」の5種類で、これがほぼすべての音の基礎となっています。これらが子音と組み合わせられて発音されます。

英語における「th」や「v」などの複雑な子音は日本語には存在しません。これらの日本語の音の種類の少なさ、シンプルさが発音を滑らかにし、結果的に話すスピードが速く感じられるとされています。
日本語が世界一早口の理由②音節の短さ
日本語のもう一つの特徴は、音節が短いことです。音節とは、1つの音を発音する際の基本的な単位です。日本語の単語は、1音節が非常に短く、ほとんどの場合、1つの音節は1つの母音または母音と子音の組み合わせで構成されています。このため、日本語は短い音節を素早く連続させることができ、聞き手に「速い」と感じさせます。
日本語が世界一早口の理由③モーラ・ピッチアクセント
日本語にはモーラと呼ばれる音の単位があり、これは音節に比べてさらに細かいリズムの単位です。モーラは1音節をさらに分解した単位であり、日本語の発話に一定のリズムを与えています。このモーラリズムに基づいた発話は、外国語話者にとっては「早口」に聞こえることがあります。
また、単語内でアクセントを変える発音も聞き手に「速さ」を感じさせることがあります。
「え?待って?橋?箸?渡る?渡す?」
このように、アクセントによる違いを考えているうちに話が進むとわけが分からなくなりますね。
日本語が世界一早口の理由④母語との違い
特に外国人学習者が日本語が早口に感じられる1番の大きな理由は、学習者の母語と日本語との構造的な違いにあります。
たとえば、英語話者が日本語を聞くと、英語に比べて日本語の音が滑らかに連続し、明瞭な区切りが少ないために速く感じることが多いです。英語には明確な強勢アクセントがあり、強く発音する部分と弱く発音する部分がはっきりしていますが、日本語はそのような強調が少なく、音が均一なリズムで発話されるため、連続する音が早く聞こえるそうです。
発話の違いだけではなく、もちろん文法的な違いも学習者にとっては「速い」と感じる理由でもあります。


参考:日本語は世界で何番目に難しいのか?難しい言語ランキング・日本語が世界一の理由
言語スピードと文化の関係
言語のスピードは、単に発話速度にとどまらず、その背後にある文化や社会的な要因とも深く関わっています。
例えば、日本やスペインのように、速く話すことが当たり前とされる文化では、迅速かつ効率的に情報を伝えることが求められます。これが、日本語やスペイン語が「速い」と感じられる要因の一部です。
一方、英語やフランス語のように、情報密度が高く、強勢アクセントを用いる言語では、話す速度はそれほど重要視されず、むしろ内容の明確さや正確さが重視されることがあります。このように、言語の速さはその国のコミュニケーションスタイルや文化的な価値観とも密接に結びついています。
日本語と速さの文化的背景
日本語が速い理由は言語の特性だけでなく、日本の文化や社会的背景も大きく関わっています。日本社会では、コミュニケーションの効率性や、礼儀を重んじる風潮が強く、これが発話スピードにも影響を与えています。
たとえば、ビジネスシーンやフォーマルな場では、文章的に長い敬語を話しつつ、簡潔かつ的確に要点を伝えることが求められます。

アニメやドラマ、ニュースなども、限られた時間内で一定の情報を話す必要があります。日本語では1音で伝えられる情報量が少ないため、これらのメディアではかなり速く聞こえるのでしょう。
日本語の沈黙という文化
日本文化には「沈黙」というコミュニケーション手段があります。たとえば、「すみませんが、その日は用事があって……」とか、「(そろそろ帰りたいときに無言で時計を見る)とか。
また、しばしば会話の中で「間」を取ることも多くあります。相手の話を聞いている間は静かにし、話すべき時に効率的に話すことで、双方が無駄なく意思疎通を図るというバランスが、発話速度の速さに反映されています。
世界一速い日本語は壁になる?
日本語の速さは世界一速いといわれますが、それは日本語学習に大きな壁となるでしょうか?答えは、イエスであり、ノーでしょう。確かに、日本語が速いと感じることで外国人学習者は日本語の勉強が嫌だと感じる可能性もあります。
しかし、日本の文化や伝統、アニメやマンガを通して楽しく勉強し続けている人も多いものです。楽しく勉強できる動機が存在する日本語。世界一の速さも、学ぶ楽しみの前では壁にならないのかもしれません。
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