明治時代の翻訳語一覧!明治期に日本語になった外来語・言葉・熟語は?借用語との違いと例

〇〇由来の日本語

「四字熟語ってかっこいいですよね。文明開化!富国強兵!坂本龍馬!」

 

「…最後のは人ですけどね。明治時代、たくさん外国語由来の熟語が生まれたんですよ。例えば、“恋愛”。明治時代以前は、この言葉はなかったんです。」

 

「ええ!?”恋愛”は外来語ってことですか?」

 

「厳密に言うと違います。これらの外国きた言葉を日本語に訳したものを翻訳語といいます。」

「外国からって、カルテとかグラタンとかと同じってことですよね?」

 

「外国語の音で伝わったものもあれば、翻訳されたものも、たくさんあるんですよ。今日は、明治時代に入ってきて、日本語になった翻訳語一覧を見ていきましょう。」

 

以前、英語はゲルマン語を基盤にノルマンフランス語、ノルド語などの足し算で作られた言葉だと解説しました。

参考:英語はなぜ共通語なの?いつから?メリット・デメリットは?

日本語も、中国などの大陸からきた言葉を基盤にし、足りない言葉を外来語で補う足し算的な要素があります。特に、明治以降は外国語からの借用語や翻訳語が増えていきました

 

 

明治時代の翻訳語と外来語

日本語は長い歴史の中で他言語の影響を受け、独自の進化を遂げてきました。特に、明治時代は日本語が大きく変化した時代で、外国から取り入れた言葉が多く存在しています。この時代には、翻訳語や外来語、借用語など新しい言葉が急増し、日本語の語彙が豊富になりました。

 

明治時代における翻訳語と外来語の増加

明治時代の開国後、西洋の学問や思想が日本に流入しました。それに伴い、日本語には多くの新しい概念が必要となり、学者たちは外国語を日本語に翻訳して新しい言葉を作り出しました。これらは「翻訳語」と呼ばれます。また、音のまま取り入れられた言葉は「外来語」や「借用語」として扱われました。

 

翻訳語と借用語の例・外来語との違い

そもそも翻訳語や借用語とは何なのでしょうか。翻訳語と外来語の違いとは何でしょうか。

【翻訳語】

翻訳語は、外国語を漢字や既存の日本語に変換して(翻訳して)作られた言葉です。

【翻訳語例】

社会、近代、権利、恋愛、彼、彼女など

【借用語】

借用語は外国語の音をそのまま取り入れた言葉です。これらは「外来語」とも呼ばれます。

【借用語(外来語)例】

 カステラ(ポルトガル語:castella)、ランドセル (オランダ語: ransel)、アルバイト(ドイツ語: Arbeit)、オートクチュール、ピアノ、アジトなど

「今まで紹介してきた「〇〇語由来の日本語」は全て借用語であり、外来語ということです。」

参考:○○語から日本語になった言葉一覧

フランス語/ドイツ語/イタリア語/オランダ語/ポルトガル語/ロシア語

「一方、中国語は漢字で入って漢字で日本語になっているため、翻訳語なのか借用語なのか微妙な言葉が多いですね。」

 

明治時代の外来語が翻訳語になった理由

ドイツ語由来のカルテやアルバイトのように、そのままの音で入ってきたものもあるのに、なぜ、わざわざ翻訳したものもあるんでしょうか?どうして、翻訳語は翻訳されたのでしょうか。

翻訳された言葉のほとんどは、学問や思想、政治経済用語に関わるもの。明治時代の学者は、語彙の意味や解釈、その意義を伝える必要がありました。

「そのためには、分かりやすい漢字と漢字の組み合わせによる翻訳が早道だったようです。」

「だからこそ、明治時代に多くの熟語が翻訳語として残されたんですね。」

 

明治時代の翻訳語一覧:哲学用語

明治時代に入ってきた学問の中で、最も翻訳の力が必要だったのが、哲学です。明治時代に西洋から導入された哲学が翻訳語の影響を受けました。当時の日本にはなかった概念を伝えるために、学者たちは新しい言葉を次々と創出しました。

「哲学というと、ソクラテスとかプラトンとか…ですよね。明治時代に日本に入ってきたんですね。」

「はい。それで、思想が異なる、そんな考え方をしたことがない日本人にも分かりやすい訳語をつくる必要がありました。」

哲学用語に関する翻訳語は、1881年明治初期に出版された『哲学字彙』による翻訳がほとんど。蘭学者・哲学者の西周や井上哲次郎らが翻訳したものが伝わっています。

「ただし、『哲学字彙』に載った漢字とは違うものが一般化していることもあります。」

 

哲学(てつがく)

「哲学」は、英語の「philosophy」の翻訳語。江戸時代に思想として重視されていた東方儒学特別するため、西周が造った言葉です。

「その他、理学、窮理学、希哲学、希賢学などの呼び名もありましたが、”哲学”に落ち着きました。」

 

暗示(あんじ)

「暗示」は、英語の「suggestion」の翻訳語。『哲学字彙』には「暗指」と紹介されましたが、1889年発行の明治英和字典では「暗示」とされました。

 

意志(いし)

「意志」は、英語の「will」の翻訳語。『哲学字彙』で紹介されましたが、明治中期から「意志」と「意思」が混同されました。

「当時は、”意志”を日常会話や哲学・心理用語として、”意思”は法律用語として区別されました。」

「……あれ?【意志】と【意思】の違いって何でしたっけ?」

参考:意思と意志の違い

 

印象(いんしょう)

印象は、英語の「impression」の翻訳語。『哲学字彙』で紹介。

「同じ漢字の仏教語”印象(いんぞう)”は、印影を押したように形がはっきりする様を表しました。」

 

環境(かんきょう)

環境は、英語の「environment」の翻訳語。『哲学字彙』では、「環象」と訳され、大正時代に「環境」という言葉で一般化しました。

「それ以前の”環境”は漢語で、”周囲の境界”という意味でした。」

 

恐慌(きょうこう)

恐慌は、英語の「panic」翻訳語。現代の私たちが「パニック」になり、恐れ慌てる様を指していました。『哲学字彙』では、「驚慌」と訳されています。

「経済的な意味を持つのは、19世紀末。実際に経済恐慌に陥った際のことです。」

 

常識(じょうしき)

常識は、英語の「common sense」の翻訳語。『哲学字彙』に収録されていましたが、1890年頃まで「常見」「常情」「通感」などの訳語も見られます。

「ちなみに、中国に逆輸入された熟語でもあります。」

 

象徴(しょうちょう)

象徴は、フランス語の「symbole(サンボーレ)」の翻訳語。『哲学字彙』では、「表号」とされていましたが、中江兆民の『維氏美学』で「象徴」と訳されて以降、一般化されました。

 

人格(じんかく)

人格は、英語の「personality」の翻訳語。『哲学字彙』では「人品」。「人格」は、井上哲次郎の造語で明治後期に定着したとされています。

 

絶対(ぜったい)

絶対は、英語の「absolute」の翻訳語。明治初期に井上哲次郎が、仏教語「絶待(ぜつだい)=他に並ぶものがないこと」を「絶対」と訳したもの。

「これが、英語の”absolute”の訳語としても使用されました。」

 

文化(ぶんか)

文化は、ドイツ語の「Kultur(クルトゥア)」の翻訳語。また、英語の「civilization」の翻訳語としても使われました。

「明治中期頃から、”civilization”は”文明”として区別されるようになりました。」

 

理性(りせい)

理性は、英語の「reason」またはドイツ語の「Vernunft」の翻訳語。『哲学字彙』ではドイツ語の訳語として紹介されました。

「”reason”や”Vernunft”は”理由”という意味の方が日常で使われますが、現代日本語の”理性(的)”という意味もあります。」

 

理想(りそう)

理想は、英語の「ideal」の翻訳語。西周が、明治時代初期に哲学用語として用いました。『哲学字彙』に収録。

「哲学用語以外の意味では、1878年頃から”現実”の反対語としても使われるようになります。」

 

明治時代の翻訳語一覧:心理学用語

心理学も、翻訳語の増加に一役買った学問のひとつ。哲学と心理学は関連する考え方もあり、翻訳語も同じものが使われることも多かったようです。心理学に関する翻訳語は、西周のものが非常に多いのが特徴です。

 

意識(いしき)

意識は、英語の「consciousness」の翻訳語。西周による翻訳で、明治以降は「目覚めているときの心の状態」を指すようになりました。

「それまでは仏教語でした。意味は、”心の働き”です。」

 

客観(きゃっかん)

客観は、英語の「object」の翻訳語。西周が訳した『心理学』に「主観」とともに心理学用語として登場。当時は「かっかん」と読まれていました。

「もともとは”立派な容貌”という意味の言葉でした。」

 

現象(げんしょう)

現象は、英語の「phenomenon」の翻訳語。西周による翻訳。それまでは仏教語「げんぞう=形として現れること」が一般的でした。

 

明治時代の翻訳語一覧:法律用語

富国強兵政策のために、明治政府は法整備も急ピッチで進めていきました。法律に関する用語や法律を作る上での考え方なども明治時代の翻訳語としてよく見られます。

 

義務(ぎむ)

義務は、英語の「obligation」の翻訳語。福沢諭吉の『学問のすゝめ』などに登場。近代中国の洋学書『万国公法』からの借用といわれています。

 

権利(けんり)

権利は、英語の「right」の翻訳語。こちらも『万国公法』からの借用語とされています。もともとは『荀子』にある「権力と利益」の意味でした。

 

個人(こじん)

個人は、英語の「individual」の翻訳語。

「もともとは”一個人”や”各個人”が使われていましたが、”個人”は略された形です。”箇人”とする場合もありました。」

 

社会(しゃかい)

社会は、英語の「society」の翻訳語。新聞記者で小説家の福地桜痴によるもの。

「1875年の初登場は新聞で、”ソサイチー”というふりがな付きでした。」

 

自由(じゆう)

じゆうは、英語の「liberty」「freedom」の翻訳語。既に明治時代以前の『英和対訳袖珍辞書』に記載があります。

 

版権(はんけん)

版権は、英語の「copyright」の翻訳語。初めて用いたのは福沢諭吉。自分の著作の海賊版が出回っていることに怒った福沢諭吉が、『版権論』を訳して東京都に訴えたことが始まりでした。

「1899年以降は、法律上”著作権”と呼ばれます。」

 

明治時代の英語・外国語由来の翻訳語一覧:その他の例

その他の学問や制度、思想に関する翻訳語もたくさんあります。西洋からの文化や芸術、制度や暦などに影響されて、日本語の翻訳語も増えていきました。

 

共鳴(きょうめい)

共鳴は、英語の「resonance」の訳語。

「物理学用語として日本で訳されましたが、明治時代後期頃からは”共感する”という意味でも使われるようになります。」

 

芸術(げいじゅつ)

芸術は、英語の「art」の翻訳語。明治期までは、「学芸・技術」を表す言葉でしたが、西洋文化の流入により、今の芸術一般の訳語として使用されるようになりました。

 

公園(こうえん)

公園は、英語の「park」の翻訳語。欧米のような公園制度導入とともに造られました。

 

肯定(こうてい)

肯定は、英語の「affirmative」の翻訳語。西周による論理学用語の造語。

「明治時代中期以降、”是認”の意味で一般化しました。」

 

人生観(じんせいかん)

人生観は、ドイツ語の「Lebensanschauung 」の翻訳語。1988年頃から「-Anschauung=-観」が使われるとともに生まれた言葉です。

 

世紀(せいき)

世紀は、英語の「century」の翻訳語。キリスト誕生を紀元とする西暦とともに日本に入ってきました。語源はラテン語で「百」を意味する「centum」。その他、「世期」など、さまざまな字が当てられました。

「明治時代初期、”百年”と訳されることもありました。」

 

先天(せんてん)

先天は、ラテン語の「a priori」の翻訳語。明治時代初期に西周に翻訳された言葉。

「もともとは、中国『易経』にある言葉で、”天に先立つ”という意味でした。」

 

背景(はいけい)

背景は、英語の「background」の翻訳語。演劇用語として使用され始め、同じように日常生活の言葉として使われました。

 

恋愛(れんあい)

恋愛は、英語の「love」の翻訳語。「恋慕」や「愛恋」なども用いられましたが、1890年頃から「恋愛」が一般化していきました。

「元々あった”恋”や”愛”を翻訳に使っても良さそうなものですが、これらは日本的な意味。欧米的な”love”を表すものとして改めてつくられました。」

「”愛しています”を夏目漱石が”月がきれい”ですねと訳したのが有名ですよね!」

 

明治時代翻訳語は新しい学問を新たな言葉で取り入れた結果

明治時代の翻訳語や外来語は、日本語の進化において重要な役割を果たしました。それまで存在しなかった概念や物品が次々と導入され、日本語の語彙が豊かになったのです。これらの言葉は、現代でも当たり前のように使われており、日本語の歴史を知る上で欠かせない要素となっています。言葉というものは、歴史と深く結びついています。日本語は特に、島国で育ったものなので、劇的な歴史の転換期とともに連動して変化しています。

日本語は、中国からの漢字に始まり、明治時代には西洋からの言葉を積極的に取り入れ、今日に至るまで進化を続けています。外来語や翻訳語がどのように日本語に影響を与えてきたのかを知ることで、言葉の背景にある歴史や文化の深さを感じることができるでしょう。日本語の起源を調べてみると、面白いことがたくさん見つかりますね!

 

前回記事:相撲由来の言葉|相撲/角力の起源は?漢字の由来と語源は?

次回記事:中国語でも使われる日本語由来の漢字とは?

 

コメント

  1. omosirokatta

  2. 授業で調べ学習のときに使えた。わかりやすかった

    • はい!

  3. 同じく

タイトルとURLをコピーしました